僕のことが嫌いすぎるあいつ
みきたろう
序章 「ガチなやつ」
今年も、出会いと別れの季節がやってきた。
桜が舞い、各所では親睦を深めるための花見が行われたり、クラス替えなどによる新たな仲間との出会いに期待と不安を抱えたり。
四季折々の変化に富む日本の中でも一際人気が高い季節の春。
皆が皆、胸をおどらせる。
それは、今年高校二年生を迎える僕たちとしても例外ではなかった……はずであった。
花粉症日本代表候補の僕としてはそもそもこの季節は論外である。というかもはや憎んでいると言っても過言ではない。
そしてなにより……ここ最近、気になっていたことが事実と分かったのだ。
___「弓野菜穂が、三森のことを嫌っている」
弓野菜穂は、クラスどころか、学年全体でのマドンナ的存在であり、成績優秀、品行方正、スポーツ万能、超絶美人。
DQNからキモオタまで誰とでも分け隔てなく快活に接する、最早2年のアイドルと言っても過言ではない存在。
いつからだろうか。そんな彼女が、僕のことを嫌っているという感覚を感じ始めたのは。
一年生の秋。席替えをして弓野の隣になった時だった。彼女は異常に机を離したがったり、ペアワークの時も無視を貫いたり、1時間ずっとペアワークだった授業は事前に保健室に行って休んでたり……
いずれにしろ「マドンナ、弓野菜穂」にはあり得ない行動だ。
初期は自意識過剰だと思ったし、当時ラブコメライトノベルを読み漁っていた僕としては「なるほど、これが俗にいう好き避け的なね?」などと妄想甚だしい解釈をしてみたりもした。
そもそも元々僕は友達がいない。かといっていじめられたり、変な噂が立てられているわけでも無く、基本1人で過ごしていた。
そのため、仮に噂が出たとしてもそれが僕の耳に入ることは無い。
感覚を確かめる方法は自身の感覚しかない。
だから僕は、次第に気のせいだとか、自意識過剰が過ぎたな、とか思うようになっていった。
それが確信に変わったのは、ついこの前、3学期の終業式。
僕はいつも教室へ来るのが早い。誰もいない朝の教室の雰囲気が好きで、人が来るまでの1人の時間を嗜むのがちょっとした趣味なのである。
その日も例に漏れず早めに登校したのだが、朝に飲んだ賞味期限3日切れの牛乳が祟り、静かな教室の雰囲気を楽しむまでもなく朝っぱらからトイレに引きこもっていた。
用を済ませ、教室へ戻ろうと廊下を歩いていると。
ガン、ガン……
何かを叩くような、妙な音が耳をついた。
おかしい。この時間帯はまだ誰もいないはずなのに。
しかもその音は、僕の教室に行くにつれ大きくなっていく。
ガン、ガン…
どうやらそれは、僕の教室から発せられているようだ。
僕は息を殺し、微かに空いている教室の扉から中を覗く。
「ほんとうざい……うざい……うざい……」
ガン! ガン!
そこにいたのは、怨恨を吐き散らしながら机窓際一番後ろの机……僕の机を蹴る弓野菜穂の姿だった。
なぜこの時間に?
いつも来るの遅いだろう?
そしてなんで僕の机を蹴っている?
そしてなんでその行為に怨恨が添えられている?
あの弓野菜穂が……?
僕の頭の中をありとあらゆる疑問が渦を巻いているのを感じた。
と同時に、今までの「嫌われている」疑惑の元となった彼女の言動がフラッシュバックした。
そして、僕が辿り着いた結論。
「これ、ガチのやつじゃん。」
最早嫌悪というか殺意に近いものがあるが、これが僕が弓野菜緒に嫌われている確たる証拠である。
ラブコメライトノベルでよくある好き避けなんかじゃない。
弓野菜穂は、心の底から僕を憎んでいる。
だがしかし、今日から僕は高校2年生。
そして、待ちに待ったクラス替えがある。
僕は期待に胸を躍らせながら新クラスが書かれた掲示板へと歩みを進める。
僕はこの日のために徳を積んできた。
春休みにも関わらず早寝早起きを心がけたし、道端に落ちていたカタツムリを脇へ戻してあげたし、ポイ捨てされたペットボトルをゴミ箱に捨てた。
完璧だ。
こんな善の塊の様な行いをした僕を神様が見捨てるわけがない。
そして僕が望むのはただ一つ。
「弓野菜穂と離れたい___!」
息を呑む。
2ーBクラス、窓際一番後ろに僕の名前を見つける。
よし、席ガチャは大当たりだ。
あとは弓野菜穂だけだ。
と、思ったその時だった。
僕の席のすぐ横に、例の名前を見つけたのは。
三森 弓野
考える限り最悪。
僕は神様を憎んだ。
2度と善業なんてしてやるかと思った。
「僕の、平和な、高校生活が……」
僕の中で何かが崩れていく音がした。
が、こんなのは序章に過ぎなかった。
これから先、僕は、異常に弓野と関わっていく。
というか、関わらざるを得ない状況へと陥っていくのであった____
僕のことが嫌いすぎるあいつ みきたろう @miki_taro07
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