第64話 捨てられ王子、従魔に会いに行く
アガードラムーンの国境付近。
そこは少し前まで命の奪い合いをしていた、戦場だった場所だ。
そして、そのすぐ側に広大な森がある。
立地が戦略的に重要ではなかったからか、必要な木々を少し伐られた程度で森そのものに被害はない。
「その森のどこかに、以前学園でレイシェルを襲ったスライムがおるのかの?」
「うん、ローズマリーの話によるとね」
俺は竜化したサリオンの背に乗って、ライムを探しに森へ向かっていた。
本来はローズマリーも来るはずだったが……。
少し事情が変わったのでローズマリーはお城で留守番している。
ああ、何か悪いことがあったわけではない。
まだ知っているのはアガードラムーンでも極一部の人間のみだが、とてもめでたいことが彼女に起こったのだ。
「それにしても、まさかローズマリーが妊娠するとはのう」
「男の子か女の子、どっちかなあー」
「くっくっくっ、気が早いのじゃ」
そう。ローズマリーが妊娠したのだ。
彼女のお腹の中に俺の血を半分受け継いだ生命が存在している。
その事実に興奮してしまった。
性的な興奮ではない。
ただそうとしか言えない初めての感覚に見舞われているのだ。
「ローズマリーが安心して出産できるよう俺も頑張らなきゃだな!!」
「愛されておるローズマリーが羨ましいのじゃ。儂も小僧に孕まされたいのう?」
サリオンがちらちらとこちらを見てくる。
「……そうだなあ。じゃあイェローナが作ってる魔導具が完成して、情勢が落ち着いたら作ろっか」
「む!? 何事も言ってみるものじゃのう!! やる気が湧いてきたのじゃ!!」
「ちょ、飛ばしすぎ――」
そうこうあって俺とサリオンは森に到着、地面に降りた。
「ただの森じゃな」
「ただの森だな」
やってきた森は何というか、普通だった。
これと言っておかしな点も無く、ライムがいたような痕跡はない。
もっと森の奥深くにいるのだろうか。
「サリオン、もっと奥まで――あれ!?」
背後を振り向くと、いつの間にかサリオンの姿がなくなっていた。
さっきまでサリオンが立っていた場所にはぷるぷるした粘液が残っており、ライムの犯行だと一目見て分かる。
これには流石に困惑した。
相手がライムだからこちらに危害を加えてくることはないだろうとタカを括っていたのだ。
しかし、すぐ近くを歩いていたはずのサリオンの姿が忽然と消えてしまい、俺は薄暗い森の中で孤立してしまった。
ライムの目的がちっとも分からない……。
「マスター」
「うおわあ!? え、あ、ライム!?」
急に背後から声をかけられてビックリする。
勢いよく振り向くと、そこには人の形をしたライムがいた。
しかし、その風貌が少し違う。
「な、何か大きくなってない!?」
前に見た人型のライムは透き通る銀色の髪と青い瞳の美少女だった。
でも今のライムは何というか、エロい。
身長はアルカリオン並みに高い上、元々大きかったおっぱいは更に大きく、太ももは太くムッチムチなのだ。
思わず生唾を飲み込む。
たしかに長身でおっぱいの大きくて抱き心地の良さそうなお姉さんは俺のドストライクだった。
「そう、ライムは身体を作り変えた。おっぱいも身長も前よりもっとマスター好みのドスケベボディー」
「いや、うん、まあ、そ、そうだな」
「ライムはずっと考えていた。愛とは何か」
ライムが薄く微笑みながら言う。
「愛とは独占欲。その人を独り占めしたいという願望。ライムはマスターを独り占めしたい。でもマスターは特定の一人に相手を絞れるような自制心がない」
「うっ」
まさか従魔に言われるとは。
いや、たしかに誰か一人選べとか言われても選べる気はしないけどさ。
内心で不貞腐れていると、ライムは言った。
「だから、ライムはライムだけでマスターのためにハーレムを作った」
「え?」
次の瞬間、ライムが二人に分裂した。
否。一人や二人ではない。何十、何百という数のライムに分裂した。
それも一人ずつ容姿が違う。
ちっぱいロリライムから巨乳ロリライム、大人爆乳ライムやつるぺたライムまで。
髪型もショートやロング、ツインテールやポニーテール、シニヨン等。
格好もメイド服からマイクロビキニ、ナースや女騎士まで沢山の種類があった。
全員可愛い。全員エロい。
「ちなみにふた◯りバージョンや男の娘バージョンもある」
「そ、それは遠慮しておこうかな……」
思わずお尻をキュッと締める。
俺が拒否したからか、ふ◯なりライムと男の娘ライムは少し肩を落としてライム本体に帰った。
少し可哀想なことを言ってしまったか。
しかし、ライムは次に俺の申し訳なさも吹き飛ぶようなことを嬉々として言い始める。
「マスターは新人類の父、即ち神になる」
「ラ、ライム、まだそんなこと言って――」
「違う。ライムはマスターを愛している。マスターが望まない相手と子孫を作らせるような真似はしない。だから、ライムが新人類の母になる」
……ライムは何を言っているのだろうか。
「ここにいるライムたちはマスターと交尾して、次代の人類を作るために存在する。誰かの意志を無視しない、素晴らしい計画」
「いや、俺の意志は!?」
「マスターは、ライムと交尾したくない?」
「したくないことない。したい。――ハッ!! つい本音が!?」
「流石はマスター。好きなことは好きとハッキリ言うところが好き」
逆に聞くが、ただでさえ好みの美少女だった相手がムッチムチのドスケベボディーなお姉さんになったら我慢できるだろうか。
更には一人でロリから美女までこなせる相手がいるだろうか。
いや、いない。
ここでライムの誘いを断るような奴は男のフリをしている別の何かか男色家だろう。
っと、いかんいかん。
程々にして今はここまで来た本来の目的を優先しないと。
「ラ、ライム。話の腰を折るようで悪いけど、俺と一緒に来てくれないかな? 戦場で怪我をした人たちを治療したのってライム、だよね?」
「治療はついで。血液や皮膚から情報を吸収し、より本物に近い身体を得るため。ライムのマスター以外の男はゴミという考えに変わりはない。でもお陰で千差万別の性的嗜好――性癖を沢山の理解した」
「あ、ああ、だからふ◯なりとか男の娘とか知ってたのか」
待て。ということはアガードラムーン軍の中にふた◯りや男の娘が好きな奴がいるのか。
い、いやまあ、個人の好みを否定するつもりは微塵もないが。
「ライムはこの森から出ない。ここでマスターと子作りに励む。次の人類を作って現人類を駆逐する」
「ふぁ!?」
ライムが恐ろしい計画を口にした。
前の全人類の女の人に俺の子供を産ませるという計画も大概だったが……。
今回のライムの計画とどちらが酷いだろうか。
「安心して欲しい」
「え? ど、どういうことだ?」
「マスターを心から愛する者、マスターを信奉する者、マスターが大切にしている人たちは残す。マスターを否定するもののみをこの世から抹消する。それが新人類の母になるライムの使命」
「わ、ちょ!?」
次の瞬間、ライムが俺を抱きしめてきた。
俺はライムの柔らかひんやりスライムおっぱいに埋もれてしまう。
そこから更に俺の行動を封じるように分裂したライムたちが迫ってきて、俺は全身を包み込まれてしまった。
お、おお!! これはやばい!!
本物に近い感触、というか本物と言っていい柔らかさだった。
心なしかフローラルな香りもする。
その肌は舐めると甘いキャンディーのような味がした。
どこからかは言わないが、蜂蜜の如くトロッとした甘い液体も出てくる。
俺は思考をまとめることができず、頭がボーッとしてきた。
「ライムの身体には強力な媚薬成分が含まれている。これでマスターはライムから離れられない。マスターは私たちと交尾して新世界の神になる」
まずい。
このままじゃライムを止められず、世界中が大変なことになってしまう。
俺はライムのおっぱいに堕ちる前に叫ぶ。
「助けて、サリえもーん!!」
刹那、空から一条の閃光が地面に突き刺さる。
竜化を解いたサリオンが、少し不機嫌そうにライムを睨むのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「スライムっ娘が分裂は定番。全身を包み込まれて窒息したい。鼻や口から侵入されて肺まで入られたい」
レ「えぇ……」
「またやべー計画で笑った」「ライムの味が知りたい」「レイシェル引いてて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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