第9話 捨てられ王子、説明を求める




「す、すまない!! 本当に!! 申し訳ない!!」



 媚薬が抜けて正気に戻ったローズマリーは、勢い良く額を地面に擦り付けた。


 いわゆる土下座だ。



「いやいや、そんなに謝らなくても……」


「私は、性欲に負けてレイシェルに酷いことをしてしまった。それは許されないことだ」


「えぇ……。でもほら、俺だって気持ち良かったし。むしろありがとうございます」



 実際、俺は全く気にしていない。


 それはもうローズマリーは凄かったし、とにかく気持ち良かった。


 めっちゃキスとかしてくるし、絶対に俺を逃がさない!! みたいな濃厚エッチは心に響くものがあった。


 いや、本当に。まじで幸せな一時でした。



「それに元はと言えば、あの媚薬入りジュースを飲ませちまった俺にも責任があるしな。もっと言うならあれを俺の冷蔵庫に入れた奴が悪い」


「レイシェル……」


「それにほら、あれだよ。もう恋人ってことで良いじゃん。……え、そういうことで良いよな?」


「っ、ああっ!! 恋人!! レイシェルと恋人でいたい!!」


「お、おう、正面から言われると恥ずかしいな」



 俺とローズマリーの間に何とも言えない空気が流れ始める。


 まあ、それはそれとして。



「媚薬入りジュースを冷蔵庫に入れた犯人を見つけないとな」


「っ、そ、そうだな」


「ああ、それでしたら探す必要はないですよ。私が犯人ですので」


「「!?」」



 俺とローズマリーは聞き覚えのある声に思わず硬直してしまった。


 声がした方を見ると、ちょうど俺の部屋のクローゼットから出てくるところだったアルカリオンと目が合う。


 思わず絶句した。



「は、母上!? い、いいいつからそこに!? というか母上が犯人とはどういうことですか!?」


「落ち着きなさい、ローズマリー。全てをお話しましょう、私の計画の全てを」



 いや、取り敢えず俺のクローゼットから出てきたことの説明を求めたい。



「私の竜の眼は、他者の感情を読み取ることが出来ます」


「何それ凄い」


「そして、私は知りました。ローズマリーも坊やに好意を抱いていることを」



 アルカリオンは相変わらず無表情だった。


 しかし、その口から発する言葉には少なくない熱量が込められている気がする。



「大切な娘と同じ想い人を奪い合うのは、私の本意ではありません。ならばもういっそ、娘と想い人を共有してしまえば良いのでは? そう考えました」


「なぜそう考えるのですか!?」


「そこで私は策を弄しました。私の竜の眼は見たもののあらゆる可能性を視ることもできます。要は未来視ができるのです。そして、私は見ました。ローズマリーがうっかり口を滑らせて好意を示し、坊やの冷やしておいたジュースを飲む光景を」


「能力の無駄遣いが過ぎます!! 私欲にまみれ過ぎです!!」



 ローズマリーのツッコミに俺も同意する。


 相手の心が読めたり、未来視ができるチートな眼をそこまで私欲に躊躇い無く使うとは。


 と、そこでアルカリオンが媚薬入りジュースの瓶を手に持った。



「なので私は坊やの冷蔵庫の中にこっそり媚薬入りジュースを入れました。計画通り、ローズマリーはそれを飲み、一線を越えてしまった。あとはこっちのもんです」


「は、母上!? 何を!?」



 アルカリオンは媚薬入りジュースを口に含み、何故か俺の方に近づいてきた。


 そして、俊敏な動きで迫ってくる。


 ローズマリーとのエッチで疲労していた俺は、大した抵抗もできず、そのままアルカリオンに捕まってしまった。


 そのまま濃厚なキスをして、無理矢理媚薬の入ったジュースを飲ませられてしまう。



「むぐっ!? んぐっ、ぷは!? ――う゛っ」



 媚薬入りジュースを飲んでしまった瞬間、身体が熱くなる。


 我が愛刀も完全復活だ。


 その状態でアルカリオンが俺を抱き締めながら頭をナデナデしてくる。

 俺は彼女の大きなおっぱいに顔を埋め、無意識に腰を振った。


 まるで盛った猿のようだった。

 しかし、アルカリオンはそれを受け入れて、優しく俺をベッドまで導く。



「なっ、母上、何を!?」


「おや、ローズマリー。自分はヤったくせに母はダメだと?」


「レ、レイシェルは私の恋人です!!」


「それを言うなら、私は坊やに浴場でプロポーズされています。好きだ、結婚してくれ、子供を生んでくれと」


「な!?」



 確かに言った。


 その直後にローズマリーが気付いて有耶無耶になってしまったが、確かに俺はあの時アルカリオンにプロポーズしている。


 相変わらず無表情ながらも、どこか勝ち誇った様子のアルカリオン。


 対するローズマリーは悔しそうだった。



「くっ、だったら!!」



 と、ローズマリーは再び俺に詰め寄った。


 そして、唇が触れそうな距離にまで近づいて俺に囁きかけてくる。



「レイシェルッ!! 私にもプロポーズしろッ!! お前の子供なら何十人でも、いや、何百人でも産んでやる!! お前をパパにしてやる!!」


「うあっ、好き!! 結婚して!! 俺の子供を産んでくれ!!」


「ああ、勿論だ!! 母上、これで私もプロポーズされましたよ!! レイシェルは私のものです!!」



 媚薬で思考力が低下していた俺は、咄嗟にローズマリーの求めに応じてしまった。

 アルカリオンはそれを止めることなく、ただ静かに見守っている。


 いや、心なしか口元が笑っているような……。



「さあ、母上!! どうするおつもりですか? 帝国では一夫一妻が常識ですよ!!」


「問題ありません。すでに解決策は用意してあるので」


「え?」


「これをご覧なさい」



 アルカリオンが谷間から一枚の書類を取り出し、それをローズマリーに見せつける。



「坊やは妻を複数人娶れる(意訳)、そういう帝国法を作りました」


「!?」


「しかし、母は安心しました。ここで好いている男を取られて引き下がるようなら、一から貴女の根性を鍛え直していたところです」


「な、何を言っておられるのですか?」


「最初に言ったでしょう。娘と同じ男性を奪い合うつもりはなく、共有するつもりだったと。端から坊やを独占するつもりはなかったと、そう言っているのです」



 ローズマリーは俺をギュッと抱き締めたまま硬直してしまう。


 アルカリオンは気にした様子も無く、無表情のまま淡々と話し始めた。



「まあ、ぶっちゃけるなら、娘と喧嘩とかしたくないですし。ここは皆が幸せになる落としどころを用意してみました」

 

「わ、私がレイシェルにプロポーズを迫らなかったら、どうするつもりだったのです?」


「その時は坊やの恋人として認めていましたよ。妻と恋人は別物ですし」



 少し落ち着いたのか、ローズマリーはいつもの調子で苦言を呈する。



「わざわざそのために法を作るなど……。権力の乱用が過ぎるのでは?」


「ローズマリーは知らないようですね。権力は乱用するためにあるのですよ。――おや?」



 アルカリオンとローズマリーが俺を見る。


 この時の俺は、男として醜態を晒していたに違いない。


 情けなくも二人の身体にしがみつき、その感触を堪能していた。



「どうやら少し焦らしすぎたようですね」


「ま、まったく、さっきあれだけ私とシたというのに。仕方の無い夫だな」


「では一番手は私が貰いましょう」


「母上、ここは娘に譲るところでは?」


「貴女は先ほどお楽しみだったではありませんか。それにあのような本能任せの行為が気持ちいいのは最初だけですよ」


「む」


「もっとテクニックを磨きなさい。というわけで、ここは母が手本を見せて差し上げます」



 結論から言おう。


 あまりこういうことで相手を比べたくはないが、アルカリオンは過去七人の夫がいた、いわばベテラン。


 俺と初めてを交換したローズマリーに勝てる道理は無かった。


 無表情のまま俺を気持ち良くするためにあらゆる手を尽くしてくるアルカリオンのテクニックに、俺は骨抜きになってしまう。


 おっぱいも太ももも、頭から爪先までアルカリオンの身体は全てが気持ち良かった。


 こうして俺は二人の美女と肌を重ね、正式にアルカリオンとローズマリーと結婚、二人の夫になるのであった。



 





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「よーし、もぐかー」


レ「ヤメテヤメテ」



「クローゼットから出てきたの草」「能力の無駄遣いで草」「お前をパパにしてやるで惚れた」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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