全裸土下座

 アルフレードは頭を抱えていた。

 見るも無惨な汚れ方をしたローション坂は勝手に片付くのでまだ良い。

 だが、汚すきっかけを作ったリリムがドヤ顔で帰還し、隣に座ってニコニコとアルフレードを見上げているのが問題だった。


「ああ、その……」


 片付くとはいえ、シコリ豚達にダンジョンを汚されるのは心情的に無理だ。

 当然、リリムに注意するべきだが、褒められ待ちのリリムを前にして、アルフレードは注意出来ないでいる。


「リリム殿……あれは何だったゴブか?」


 アルフレードの代わりにゴブ蔵が話し出した。

 

「リリなりに頑張りました! 上手くいって良かったですぅ♡」


 アルフレード達の顔が引き攣る。

 二人は押し付け合うかのように見つめ合った。


「ゴブ蔵……後は――」

「きょ、今日は体調が悪いので寝るゴブ!」


 ゴブ蔵は一目散に逃げた。

 残されたのはアルフレードと褒められ待ちのリリムだけだ。


 アルフレードは心を鬼にして説教を始める。

 褒められ待ちのリリムを叱るのは辛いが、このままダンジョンを汚す訳にはいかなかった。


「リリム……あれは無い」

「……へ?」


 アルフレードは何故侵入者達が痴態を晒す事を嫌うのかを丁寧に説明した。

 そして、リリムがシコらせた豚達が配信者ではなくただの豚で、痴態を晒させても何ら意味は無いと告げた時、リリムは顔を伏せた。


「ごべんなざいまずだぁ……」


 泣き出したリリムを見て、アルフレードはふぅと息を吐く。


「まぁ、とりあえず服脱げよ」


 アルフレードとしては、ローション塗れの服をなんとかしろといった意味でそう言った。

 だが、リリムは別の意味に解釈する。


「そういう趣味だったんだぁ……」


 ぼそっと呟いたリリムは、一瞬妖艶な笑みを見せた。

 すぐに表情を戻し、落ち込む素振りを見せたリリムは、アルフレードに言われた通りに服を脱いでいく。


 リリムの行動に戸惑うアルフレードを置き去りにして、リリムはアルフレードの目の前にちょこんと正座し、傍に綺麗に畳んだ衣服を置いた。


「すみませんでしたぁ……」


 全裸土下座を決めたリリムは勝ち誇った顔をしていた。

 アルフレードのアブノーマルな趣味には驚いたが、こんな趣味の持ち主ならば、エロに耐性のあるサキュバスくらいしか相手は務まらないと考えたのだ。


「お、おい! やめろよ、何してるんだ!」


 慌てふためくアルフレードの言葉を聞き、リリムはアルフレードが欲望のまま振る舞うには理由が必要なのだと考える。


「これは、誠心誠意謝る時の儀式ですぅ」

「そ、そうなのか? わかったから、もう止め――」

「許して……くれるのですか?」


 リリムは頭を下げたまま、アルフレードの右足を掴む。


「では、このまま頭を踏みつけてください」

「……は?」

「それが、相手を許したという証明なんですぅ」


 固まるアルフレードを促すように、リリムは右足を掴む手に力を入れた。

 促されたアルフレードは、抵抗する事なくリリムの頭を踏みつけた。


「ああ、マスター♡ もっとぉ……」

「も、もう良いだろ! 許すからさ……」

「まだ……まだぁ!」


 全裸の美少女を土下座させ頭を踏みつける。

 そんな最悪な姿を見られていたとは、動揺していたアルフレードは気付けなかった。


 ――そして、翌日。

 アルフレードの目の前には、全裸のゴブ蔵が正座していた。


「どうかお許しを、マスター! 次の作戦……次の作戦はまだないゴブ!」


 リリムが言った、誠心誠意謝る時の儀式という言葉を信じ切ったゴブ蔵は全裸土下座を決めた。


「ま、マスター! 絶対踏んだら駄目ですよ!」


 リリムは焦る。

 アルフレードがゴブリンの……それも男であるゴブ蔵に、全裸土下座頭踏みを決めている所なんて見たくなかったからだ。


「まぁ、確かに、次の作戦がないくらいで謝る事もないな」

「そ、そうですよ、マスター! ほら、ゴブ蔵君も服を着て――」

「寧ろ謝るのは俺だ! 着任して日が浅いというのに……ゴブ蔵には負担をかけすぎた」


 アルフレードは静かに立ち上がる。

 そして、服を脱いで綺麗に畳み、座っていた椅子に置く。


「ゴブ蔵、すまなかった」


 ゴブ蔵のすぐ側に正座したアルフレードは、そのまま全裸土下座を決める。


 その様子を見たゴブ蔵は、目に涙を浮かべながら全裸土下座を決めた。


「不甲斐ないゴブが悪いゴブ! マスター、踏みつけてほしいゴブ!」

「いや、俺が悪いんだ! ゴブ蔵こそ踏みつけ――」


 リリムは無言で二人の頭を交互に踏みつけた。


「えっと……リリム?」

「リリム殿……」


 戸惑う二人を前にして、リリムはキリッとした顔で叫ぶように言う。


「はい、リリが二人を許しました!」

「お、おお、そういうのもアリなのか?」

「アリですっ!! だから二人とも、そんな変態みたいな事はやめなさいっ!!」


 リリムに叱られた単純な二人は、頭を踏まれながらも、許された事に喜んでいた。

 

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