第19話
さて、物がジャンルごとにまとまったところで、いよいよ収納。
ゴブリンの家に押し入れやクロゼットはないから、収納用品の出番です。
余談になるのだけれど、義父母が亡くなった後に実家の片付けをしたら、山のような収納用品が出てきた。
タンスやチェストはたくさんあったし、重ねられる収納ケースや収納ボックス、テレビや雑誌で紹介される便利な収納グッズも、本当に数え切れないくらいあった。
でも、義父母の家は雑然としていて、少しも片付いてなかった。
だからこそ片付けたくて、収納用品をいろいろ買ったのだろうけれど。
最初に「いる/いらない」「使う/使わない」で仕分けをして不要品を減らしておかないと、いらない物まで収納に入れることになって、物は増え続けちゃうんだよね。
物の種類によって適切な収納も違ってくるから、買ってみたけど使い勝手が悪くて結局使えなかった、なんてことも起きるし。
そうやって増えた収納家具や収納用品が部屋を占拠していて、実家はすごく窮屈だったし、動きづらかった。
現状に合っていない収納用品は、家を逆に不便にする。
使わない物を捨てて減らしてから分類して、それぞれのジャンルの量がわかったところで、収納を考えるのが順番なんだよね。
ゴブリンの家では、分類した物がそれぞれひとかたまりになって、10個の木箱が空になっていた。
さてさて──。
私は部屋を見回して言った。
「この機織り機、部屋の真ん中にあってちょっと邪魔だよね。もっと奥に動かそう」
言って通じなければ、やってみせればいい。
機織り機に手をかけて動かそうとすると、すぐにパパゴブリンと大きいお兄ちゃんが飛んできて、よいしょ、という感じで機織り機を持ち上げてくれた。
「これをあの窓の下に置こう。手元が明るくなって、ママも機織りしやすくなるはずだよ」
と部屋の奥の天窓の下へ誘導。
本当は、最初からこの場所が機織りに一番良かったはずなんだよね。
それをやってこなかったのは、きっとスライムのせい。
窓から入り込んだスライムに、せっかく織った布を食べられたら大変だもんね。
でも、その心配ももうなくなった。
ママには安心して機織りしてもらおう。
機織り機の横には布を敷いた。
ここはチビちゃんのスペース。
ママは機織りしながらチビちゃんの様子を見守れるよね。
小さめの木箱を置いてチビちゃんのおもちゃを入れたら、チビちゃんはさっそくおもちゃ箱に駆け寄った。
布の上におもちゃを広げて遊びだしたので、他のゴブリンが、おお、という顔をする。
お次はおしゃれ好きな大きいお姉ちゃんのための場所。
機織り機を挟んで反対側の横も、天窓の光で明るい。
そこに木箱を伏せてデスクのようにして、鏡を載せて壁に立てかけた。
うん、うまい具合に木の根の間に鏡が引っかかったから、倒れる心配はなさそうね。
デスクに櫛やアクセサリを置いて見せたら、大きいお姉ちゃんはぱぁっと顔を輝かせた。
集めてあった腕輪やネックレスや髪飾りをデスクに綺麗に並べ始める。
もう少し小さくて浅い箱に入れられたら、もっと片付きそうだけど、今はとりあえずこれでいいね。
知りたがり屋の大きいお兄ちゃんは本が大好き。
休憩時間になると壁のくぼみに体を収めて、ずっと本を読んでいる。
うん、そこが大きいお兄ちゃんの場所だよね。
木箱を横に置いて本を立てて並べて、はい、本棚ね。
読んだ本は傷まないようにここに入れてね。
本が増えたら、上に木箱を重ねるといいよ。
ちい兄ちゃんとちい姉ちゃんはそれぞれ自分のコレクション棚があるから、棚の下にひとつずつ木箱を置いてあげた。
なんでも自分の物を入れていい場所。
ちい兄ちゃんは石のコレクションが棚に並びきらなくなっていたから、載らない分を箱に収めて、考えながら棚の石と入れ替え始めた。
そうだね。
全部並べなくても、そうやって時々入れ替えすれば、新鮮な気持ちで眺められるよね。
ちい姉ちゃんは自分の箱に木のスコップや木の枝や木の実を入れて、満足そうだった。
ミントモドキを採ってきたときにとても嬉しそうにしていたから、そのうちガーデニングも始めるかも?
分類された物が、持ち主や使う人の手で整理されていった。
物の山がどんどん減っていく。
さあ、ではいよいよママゴブリンの番。
外に置いてあった
「こんな素晴らしい物をもらっていいの!?」
と言ったみたいだった。
どうぞどうぞ。
元はホームセンターで安売りになっていた型落ち品だし。
ママは長持の蓋を開けて、家族の服をしまっていった。
本当に状態がいい服だけを厳選していたから、余裕はたっぷり。
ママがこれから作る服もしまっておける。
ママは薬の壜や薬草も同じ長持にしまった。
どうやら大切な物を入れる場所にするみたい。
うん。これなら薬が必要なときに誰でもすぐに見つけられるね。
パパゴブリンは──
私はわざと彼には収納の箱を渡さなかった。
何故って、パパはちい兄ちゃんがまとめてくれた工具箱の道具と、集めてあった材木や板で、次々いろんなものを作っていたから。
木箱に蓋を付けて、食料品の貯蔵庫に。
別の木箱は横にして棚板を渡して、食器棚に。
さらに
いや~、パパすごい!
本当に器用だわ!
夢中で収納していくうちに、終業時刻が来てしまった。
まだ物はいろいろ残っていたけれど、ゴブリンが自分たちで整理できそうなので、後を任せて帰ることにした。
バイバイ、と手を振ると、みんなバイバイと手を振り返して、また収納に戻っていった。
うん、これなら大丈夫だね。
片付けはあともう1日くらいかな──。
そんなことを考えながら、私は家に戻っていった。
(つづく)
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