基本所得の街

星咲 紗和(ほしざき さわ)

プロローグ

雲一つない碧い空の下、サンノソの町はその日もいつも通りの平穏を保っていた。小さな商店が軒を連ねる通りは、穏やかな日常のざわめきで満たされている。しかし、この静謐な風景の裏で、町の住民たちは大きな変化の波に直面していた。


国から突然の発表があった。ベーシックインカムの試験導入が、このサンノソで行われるというのだ。試験的ながらも、すべての成人住民に月額10万円が無条件で支給される計画である。このニュースは、町中に衝撃とともに一筋の希望をもたらした。


ジュンはその日、失業してから初めての明るい朝を迎えていた。彼にとって、この給付金はただの援助以上の意味を持っていた。それは新たなスタートのチャンスであり、長い間抱えていた不安からの解放でもあった。


一方で、マユは自分の夢に一歩近づけるかもしれないと心躍らせていた。彼女が目指す小さなカフェを開業するための足がかりとして、このお金はまさに神送りのギフトだった。


しかし、すべての住民がこの計画を好意的に受け入れているわけではなかった。給付金が人々の働く意欲を削ぐのではないか、町の経済に悪影響を及ぼすのではないかと懸念する声も少なからず存在した。


ベーシックインカムの導入は、サンノソの町に何をもたらすのか。希望か、それとも予期せぬ葛藤か。静かな町の日常が、大きく変わろうとしていた。

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