原風景

僕の定義

 冬の朝だったが、体はぽかぽかとしている。

 母の膝に座っていて、母の腕に抱かれていた。僕を撫でる手を捕まえて頬ずりした。怖い夢を見て飛び起きた後のことだ。道路を走っていて、前には母の車が走っていて、後ろからも車が迫る夢。涙が乾いたばかりの僕に、母は話をしてくれた。二つ下の妹の出産のために母は入院していた時期があって、その間僕は母方の実家に預けられていた。事を終えて実家に行くと、僕は知らない女を見るような目で祖父の背中に隠れていたという。


 ちょっとめまいがして、そんなことないよと言った。母は他にも、嫌いなイチゴをその頃は山盛り食べていた、という話も祖母から聞いていた。母と触れていないところが冷え込んできた。それ僕じゃないよ。そう否定しようとしたが、ぶるっと体が震えて上手く発音できなかった。


 母は微笑んでいた。僕は夢のことを思い出していた。母を追いかけるのに夢中で、後ろの車の車種もナンバーも色も確認する暇はなかった。

 

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原風景 @Ren0751

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