第九話 邪神覚醒
「――……塵に返れ、クソ野郎!」
――バヒュゥウッッ!!
尋常ならざる風切り音とともに、矢が飛んでいく。
ガルヴァの背にそびえる
「KEo!?」
一瞬、何かに気付いたらしいガルヴァが振り返ろうとしたように見えたが、もう遅い。
次の瞬間。
アンセル家の弓騎兵、ガイデルが放った必殺の一矢は、見事に標的を射抜いていた。
――バキィインッッ!
「KEooooOOO!!」
何かが砕ける音とともに、ガルヴァの絶叫が響き渡る!
程なくして、コアを破砕されたガルヴァの身体は、見る見る塵に――……ならなかった。
「な、なにぃッ!?」
「そんなっ!?」
ガイデルとセシリアの、驚愕に満ちた声が響く。
他の護衛騎士たちも、隊長であるバンドベルも、目の前で起きたことが信じられずに唖然としている。
必殺の一矢は、確かにコアに直撃した。
だが砕けたのは、矢の方だったのだ。
背の露出したコアは、今なお日に輝いて虹色の光を放っており、かすり傷1つ付いていないように見える。
「バカな……! あの一撃を受けて、無傷だと!?」
繰り返しになるが、賊徒二人の身体を盾ごと貫通し、さらにその後ろにいた別の賊の身体にまで突き刺さるような一撃である。
矢自体も決して脆いものではなく、コアを貫き砕くには十分な強度を持っているはずであった。
にもかかわらず、矢だけが一方的に砕けるとは……あのコアは、一体どれほどの硬度を持っているというのだろうか。
ガルヴァ自身にも、ダメージを負ったような様子は全く見られず、ただ怒りに満ちた四ツ目で騎士たちを睨んでいる。
「ちっ。もう一度だ、セシリア! 援護を頼む!」
「分かったわ!」
それでも諦めずに、二人が再攻撃に入ろうとした……その時であった。
「KEooooooOooOOOooooOOOooOOoooONNnnnn………!!!!!」
ガルヴァが後ろ足で立ち上がり、咆えた。
蒼天に向け、高く、長く、力強く。
「くっ……!?」
「うぐっ!?」
大気が震え、皆の鼓膜が激しく揺さぶられる。
その場の全員が耳を抑え、表情をゆがめる中……ガルヴァの様子に、驚くべき変化が生じ始めた。
――バチン! バチン、バチン!
背中の結晶体が、スパークするように激しく光る。
さらに続けて、ミシミシ、メキメキと骨が軋むような音が聞こえ……。
なんと、ガルヴァの身体が大きく成長を始めたのだ。
騎士たちが唖然として見上げる中、漆黒の巨躯がさらに大きく、ムクムクと膨れ上がっていく。
脅威だった前足と爪も、更に長く、太く。
それだけではない。
ガルヴァの身体のあちこちに刺さっていた矢や剣、
「き、傷が癒えているのか……ッ!?」
騎士の誰かが、震える声で言った。
しばし後、刺さっていた武器や農具がすっかり抜けきったところで、ガルヴァの成長はようやく止まる。
その体長は、目測ではあるが確実に10メルト以上……恐らく、15メルト近くはあるように思われた。
「GU,RuRuRuRuRu……」
ぶふっと生臭い息を吐き、低いうなり声を上げるガルヴァ。
真っ黒な顔の上、闇夜に輝く月のような虹彩が四つ、うぞうぞと
「これが、伝説の魔獣……」
呆然としつつも敵の周囲で馬を走らせていたセシリアに向け、ガルヴァが腕を振りかぶる。
「ッ! 気をつけろセシリア、ヤツの間合いは――……!!」
先程よりも伸びているぞ! と、バンドベルが警告しようとした瞬間だった。
セシリアの姿が、馬上から消えた。
「なッ!?」
「は?」
一体何が起こったのか、騎士たちには一瞬、分からなかった。
おそらくセシリア本人も、訳が分からなかったことだろう。
それほどまでに、ガルヴァの動きは素早く、力強くなっていたのだ。
「セシリアッ!」
彼女の相方として戦ってきたガイデルが声を上げ、騎士たちがハッとしてガルヴァの巨体を見上げた時には……。
セシリアの細い身体はガルヴァの右腕の先、四本の爪で鷲掴みにされ、腐肉臭漂う口腔内へと運ばれようとしていた。
彼女の深緑の瞳は、目の前の現実が信じられないと言った様子で大きく見開かれていて、
「あ、やだ……」
アンセル家護衛騎士隊唯一の女性騎士、セシリア・ニースヘル。
彼女が口にできた末後の言葉は、たったのそれだけであった。
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