2-6 初取材

 取材の初日はお団子屋さんのグルメ・レポートだった。古くからある小さなお菓子屋さんで、和菓子などを売っているお店だった。


「……すると、冬のおばこやきは11月からなんですね」

 川村さんの取材が続いている。私は川村さんから手渡されたばかりのデジカメを、固く握りしめていた。


「ずんだとおしょうゆ、そしてゴマの写真をお願いしたいんです」

 お団子屋の中年女性がそう言って、三本のお団子を並べた。

「分かりました。黒崎さん、これ撮影してください」

「はい」

 私は、さっき使い方を教えてもらったデジタルカメラを構えた。デジタルカメラはコンパクトタイプで、プロのカメラマンが持っているような一眼のデジカメではなかった。


「ええと……。これで良し」

ピッ。


 デジカメのプレビュー画像を確認する。貧相なお団子にしか見えなかった。

「これで良いのかな……。川村さん、こんな感じでどうでしょうか?」

 私がプレビュー画面を見せると、川村さんは少し不機嫌そうに答えた。


「もっと寄って。接写モードで撮って下さい」

「はい」

 私はグッと近づいて、もう一度シャッターを切った。


 ピッ。

 プレビューを見ながら、一体どうやったら綺麗に撮れるのか、疑問に思った。

「あの、こんな感じで、どうでしょうか?」

 おずおずと私が川村さんに見せると、川村さんは困ったように頷いた。

「こう撮るのよ」

 川村さんは、私からコンパクトカメラを受け取ると、お団子にぶつかる位にカメラを近づけた。

「ちょっと、やってみて」

「はい」

 私は教えられた通りに、カメラを近づけた。


 ピッ。


「これでどうでしょうか?」

「そう、そんな感じよ。上手に撮れたね」

「良かった。三度目の正直ですね」

 川村さんがほほえんだ。

「やれば出来るじゃない」

「自分でも、そう思いました」

 川村さんが、穏やかに笑った。

「こっちのお茶も撮影お願いね」

「はい」


 取材は三十分位で終わった。結局五点程の商品を十枚ずつ位撮影した。


「この写真が、フリーペーパーに載るのよ」

 帰りの車中、川村さんが運転しながら話し掛けてきた。

「すごいことですね」

「そうなのよ」


 自分の書いた文章や撮影した写真が、何万部も印刷されて世の中に出る。考えただけで気が遠くなった。いま私は、すごいことをしているんじゃないだろうか。そんな想いが、胸をよぎった。

「私、もっと写真頑張ります」

「そうね。頑張り甲斐のある仕事だから」

 帰りの道は、あっという間だった。



 程なくして、私が初めて制作にかかわったフリーペーパーが「すきです山河市 第八十七号」が完成した。私は、印刷が上がるのとすぐに圭子叔母さんの家へと、フリーペーパーを持って行った。


「どうしたの、あんずちゃん?」

「圭子先生、ついに私、デビューしました」


 私は震える手で、刷り上がったばかりのフリーペーパーを圭子さんに渡した。

「この写真、私が撮影したんです」

「凄いね、あんずちゃん」


 それが、編集者見習いとしての私の初仕事だったのであった。



                           第二章 春爛漫 (結)

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