怪談奇談

すいむ

意味怖怪談

河童の棲む池 (『河童の棲む池』短編版)

「この話は少し前にMさんから聞いた話なんだけど――」


 

 廃墟化した集落跡に河童の住んでいる池があるって廃墟マニアや心霊スポットマニアの中で噂が流れてて姉貴分のTさんに誘われたんだー。

 私は友達Sを誘って、もう一人の友達Iと誘ってくれた発案の車を運転してくれるTさんとその妹Yさんの五人でそこまで行ったの。

 それでこの前短い心霊スポットツアーに行ったんだー。


 元々街からも細い道がかろうじて通っていて、険しい山々を越えて行かないといけないような場所の限界集落で、やがて人口が減ってついには離散して三十年くらい前に地図からも無くなった場所らしいんだよねー。

 当たり前だけどずいぶん前に放棄された集落だから荒廃した古い一階の家がぽつぽつとあって、もう手入れされなくなったから一部崩れてたりする建物もあってやっぱり危ない場所なんだなって感じだった。

 Iがキョロキョロしてて思ったよりも物が残ってるなってぼやいてて確かに崩れた納屋からボロボロの農具とかが残ってるのとかが見えたりもしてた。

 舗装されてない道なんて草がぼうぼうで物好きな廃墟マニアとかが通ったりしただろうトコだけがかろうじて道になってた。

 村の端の登った先にお寺はあって、門はまだあってその中の建物もまだ崩れてはいなかったけどかなり木が傷んではいるっぽかったかな。

 私自身は中が気になってはいたんだけど入ろうとは思わなかったかな。

 Tさんは「Mは危ないから来ちゃダメよ」と言いながら建物に入ってっちゃったんだよね、「なんかあったら大声で呼んで」と言ってズカズカ入ってっちゃった。

 仕方ないから目的地の池に残りの四人で池の側までやってきたんだけど、草取りとかしてないから草がぼうぼうで玉砂利や石畳があっただろう場所を離れると移動がさらに大変だった。

 ちなみに河童が出る池はお寺の池らしいんだよね。鯉が放されてたりする池で蓮が綺麗に咲いていて、池のほとりにお地蔵さんが居たの。

 その時は周りが鬱蒼と草がぼうぼうに茂ってたりする中でそこだけがいわゆる極楽浄土のようにも見えた気がしたんだ。

 Iが険しい顔をしていたりとある違和感に気付くまでは。

 自分のカメラで色々写真を撮っていたMが「あれ?」って声を上げたの。

 その子スマホでも色々撮ってたんだけど池の鯉を写真で撮ろうとしたとき池の鯉の柄が人の顔に見えたとかで「ひぇっ」て声を上げてたみたいだった。

 私は気の所為だと思ったけど確かにだんだん鯉の柄が人の顔に確かに見えてきたんだよね。

 一緒に居たYさんが「確かに子供の顔っぽいかも、でも」とか言ってて、心霊スポットだけにこんなこともあるのかと思っちゃったよー。


あながち間違いじゃないかもね」


 いつの間にかTさんが戻ってきていきなりそんなことを言ってきたの。

 戻ってきたTさんはどこか面白くなさそうな顔をしてた。

 Mがそれに対して「どういうことですか?」と言ってて、Tさんは少し考えて「子供には思った以上に刺激が強すぎるお話だから今はパスかな?」と言ってたんだけど、この中で最年少のYさんは「それだと納得できないからさわりだけでも教えてよ、お姉ちゃん」と言ったの。

 Tさんは「うーんと、そうね」と少し間を開けた後に話してくれたの。 


「ここ、流産や死産で生まれることが出来なかった子供、水子を供養する寺だったみたいよ。だからまぁ、子供の顔っぽい柄の鯉が居てもおかしくないかもね」


 この言葉があくまで「さわり」と言うことを忘れてそれで納得してしまったんだよね。Iはなんか物凄く深刻そうな顔をしてた。


 その後Tさんの車で下山し街まで送ってもらい解散して短い心霊スポットツアーは終わったの。


「この話を聞いたあとこの河童が何を指していたのかを知ってギョっとしたの。おそらくTさんはそれを知ってて、そして建物の中でいったい何を見たんだろうなって」


 その話を聞いた私はTさんが大人の人だったのは確かなんだろうな、ということとあの集落の廃墟に遺されたごうを見て何を思ったのだろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る