第4話

 大木の根元の穴を利用したゴブリンの家。

 そこは想像を絶するほど散らかっていた。


 家は言ってみればワンルームで、8畳間くらいの広さがあるのだけれど、その一面にゴミがあった。

 あ、いや、たぶんゴブリンにしてみればゴミじゃない物もたくさんあるんだろう。

 だけど、私の目にはどれもゴミにしか見えない。

 木の枝、木の実、石、枯れた植物、干からびたキノコ、動物や魚の骨、とまるでゴミ箱の中身を家中にぶちまけたよう。

 それが私の膝のあたりまで積み重なっている。


 さらにゴミの中には壊れた壺や箱、私には正体がわからない何かや、ボロボロの布きれなんかも大量に混ざっているし、食料らしいものもちらほら見える。

 放置されてからかなり時間が経っているんだろう。

 部屋全体から鼻をおおうような悪臭がしているし、ここが日本なら、たぶん「あれ」もいそうな状況。

 うん、Gがつく「あれ」。

 この世界にもいるのかな……。


 ゴブリンの世界にも汚部屋おべやってあるんだ、と妙に感心して眺めてしまったけれど、問題はその上に這いつくばって動き回るたくさんのゴブリンだった。

 全部で六、七匹いたけれど、どう見ても何かを探している。

 あっちのゴミ(失礼)をがさがさ、こっちに積み重なった物をごそごそ。

 掘り起こしたり、かきまわしたりしながら、物を放り投げていく。

 放り投げた物が別の場所に落ちて重なる。

 そこをまた別のゴブリンがごそごそ掘り始める。

 あ~、もう見てられない!


「そんなことやってたら、いつまでたっても捜し物は見つからないよ!

 もっと系統立てて探さなくちゃ!」

 思わず声を上げると、這い回っていたゴブリンたちがいっせいに飛び上がった。

 捜し物に夢中で私に気がついてなかったらしい。

 たちまち部屋の一カ所に集まって、キーキー鳴きながら私をにらむ。

 一回り大きなゴブリンが前に出てきて、私に何かわめいた。

「なんでここに人間がいるんだ!?」

 そう言っているように見える。


 すると、私を連れてきたゴブリンがキーキー何かを話し始めた。

 説明しているらしい。

 私を「頼んでいたヘルパーだ」とでも言ってるのかな。

 とはいえ……依頼は捜し物だったよね。

 この部屋でかぁ。

 これはものすごく探し甲斐がいがありそうだわ。

 私はため息をつきながら部屋の中を見回した。



 世間では「断捨離」というのが流行っている。

 持っているものを捨てて減らして、ほんの少しだけの必要な物でゆとりある暮らしをしよう、という生き方の提言。

 雑誌や本でずいぶん取り上げられていて、私も一時期片端から読みあさった。

 というのも、私自身が片付けをする必要に迫られていたから。


 片付けなくちゃいけなかったのは、旦那の実家。

 義父母は昭和の高度成長期に働き盛りだった世代なので、ご多分に漏れず、実家には山ほど物が溜め込んであった。

 粗品やいただきもののタオルなんて何百本発掘されたかわからない。

 しゅうとしゅうとめが死ぬまで毎日使い捨てをしても間に合ったんじゃないか、と思うほどの量だったけど、彼らはそれをしまい込んだまま、いつも同じ古ぼけたタオルを使っていた。

 二人の口癖は「だって、もったいないから」。


 結局、二人は溜め込んだ物を「もったいない」と使わないまま、相次いで亡くなってしまった。

 そして、その後の片付けには膨大な時間がかかった。

 リサイクルショップで売れるような物はまだ良かったけれど、長年しまい込んだ衣類やタオルは、新品なのにしみが出たり色が変わったりしていて、売ることもあげることもできなくて、全部処分するしかなかった。

 使わないでしまい込んで死蔵させる方が、よほど「もったいない」と、私はその時に痛感した。



 今、私の目の前にあるゴブリンの家は、乱雑さでは旦那の実家の上回っていたけれど、なんとなく同じような匂いがしていた。

「もったいない」「もったいない」と溜め込んでいって、どんどん上に物が積み重なって、下にある物がわからなくなったり取り出せなくなったりした家。

 取り出せないから、また同じような物を手に入れて積み上げる悪循環が起きている家。

 これを解決するには、家全体をリセットするしかないんだよね──。


 そんなことを考えている間に、ゴブリン同士の話し合いは終わったらしい。

 一回り大きなゴブリンが、渋々という感じで私を見上げて、体を横に動かした。

 部屋全体を見せるような動作。

「捜し物を手伝ってくれ」と言っているのね。


 でも、これだけすごい部屋だと、片付けも捜し物も簡単には進まない。

「ちょっと待ってて!」

 私はゴブリンに言って外に飛び出した。


(つづく)

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