第6話

 ゴブリンたちと一緒になって分別を続けて、ついに1番目のブロックから物がなくなった。

 たたみ一畳くらいのスペースだけど、土の床が見えるようになって、ゴブリンたちが珍しそうに立ったり飛び跳ねたりしてる。


「いる」物を入れた木箱は満杯山盛り状態。

 家の外にはその十数倍の「いらない」ものが山になっていた。

 う~ん、1ブロック片付けただけでこれかぁ。

 後始末も大変そうだな。


 そんなことを考えていたら、急にエプロンのポケットで音が鳴りだした。

 ゴブリンたちがびっくりして飛び上がる。

 私も驚いてエプロンに手を突っ込んだ。

 何故って、鳴りだしたのは私の携帯だったから。

 まさか、ここまで電波が届いているの!?


 と思ったら、画面に表示されていたのは見知らぬアプリだった。

『終業時刻』というメッセージと共に音楽が鳴っている。

 なんだか懐かしい曲……あ、「遠き山に日は落ちて」だ。

 気がつけば、薄暗い森の中はなお暗くなっていた。

 どうやらもう夕方になっていたらしい。

 携帯には時計も表示されていた。

 午後5時。

 なるほど、終業時刻ね……って。


 このアプリはなに!?

 ひょっとして、今回のこのヘルパーの仕事のアプリ!?


 調べてみたら、その通りだった。

『異世界ヘルパー管理システム』なんてお堅い名前がついてる。

 終業時刻の文字をタップしたら、

『お疲れ様でした。明日は午前9時からよろしくお願いします。』

 とメッセージが出てきた。


 はぁ、明日は9時からですか。

 で、私は家に帰れるの? 帰れないの?

 今日の仕事は終わりだと思ったら、急に疲れが出てきた。

 ぼーっとした頭でそんなことを考える。


 すると、私のエプロンをゴブリンが引っ張った。

 私をここに連れてきた、最初のゴブリン。

 心配そうな顔で私を見上げている。


 気がつけば、他のゴブリンも同じような顔で私を見ていた。

 どうやら私の今日の仕事は終わりだと、彼らも気がついたらしい。

「少しは片付いたけれど、これで終わりにされたらどうしよう」

 と考えているんだろうな、と想像がついた。

 家の中はまだまだものすごい状態だし、捜し物もまだ見つかっていないしね。


「うん、大丈夫だよ。

 明日もまた手伝ってあげるからね」

 しゃがんでゴブリンに話しかけたら、彼(?)はほっとした顔をした。

 通じたみたい。

 そのとたん、ゴブリンの顔が急にかすんで見えなくなって──私は自分の家のリビングにいた。


 私の前のテーブルにはタブレットと、冷たくなったコーヒーのカップ。

 おやつに食べたフィナンシェの空き袋もそのまま残っていた。

 ああ、自分の家に戻ってきたんだ。

 私はほっとして、ソファにごろりと横になった。

 う~ん、疲れたぁ。

 疲れたってことは、やっぱりあれは本当だったってことだよね。


 もう一度携帯を見てみると、『明日午前9時から』の文字だけがあった。

 はいはい、明日また9時からですね。

 あぁ、お腹すいた。

 そういえば、今日は昼ご飯を食べていないんじゃ……


 私はがばと跳ね起きた。

 時計は午後5時15分。

 あと45分で次男君が、その30分後には旦那が帰宅する。

 急いで夕飯の支度をしなきゃ!

 え~っと、手間がかからなくてお腹いっぱいになるメニューは──


 私は頭の中で献立を考えながら、台所で米をとぎ始めた。


(つづく)

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