第7話 捨てられ王子、魔導具作成を依頼する





 浴場のシャワーがローズマリーの竜の咆哮ドラゴンロアで全壊し、少なからず原因を作ってしまった俺は修理を手伝うことにした。


 俺の『完全再生』は物も直すことができる。


 破損した部品をその場で直すこともできるし、役には立てるはず。


 帝国の技術にも興味があるしな。


 と、そこでローズマリーがある人物を紹介したいと言ってきた。



「レイシェル、こちらは――」


「ぬーはっはっはっ!! 某、自己紹介は自分でする派ですぞ!! 某は帝国魔導開発局局長、イェローナですぞ!!」



 作業着を着た女性だった。


 レモン色の髪をしており、表情は前髪で隠れ切っていて全く見えない。


 あれで前が見えているのだろうか。


 微かに見えている口元では八重歯がキラリと光っていた。

 背丈は俺とあまり変わらないが、僅差で向こうの方が数センチ高そうだ。


 ローズマリーの話によると、イェローナは帝国に存在する魔導具全般の開発に関わっている超凄い人らしい。


 帝国内を走る魔導機関車を発案し、作ったのもイェローナとのこと。


 俺は緊張しながらお辞儀する。



「よ、よろしくお願いします。レイシェルです」


「うむうむ、よろしくお願いしますぞ!! では早速、修理に取りかかりますぞ!!」



 ローズマリーは日課の訓練をするらしく、早々に浴場を出て行った。

 それから俺はイェローナの指示に従い、部品を直したり、工具を手渡したりする。


 前者はともかく、後者はぶっちゃけ必要か? と思いたくなる役割だが、これが意外と効率化に繋がるらしい。


 しかし、ここでトラブルが発生する。



「ふひぃー、今日は暑いですなー」


「……」



 それは、意外な凶器だった。


 作業中に暑くなったのか、イェローナが作業着の上を脱いで腰に巻く。


 そうした露になったのが二つの爆弾。


 着痩せするにも程があると言いたいくらい、たわわな大きなおっぱいだった。


 スポーツブラジャーのようなヘソ出しのシャツを着ており、派手ではないが、無防備な女の子からでしか得られない背徳感を味わえる。



「あ、レイシェル氏。そこの部品を持っていて欲しいですぞ。もう少し下……そうそう、そこですぞ!!」


「……あ、あのー、イェローナさん。乗ってます。俺の頭の上に……」


「?」



 俺が屈みながら大きな部品を下から支え、その俺の上から工具を使って部材で部品を固定しようとするイェローナ。


 すると、あら不思議。


 イェローナの大きなおっぱいが、俺の頭の上に乗ってしまったではないか。


 重い。圧倒的な質量だった。



「おおー、道理で肩が楽なわけですなー」



 俺がそれを指摘すると、恥じらう様子も無くそう言ったイェローナ。


 そして、更に俺に体重を預けてきた。


 イェローナは汗っかきなのか、シャツがしっとりと湿っており、女の子特有の甘い匂いに混じって汗の香ばしい匂いがする。


 しかし、その匂いは決して不快な匂いというわけではなかった。


 むしろ何となく、興奮する。


 俺は下半身が反応してしまっていることがイェローナにバレないよう、可能な限り身動きを取らずにじっとしていた。


 しばらくそうしていると、作業は一段落。


 俺とイェローナは一度、十数分の休息を取ることにした。



「助手が一人いるだけでも随分助かりますなー」


「そ、そうですかね? 俺はあんまり役に立ってないと思いますけど」


「んやー。某、常に誰かと喋っていないと落ち着かないのですぞ。作業中は工具や部品に話しかけたりもしばしば」



 それはただのヤバイ奴では?


 いやまあ、黙々と作業するのは苦手って人もいるだろうけどさ。



「それにしても、レイシェル氏は話しやすいですな。口下手な妹が好意を寄せる理由が分かりましたぞ」


「……? えーと、どういう意味です?」


「やや!? まさかあんな露骨な妹の態度に気付いていないと!?」


「? い、いえ、そうではなくて、イェローナさんの妹さん? 誰のことですか?」



 俺の純粋な疑問に対し、イェローナはあっけらかんと答える。



「ローズマリーですぞ」


「!?」



 俺は思わず転びそうになってしまった。


 え? え? ちょ、ローズマリーがイェローナの妹だって?


 ということは……。



「イェローナさんって、皇族ですか!?」


「ありゃ? ローズマリーから聞いてなかったのですかな?」


「い、いや、その、だってローズマリーが紹介しようとしたらイェローナさんが遮って自己紹介しましたし……」


「ぬーはっはっはっ!! そう言えばそうでしたな!!」



 イェローナは高笑いしながら、改めて自らの名を名乗った。



「某、第五皇女のイェローナですぞ!! まあ、皇女の肩書きは名ばかりでしてな。某は魔導の発展に生涯を捧げた身。変に畏まる必要はないですぞ」


「い、いやいや、流石に驚きますって」



 まさかイェローナがローズマリーの姉だったとは思いもしなかった。


 あんまり似ていないし。


 ローズマリーの高い身長と比べるとイェローナの背丈は平均的だからな。



「むむ、あまり似てないとか思いましたな?」


「ギクッ。す、すみません」


「まあ、当然ですな。ローズマリーは母様似で、某は父様似。ましてや父親が違いますからな。余計に似ていないはずですぞ」


「そ、そうなんですか」



 そう言えば以前、アルカリオンが「夫は七人いた」みたいなことを言ってた気がする。


 なら不思議ではないかも知れない。



「ちなみに某の父はドワーフだったので、母様の血と良い感じに混ざって平均的な身長になりましたな」



 ドワーフは成人しても人間の成人男性の腰より低い身長が特徴的な種族だ。


 そして、恐ろしく手先が器用だったりする。


 その多くが何らかの職人になり、また人間よりも長い寿命で技術を磨くため、生涯で凄まじいものを作り出すらしい。


 イェローナが魔導具に熱心なのも、その血を受け継いでいるからかも知れない。


 ……いや、違うか。



「イェローナさんは、魔導具が好きなんですか?」


「我が人生ですな」



 ここまでハッキリ断言できる人が、血とかそういうものに依るとは思えない。


 こりゃ完全に天然物だ。


 だからだろうか、俺はイェローナに幾つかの物を作って欲しくなった。



「あの、実は相談がありまして」



 俺が作って欲しいものの内容を聞いて、イェローナは目を見開く。


 それはまだこの世界に、というか帝国に存在しないものだったからだ。


 イェローナが鼻息を荒くする。



「そ、それは、たしかにあったら嬉しいものですな!!」


「でしょう? ぶっちゃけ俺、魔導具って詳しくないので自作とかはできないんですけど……」


「問題ナシですぞ!! 某なら一ヶ月、いや、一週間で完成させてやりますぞ!! ……でも母様にお願いしてもお小遣い改め、予算が降りるかどうか……」



 と、そこでイェローナが俺を見た。



「は!? レイシェル氏の名前を出せば母様も予算をくださるのでは!? す、素晴らしい作戦ですぞ!! こうしてはいられないですな!! 早速工房にこもりますぞ!!」


「え? あ、あの、シャワーの修理は……」


「そんなものは後回しですぞ!! 魔導が某を呼んでいるのですぞー!! のわあ!?」



 そう言って勢い良く立ち上がり、走り出そうとしたイェローナ。


 しかし、足が痺れていたようで躓いてしまう。



「あ、危ない!!」



 俺は咄嗟に手を伸ばし、どうにかイェローナが地面と衝突するのを防ぐことができた。


 しかし、代わりに俺はイェローナに押し倒される形で下敷きになってしまう。



「あいたたたた……。助かりましたぞ、お怪我はありませんかな?」


「……柔らかさの爆弾で死ぬかと思いました」


「?」



 イェローナの下敷きになった俺は、その大きなおっぱいに顔を押し潰されていた。


 痛みは無い。柔らかいから。


 汗ばんで蒸れ蒸れのおっぱいを顔面で感じ取り、我が愛刀が反応してしまう。


 流石にイェローナも気付いてしまった。



「む、こ、これは……」


「す、すみません、本当にごめんなさい」



 あー、絶対に軽蔑される。


 そう思ってイェローナの顔を見ると、琥珀色の瞳と視線が交差した。

 彼女の長い前髪が重力に従って垂れ下がり、その顔が露になったらしい。


 イェローナの顔はただ美しかった。


 ローズマリーやアルカリオンにも引けを取らない美貌である。


 俺は思わず感嘆の息を漏らした。



「おうふ、めっちゃ綺麗……」


「……ほえ?」



 俺の呟きに対し、イェローナは硬直した。


 ハッとしても時既に遅し。俺とイェローナの間に微妙な空気が流れる。


 こ、この空気はどうにかしないと!!



「あ、いや、その、あれです。他意は無くてですね」


「お、おお、だ、大丈夫ですぞ。分かっていますからな。と、取り敢えず退きますぞ」



 イェローナが俺の上から退いて、手をぱたぱたして自らを仰いだ。


 そして、何故か俺と自分の格好を交互に見つめ、何を思ってか顔を赤くし、腰に巻いていた上着を取って再び着る。


 ああ、おっぱいが隠れてしまった……。


 少し残念に思っていると、ちょうどそのタイミングでローズマリーが訓練を終えて戻ってきた。



「レイシェル、イェローナ姉上。修理の進捗はどうで――」



 ローズマリーにはきっと、俺たちに何かあったように見えたのだろう。


 俺とイェローナの間に流れる気まずい空気と、汗を掻いて服を着るイェローナ、イェローナとの気まずい空気で冷や汗を掻いていた俺。


 まるで事後のように見えなくもない。



「な、何があったのですか!?」



 それから俺とイェローナはローズマリーにつめよられ、諸々の事情を話す。


 ローズマリーの誤解が解けるまで、かなりの時間を要するのであった。













 浴場誤解事件から数日が経った頃、その出来事はあまりにも突然だった。


 ドンッ!!


 ずいっと迫ってくるローズマリーに俺は壁際まで追い詰められ、壁ドンされた。



「レイシェル」


「ロ、ローズマリー、さん?」



 何やら真剣な面持ちで俺を見下ろすローズマリー。

 仄かに頬が赤く染まっており、呼吸も乱れていてやたらと色っぽい。


 何がどうしてこうなっているのか。いや、原因は分かっている。


 俺はつい数分前の出来事を思い出すのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「拙者、目隠れ少女が前髪上げると美少女だったら興奮する侍。ついでに無防備で上着を脱いじゃう系少女に興奮する侍」


レ「分かる」



「メカクレ!!」「無防備なの助かる」「次回が気になる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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