ダンジョン配信者共に鉄槌を! 〜エロトラップダンジョン運営記〜

ロマンシング滋賀

ダンジョンの危機

 魔の軍勢が世界を渡る術を身に付けて早十年。

 魔族にとっては生命線である上質な『マナ』が、『アース』の人々から採取できると知った魔族達は、こぞってアースにダンジョンを創造した。


 ダンジョンは侵入者のマナを緩やかに採取する。

 集められたマナによって、自らや配下の強化、ダンジョンの拡張などを行うことが出来るのだ。


 ダンジョンは危険と報酬のバランスが肝だ。

 危険が勝りすぎては人々の足は遠のき、報酬が過剰だと得られるマナ以上の物を奪い取られてしまう。


 バランスが大切なんて事は魔族なら皆わかっていた。

 だが、こぞってダンジョンを建てた為、人々を集める攻防の中で、報酬にバランスが傾くダンジョンが多発した。


 アースの人々の間で報酬が甘すぎるダンジョン攻略が流行るのは自然の流れ……。

 魔族側は赤字ではあったが、アースの人々の間にダンジョンという存在が受け入れさせる為の必要経費だと考えれば許容は出来た。


 だが、ここで魔族側は致命的な失敗を犯す。

 集めたマナから『スキル』を創造し、それを報酬として与えるダンジョンが表れ、人間達を瞬く間に強くした。

 今は亡きそのダンジョンは、何を思ったのか攻略者の前でスキルを創造していたのだ。

 その考え無しの行動のせいで、人々はスキル創造を覚え、スキルを獲得する為にダンジョンを攻略するようになった。


「うっ……うぅ……」


 アースに現存する最古のダンジョン。

 人々から迷路と呼ばれるそのダンジョンで、一人の男がダンジョン全体を映し出すモニターの前で泣いていた。


 彼の名は『アルフレード』

 魔獣の一体すら配置せず、迷路一本でダンジョンを経営していた変わり者だ。


「ダンカメが……憎い!!」


 アースの人々がスキルを駆使し開発したダンジョン専用カメラ――通称『ダンカメ』

 

 使用者に追従し、自動的に動画を撮影するという単純なものだ。脅威はない、そうアルフレードは思った。

 だが、その考えは誤りだった。人間達は撮った動画を配信するという暴挙に出たのだ。


 ただの迷路が動画に撮られ配信される。

 するとどうなるか? 皆が皆、事前に正解ルートを頭に入れてダンジョンに入るようになる。

 迷う事のなくなった迷路など、もはや迷路ではない。ただの道だ。


 ドン、ドン、ドンッ!


 今日もダンジョン最深部に繋がるドアが、侵入者によって叩かれる。

 固く閉ざしてはいるが、破壊されればそれまでだ。

 アルフレードは部屋に篭り震えながら、侵入者達が諦めるのを願い、息を殺していた。


「い、行ったか……」


 今日のところは耐えたが、扉を破られるのは時間の問題だ。

 アルフレードは助けを求めて、上役である魔王に連絡を取った。


「ユメ――魔王様! このままでは我が迷宮は――」


 アルフレードは必死にダンジョンの今を説明する。


「配下でも送りましょうか?」

「それで頼む!!」

「自分で戦えば良いと思いますけど……」

「それは、嫌だ!」


 アルフレードはきっぱりと戦闘を拒否して通信を切る。

 ただの迷路をダンジョンだと言い切るアルフレードは、戦闘嫌いの変わり者だった。


「配下が来るまで何とか耐えねば……」


 ダンジョンが集めたマナを自動的に貯蓄していく瓶形の魔道具『マナービン』

 そのマナービンに手を翳し、スキル創造の為の呪文を唱える。


 ――当たりよ、来いッ!


 完全ランダムなスキル創造。

 ここで外れを引けば目も当てられないが、アルフレードはこつこつ貯めたマナと引き換えに、それなりに使えそうなスキルを引いた。


 スキル名は『不可視の手』

 発動者以外には見えない手を召喚し、自在に操る能力だ。


「離れていても操作出来るのか……悪くないな」


 気を良くしたアルフレードはもう一度スキル創造の呪文を唱えようとした。

 だが、突如表れた魔法陣に遮られる。

 魔王が約束通り配下を送って来たのだ。


 ――当たりよ、来いッ!


 スキルガチャで当たりを引いたアルフレードは、配下ガチャでも同じように当たりを願う。


 段々と光が収束していき遂には魔法陣が消えてなくなる。

 残されていたのは、二人の配下達だった。


「お初にお目にかかりますゴブ。本日付けでアルフレード様の配下になりました『ゴブ蔵』と申すゴブ。作戦立案などが得意ゴブ!」


 自己紹介するインテリ風な眼鏡をかけたゴブリンを前にしてアルフレードは思う。


 ――もっと強そうなのを寄越せよ。


「あわわわわわわ……」


 もう一体の配下は自己紹介すらまともに出来ないようだった。


「えーと、そこのサキュバスよ。名前は?」

「り、リリムでしゅ」


 自己紹介で噛んだリリムは、耳を真っ赤にしてぷるぷるしながら顔を伏せた。


 やや短く揃えられたピンク色の髪。

 小柄で幼顔な美少女。

 非常に庇護欲を駆り立てられる容姿ではあるが、戦力になるとはとても思えない容姿でもある。

 

 ――まぁ、良いか。可愛いし。


「ゴブ蔵、リリム、よく来てくれた。早速だが本題に入ろう」


 初めての配下を前にしたアルフレードは、普段よりも五割り増しで表情をキリッとさせた。


「現在、我がダンジョンは危機に直面している! この危機を脱する事が我々の任務である!」


 配下の前という事もあり、格好の良い言い回しをするアルフレードだが、内心はこうだ。


 ――誰か俺を人々の魔の手から助けろください!


 


 

 


 

 


 

 

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