捨てられ王子が最前線で敵国の兵士を治療したら実は第七皇女だった件

ナガワ ヒイロ

第1話 捨てられ王子、最前線に送られる






 異世界。


 それは健全な青少年ならば、心踊る単語かも知れない。


 でも現実とはいつでも非情なもの。


 俺の転生した異世界は、というか生まれ育った国はハードだった。



「――ル殿下ッ!! レイシェル殿下ッ!!」


「……カップラーメンが食べたい」


「かっぷ……? よく分かんないですけど、大丈夫そうですね!! ほら立って!! 敵の部隊が突っ込んで来ますよ!! この陣地は捨てて後退です!!」



 俺の名前はレイシェル・フォン・アガーラム。


 アガーラム王国の第一王子であり、未来の国王となるはずだった者。


 今は戦場の最前線で味方の怪我を治療する治癒魔法使いであり、部下二十人を従える衛生兵部隊の隊長だ。


 王子だよ? 俺、王子だよ?


 なんでいつ敵の魔法が飛んできてもおかしくない最前線で働いてんの?


 一言文句を言ってやりたいところだが、俺をこの世界に転生させたデカ乳女神に会う術はどこにも無い。


 俺は今日も不満を胸に抱きながら、怪我をした兵士たちを治療する。


 どうしてこうなったのか。


 それはこの世界に転生して十五年、今から五年前にまで時を遡る。


 全てはそう、父であるアガーラムの王が不慮の事故によって亡くなり、王太子の地位を弟に奪われた時に始まった。
















「今日から僕が王だ!!」


「……は?」



 それは突然だった。


 この世界での俺の父に当たるアガーラム王国の王が暴れ馬から落ちて亡くなり、喪が明けた直後の出来事。


 急に弟のヘクトンから呼び出され、俺は謁見室に向かった。


 弟と言っても、ヘクトンとは血が半分しか繋がっていない。

 ヘクトンは側室の息子であり、俺は正室の息子だからな。


 でもまあ、兄弟仲は良好だった。


 ヘクトンは俺のことを兄として慕ってくれていたと思うし、俺もヘクトンのことを可愛がっていたから。


 そう思っていた。


 しかし、どうやらそれは俺の思い込みであり、ただの勘違いだったらしい。


 謁見室の王座に王の証である冠を頭の上に乗せたヘクトンが腰掛け、声高らかに自らが王であると宣言する。


 先に説明しておくなら、王太子は長子である俺だ。

 そのため、正しい順番で王位を継ぐなら俺が次の王様になるはずだった。


 つまり……。



「謀反、か」


「っ、黙れ!! 僕が本当の王太子なんだ!! お前みたいな気味の悪い力を持った化け物が王太子だったのが間違いなんだ!!」



 ここで一つカミングアウトしよう。


 実を言うと、俺は純粋なこの世界の人間ではない。

 日本という国で育った前世の記憶を持っており、いわゆる転生者って奴だ。


 前世の俺は不慮の事故によって死に、女神からチート能力を授かった。


 そして、本来は死産になるはずだったレイシェル・フォン・アガーラムとしてこの世界に転生したのだ。


 ヘクトンの言う気味の悪い能力というのは、女神から授かったチート能力のことだろう。



「手足が千切れても生えてくる……お前は人間じゃない!!」


「人を蜥蜴みたいに言わないでくれよ」



 俺が女神から授かったチート能力、それは『完全再生』というもの。


 手で触れたものを人でも物でも元通りにしてしまう力だ。

 対象が自分なら少し意識するだけでもオッケーな正真正銘のチート能力である。


 前世ではあまりにも突然の事故で死んでしまったため、大往生したくて女神に注文したチート能力だったりする。


 そして、このチート能力は大活躍だった。


 王太子という立場上、俺は命を狙われることが何度もあったのだ。


 お陰で十五歳まで生きています。


 しかもこのチート能力、使う度に熟練度が上がって効果が少しずつ向上しているらしい。

 今では首を切断されても意識が残っていたら再生できるようになった。


 最近では毒や呪いも効かなくなったし。


 そのうち自動で『完全再生』が発動して擬似的な不死になりそうで少し怖い。


 この世界での父であるアガーラム王は俺の力を見て「神の祝福を受けた子だ!!」と大いに盛り上がっていたな。


 え? その力で父を治さなかったのか、だって?


 それは許して欲しい。俺はその場にいなかったのだ。

 この力は強大だが、死者を蘇らせることまではできない。


 女神の話によると、それは世界のルールに反するらしい。


 しかし、どうやら弟のヘクトンは俺の力を気味の悪いものだと思っていたようだ。


 地味にショック。



「お黙りなさい、レイシェル」



 そう言ったのは、ヘクトンの座る王座の横に控えていたボンキュッボンの美女。


 ヘクトンの母親である。


 性格の悪さや選民思想を除けば俺好みのエロいお姉さんなんだがなあ。


 どうも昔から目の敵にされている。


 まあ、俺は正室の子だし、ヘクトンを王様にしたい身からすると俺は目の上のたんこぶだろうから分からなくもない。


 でも一番の理由は――



「っ、その気持ち悪い目をやめなさい!!」



 俺が会う度にヘクトンマッマをエロい目で見るからのようだ。


 だって仕方ないじゃん。


 俺、今年で十五歳になるけど、前世の年齢を含めたらアラサーなんだし。


 精神は大人で身体は子供だからか、下は十五歳から上は三十前半までという、かなり広いストライクゾーンになってしまった。


 お陰でヘクトンマッマをエロい目で見てたら嫌われてしまったのだ。


 とまあ、雑考はここまでにしておいて。



「もうとっくに根回しは済んでいるみたいですね」


「ええ、その通りよ」



 ヘクトンの周りには前王に仕えていた重鎮や騎士たちの姿がある。


 どうやらこの場に俺の味方はいないらしい。


 多分、昨日今日で思いついたことじゃなくて計画的なものだな。

 もしかしたら父の死にも関与している者が少なからずいるのかも知れない。


 生憎と父に甘やかされて育った俺は、そういう謀略面に疎すぎる。


 虎視眈々と謀反を企てる機会を窺っていたとも知らず、呑気に王太子のぐうたら生活を満喫していたことからもお分かりだろう。



「で、俺をどうするんです? コンクリートにでも詰めて海に沈めますか?」


「こんく……?」



 実は俺の『完全再生』にも弱点はある。


 海に沈められたり、コンクリートに生き埋めにされると多分無理。

 生存に必要な環境が整っていないと死んでしまう。


 コンクリートの意味が分からなかったらしいヘクトンマッマだったが、どうやらそこまで酷いことをするつもりは無いらしい。


 ヘクトンがニヤニヤと笑いながら言う。



「心配しなくてもお前は殺さない。戦場に行ってもらうからな」


「む」



 戦場、か。


 俺はずっと王都にいるため、詳しい状況は知らないが、王国はお隣の国と戦争をしている。


 そのお隣というのが大陸最強の国、神聖ドラグーン帝国である。

 大陸で唯一ワイバーンを使役しており、周辺国とは隔絶した軍事力を有する大国だ。


 いわゆる覇権国家であり、周辺国に宣戦布告している好戦的な国でもある。


 アガーラム王国は神聖ドラグーン帝国に継ぐ大国ということもあり、帝国の台頭を認められない周辺国から多数の支援を受けて戦っているのだ。


 その戦場は過酷という言葉では生ぬるいらしい。



「兄上には死ぬまで王国のために戦ってもらう」


「随分と手ぬるいな」


「ふん。本当なら生き埋めにして殺してやるところだったがな。兄上の婚約者であるエリザに懇願されて仕方なく、だ。ああ、いや、違うな。もう僕の婚約者だ」



 エリザというのは俺の婚約者だった少女だ。


 勝ち気で少し面倒臭いところもあるが、心優しい女の子。

 昔から何かと関わることが多く、俺も好かれていたと自覚している。


 どうやらそのエリザのお陰で生き埋めにされずに済むらしい。


 まあ、ヘクトンはエリザのことが好きだったからな。

 俺の命を助ける代わりに婚約者になれとか迫ったのかも知れない。



「そうか、分かった。明日にでも前線に行こう」


「っ、もっと悔しがれよ!! 僕はお前から国を、王位を、婚約者を奪ったんだぞ!!」


「?」



 ちょっと何言ってるのか分からない。



「人間、生きてさえいれば何とかなる。別に悔しがる必要は無いと思うが」


「っ、もういい!! お前なんかさっさと戦場で死ね!!」



 こうして俺は、捨てられ王子として戦場の最前線へ赴くことになった。


 幸いにも前線で俺は大活躍。


 俺を産んですぐ亡くなった母の容姿と父譲りのカリスマ性、女神から授かったチート能力で前線で戦ってるうちにそこそこの地位にまでなった。


 帝国が使役するワイバーンの火炎放射を食らっても平気だったし、不安や不満は何もない。


 強いて言うならベッドが硬くて飯が不味いことだろうか。

  ……あとは少し、ヘクトンの婚約者になったエリザのことが心配なくらいである。


 そんなある日、事態は起こった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「性悪な美女に弄ばれたい」


レ「ゆ、歪んでらっしゃる」



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