第62話 捨てられ王子、またもやらかす
「国ごと転移? 不可能ですな」
アルカリオンの部屋にやってきたイェローナは、話を聞いて開口一番にそう言った。
その言葉に少し安心している俺がいる。
「そもそも転移魔法に必要な魔力は移動させたい物体の質量の乗倍になりますからな。人を一人や二人飛ばすのはともかく、国ごととなると母様の魔力をフル活用しても不可能ですぞ」
「むぅ、名案だとは思ったが、そう上手くはいかないか」
「しかし、敵国に囲まれている現状を打破するために国ごと移動させるという発想自体は面白いですな!! 何かもっとこう、某のテンションを上げるものはないのですかな!?」
イェローナが俺の肩を掴み、ブンブンしてくる。
いや、ブンブンしてくるだけならともかく、イェローナの大きなおっぱいが顔を殴ってくる。
無自覚なのだろうが、そこがいい。
俺はどさくさに紛れてイェローナのおっぱいを堪能しながら、国ごと転移に代わる案を何となくで口にしてしまった。
どうせこれも不可能だろう、という楽観した意見を。
「じゃあ、国を土地ごと浮かせるとか? それなら移動させる必要もないし、この国にはワイバーンもいるから地上との交易を断つわけでもなくなるし」
「「「……」」」
静まり返る部屋。
ローズマリーは手をポンと叩いて、アルカリオンは何やら思考を巡らせている。
え? ちょ、その反応は何!?
「イェローナ姉上、どうですか?」
「……たしかに浮遊させるなら転移させるよりは魔力量を抑えられますな……でも資材がギリギリ……建造中の軍艦や一部の列車砲を解体したら足りますかな……ブツブツ……」
「どうやら、不可能ではなさそうですね」
「え? いや、冗談だよ? 流石に無理でしょ? あの、イェローナさん? 無理って言って!!」
何気ない一言が現実になるとか、正直言って少し怖いというか。
しかし、俺の心など露知らず。
しばらく独り言のように呟いていたイェローナは急に全身から凄まじい魔力を迸らせ始めた。
「か、可能ですぞ!! 夢のようではありますが、不可能ではありませんな!!」
「ではイェローナ、早急に開発を進めなさい。ローズマリー、必要な資材を最優先に回すよう手続きを」
「はっ!! ふふ、流石はレイシェルだな。私たちには想像もつかないことを平然と思いつくとは」
「え、えぇ……」
こうしてアガードラムーンでは国家浮遊計画が極秘に進められることになった。
俺はこの計画を、心の中でラ◯ュタ計画と呼ぶことにした。
「ところでレイシェル、少し相談したいことがあるのだが」
「え? ローズマリーが俺に?」
ラピ◯タ計画を詰めるため、アルカリオンとイェローナが細かい打ち合わせを始める。
ローズマリーも専門的な話は分からないようで、俺と一緒に退室することに。
部屋まで戻る途中、ローズマリーが俺に相談があると言ってきた。
俺の反応に少しムッとするローズマリー。
「私は母上ほど万能ではない。当然、困ることとてある。……その、迷惑なら言って欲しいが……」
「ち、違う!! 迷惑なんかじゃない!!」
俺にとってローズマリーは凄い人だ。
女神からもらったチート能力『完全再生』を除いて俺が彼女に勝てる点などない。
その彼女が俺を頼ってきたのだ。
嬉しくないはずがない。俺はローズマリーの相談に耳を傾ける。
「実は、ライムのことなのだが」
「ライム? え、うちのスライムがまた何かやらかした!?」
ライム。
俺がヴィオレッタ学園に通っていた頃、学園の敷地内にある森でテイムしたスライムだ。
トンでも進化をして人語を理解し、見た目は美少女になった。
実を言うと、ここに帰ってきてから俺は一度もライムを見ていない。
一応、会いに行こうとしたのだが、所在が分からなかったのだ。
ローズマリーはライムがどこにいるか知っているのだろうか。
「知っているというか、報告が来てな。レイシェル、此度の防衛戦は我が国にとって苦しいものだった。しかし、戦死した者は少ないのだ」
「あ、それ聞いたよ」
最前線は酷いものだったと聞いた。
にも関わらず、戦死者は反乱軍に比べて十分の一以下だったらしい。
戦場で何が起こったのか、詳しく調査しているうちに得た、ある兵士の証言にローズマリーは着目したそうだ。
「曰く、怪我をした兵士の元にどこからともなくぷるぷるした何かが現れて、患部に取り付き、負傷を治してしまったらしい。ダンカンだったか、レイシェルの元部下も目撃したそうでな。彼によると、レイシェルの力に酷似していたそうだ」
「俺の力に?」
「聞けば、ライムは吸収した生物の特徴を再現するそうだな。レイシェル、ライムに身体の一部を吸収されたことはないか?」
「……ある。たっぷり搾り取られた」
俺はたしかに学園での一件で、ライムに体液の一部を吸収された。
もしそこから俺の『完全再生』の力を得ていたとしたら……。
「ライムがこっそり助けてくれていた?」
「と、私は見ている。ライムの力は有益だ。可能なら手元に置いておきたい。目撃証言からおおよその居場所は分かっているが、流石に詳しい場所までは分からなくてな……」
「あー、でも俺が行ったらライムの方から接触してくるかもしれないもんね」
「そういうことだ。協力を頼めるか?」
「うん、たまには役に立たないとだしな!!」
久しぶりにライムに会える。
嬉しい反面、学園でライムがやらかしたことがやらかしたことなので不安なのも事実だ。
ちょっと様子を見に行くべきだろう。
「それと、その、だな……」
「ん? まだ何かあるの? ローズマリーのためなら全部引き受けるぞ!!」
「あ、いや、その、なんだ。一緒に……」
「?」
「だから、その、あれだ。一緒に風呂に、入らないか?」
もじもじしながら、頬を赤らめて言うローズマリー。
俺は満面の笑みで頷いた。
「もちろん!!」
こうして俺は、ローズマリーと夫婦水入らずの二人っきりでお風呂に入ってから、ライムを探しに行くのであった。
一方その頃――
◆
「ちっ。ロクな食べ物がないな……」
国外追放となったヘクトン(♀)は、アガードラムーンと独立した国の国境付近にある森でサバイバルしていた。
魔法で動物を狩り、木の実を採って食べる。
そうこうして暮らすこと数日、彼女となった彼の元にある人物がやってきた。
「やあ、すっかり見違えちゃったね、ヘクトンちゃん?」
「……お前か。何か用か?」
それは、かつてヘクトンに接触してきたフードを被っている謎の女であり、ヘクトンを女に改造した張本人。
「あれ? なんか機嫌悪いね? だいちゅきなママを寝取られて追放されたのがそんなに悔しいの?」
「違う!! お前が来たから苛立っているんだ!!」
「ええー? でもそのお陰でお兄さんの不意を突けたんじゃないか」
「ぐっ」
少女はニヤニヤ笑いながら、ヘクトンをからかうように言った。
トラブルはあれど、奇襲が成功したのは事実。
ヘクトンは少女の物言いにイライラしながらも黙るしかなかった。
「それで、何の用だ? 僕はもう何もしないぞ」
「あれ? いいのかい? 君を捨てた母親や、その母親を誑かした兄に復讐しなくて」
「……ふん。ハッキリ言うぞ、僕はお前らを信用していない」
「え、なんで?」
「……本気で言っているのか?」
小首を傾げる少女に対し、ヘクトンはついにブチギレた。
「お前が!! 僕を!! 勝手に女にしたからだろうが!!」
「えー? 可愛いし、いいじゃん。それにうちの組織って女の子しかいないし、一人男の子ってなると浮いちゃうよ?」
「知るかああああああああああああッ!!!!」
ヘクトンの怒りに満ちた絶叫が、森中に木霊するのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「望まぬTS、謎の組織の趣味が判明」
レ「何の話?」
「またライムが何かしそうな予感」「お風呂!! お風呂回は何度あってもいい!!」「ヘクトン、手を組む相手間違えたのか……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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