ゴブリン森のヘルパーさん

朝倉玲

第1話

「う~む、就労ねぇ」


 私は新聞の求人広告をコタツの上に広げて、ぼんやり眺めていた。

 今日のコーヒーのお供はフィナンシェ。

 最近のコンビニスイーツはほんと美味しくなったよね。


 求人は見るけれど、あんまり気合いが入らない。

 アラフィフだけど、いろいろあって、まともに外で働いた経験がない私。

 三十年間、専業主婦しかやってこなかったから、即戦力になるような特技も資格もなければ、これから何かを覚えて戦力になれる自信もない。


 まともにできるのは家事料理くらいだけど、家政婦になれるレベルじゃないし、調理師免許がないから、調理関係の仕事も無理。

 介護の求人は多いし、高齢者の自宅に掃除や料理をしに行く仕事はあるんだけど、最近体力が落ちてきてるから、疲れて具合が悪くなったら、会社にも利用者にも迷惑かけちゃうよねぇ……。

 この手の求人は若くて体力がある人を募集しているんだろうし。

 うぅん。


「やっぱり家計節約で乗り切るしかないか」

 声に出して広告を閉じて、古新聞の回収袋へシュート。

 あ、うまく入った。

 こんなことだけスムーズにいくなんて、と少しおかしくなった。


 2杯目のコーヒーを入れて、今度はタブレットの電源をオン。

 ネットはいいよね。基本無料だもの。

 制限はあるし最新巻も読めなかったりするけど、漫画も人気の雑誌も読めるし。


 その前にSNSをチェックしよう。

 といつものようにSNSを開こうとしたら……


 あれ? なんだこれ?

 ポップアップウィンドウが開いてメッセージ風の文字が並び始めた。



『急募』

 大事なものを見つけられなくて困っています。

 捜し物を見つける手伝いをしてもらえませんか?


【職務内容】ヘルパー

【労働時間】捜し物が見つかるまで

【労働場所】異世界の森

【賃金】…



 は?

 ちょい待ち、異世界の森って……??


 一瞬ぽかんとして、すぐに気がついた。

 なぁんだ、これ、ゲームのCMだ。

 新しくリリースされたゲームを遊んでくださいってことね。


 納得しながらさらに読んでいったら、募集者氏名にはこう書かれていた。


『森のゴブリン』


 なるほど、ゴブリンと来ましたか。

 ファンタジー風ゲームだけど、いわゆる討伐ものじゃなく、お手伝いクエストをこなしていくタイプみたいね。


 私は反射神経が鈍いから、ゲームは苦手でほとんどやらないんだけど、息子がやってるせいで、そこそこ知ってはいる──つもり。

 旦那もRPGは昔から好きだったしね。(最近の作品にはついていけないみたいだけど)

 それに……ああ、まあ、そんな話はどうでもいいか。


 ゴブリンたちの捜し物を一緒に見つけてくれってゲームかぁ。

 かわいいキャラクターなら、やってみてもいいかな。

 無料ならね。

 節約しなくちゃいけないんだもの、有料だったら即「さようなら」だわ。


 そんなことを考えながら、タブレットのウィンドウの下のボタンをタップした。

 ボタンに書いてあった文字は

『求人に応募する』


 すると。


 私は広い草原に一人ぽつんと立っていた。


(つづく)

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