第20話
翌朝、ゴブリンの家に出勤してびっくりした。
何故って、ゴブリンの家の奥に洞窟が掘られていたから──。
掘っていたのはパパゴブリンと大きいお兄ちゃん。
本棚がある読書スペースの横の壁に、
出てきた土はちい兄ちゃんとちい姉ちゃんが手押し車で外に運び出していた。
この手押し車、昨日ちい兄ちゃんが分類していた道具の中に、バラバラな状態であったよね。
組み立てたんだ。
でも、なんで新しい穴を掘ってるんだろう?
意味がわからずにいたら、パパたちは掘るのを終えて得意そうにこっちを見た。
今度は食料が入った箱や
ああ、わかった!
食料をしまっておくストッカーを作ったんだ!
すると、ママゴブリンが私のエプロンを引っ張った。
こちらも得意そうな顔で入り口を示してみせる。
ん? なに?
よく見たら、入り口に扉代わりに下げた布が修繕されていた。
スライムに食べられてボロボロになった
わぁ、素敵!
入り口が綺麗になると、家全体が見違えるね!
改めて家の中を見回すと、一晩の間にいろいろなところに手が加えられていた。
布を敷いたチビちゃんスペースと、ちい兄ちゃんのコレクション棚の間には、刈り取られた青草が敷き詰められて、布がかけられていた。
これ、ゴブリンのベッドね。
チビちゃんがすやすやお昼寝中。
座布団をせっせと編んでいるのは大きいお姉ちゃん。
2つ完成させて、3つ目を作っている最中だった。
家族の人数分作るんだね。
ここに座ってご飯を食べたり暖まったりするんだろうな。
みんなが家の中を暮らしよくするのに大忙しだった。
自分たちで考えて動いているのがはっきりわかる。
うんうん、素敵!
みんなすごい!
では、そんな素敵なゴブリン一家に、私からもプレゼントを──。
私は家の外に置いたものを、よっこらしょと運び込んだ。
食料入れの
それを入り口の横に
目を丸くしているゴブリンたちに、壺の蓋を外して手桶から水を入れる
さらに、壺の中に入っていた
ゴブリンたちは水が必要になると、いちいち外へ汲みに出かけていた。
それはとても手間がかかることだから、家の中に水があるといいだろうと考えて、ホームセンターでウォータータンクとバケツを買ってきた。
それが、この世界に来たら、蓋付きの
昔、水道がなかった頃は、日本でもこんなふうに水を汲んでおいたんだよね。
ゴブリンたちも
大きいお兄ちゃんがさっそく水を汲みに行って、
水がすぐ使えるようになって、パパもママも大喜び。
「キー」
パパがおもむろに鍋を持ってきて、
新しい食料庫から食材を持ってきて、包丁と石のまな板で刻んで鍋に入れる。
器用なパパだと思っていたけど、お料理も得意なのね。
どの作業もとてもスムーズで、じきに熱々のスープが完成した。
いい匂いに子どもたちが
チビちゃんも目を覚ましてママに抱かれてくる。
パパは食器棚から出した
ちい姉ちゃんがそれを私のところへ運んでくる。
え? くれるの?
私に食べろってこと?
これはゴブリンたちのお礼なんだ、と気がついた。
私が手伝って家の中が整ったから、感謝の気持ちを込めて料理を作ってくれたんだろう。
気持ちがすごく嬉しかった。
嬉しかったんだけど……
ゴブリンって昆虫食もやってたよね?
もしかして、これにも虫が入ってたりして?
いや、さっきの食材の中に、虫みたいのあったよね?
干したタガメみたいなやつ……。
え、えぇ~っと……うんと。
イナゴの
しかも、この世界のゴブリン用の虫が私にも食べられるかというと……
でも、ゴブリンたちは私が尻込みしていることに気がつかなかった。
ちい兄ちゃんがニコニコしながら私に木のスプーンを渡し、全員の熱い視線が私に集まる。
こ、これはやっぱり食べるしかない……?
えぇい、ここは度胸!
思い切って器にスプーンを突っ込んで持ち上げると。
あれ?
これ──虫じゃない。鶏肉だ。
キャベツと玉ねぎとトマトが一緒に煮込んである。
ふわりと立ち上るバジルの香り。
ゴブリンのスープはチキントマトシチューに変わっていた。
そうか。
私の世界のお菓子やおにぎりが、ゴブリンに合わせてこっちの食材に変わったように、こっちの食材も私に合わせて変わったのね。
これなら私にも食べられるわ。
いただきまーす!
ゴブリンたちはスープが
ゴブリンたちのスープはトマトシチューにはならない。
パパは自分が作ったスープを私に食べさせられなくて残念だったかな。
でも、気持ちだけはしっかり受け取ったからね。
ありがとう──。
その後も細々した整理整頓は続いたけれど、私がすることはほとんどなかった。
誰もが自分で考えて整えては私に見せるから、私はそのたびに「すごーい!」「素敵!」を連発するだけだった。
でも、それが
とうとう夕方にならないうちに家の中は完全に片付いて、何もかもがきちんと綺麗になった。
(次回最終話)
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