第六話 エケラビたちを追って
メリアとマイルズの二人と分かれ、さっそく自分の目と足でエケラビを探し始めようとして……すぐに気付く。
考えてみたら私、そんなふうにフィジカルで頑張る必要なんかない。
「マルコ、さっき逃げたエケラビたちの位置、分かったりしない?」
近くをふわふわ浮かぶシルフィード・エッジに尋ねれば、答えはすぐに返ってくる。
「可能:現在本機ハ、敵対行動ヲ示シタ”リーポス級小型魔導生物”複数体ヲ、マーク中。目標ハ”魔導コア探知レーダー”ノ索敵範囲内、追尾可能」
「?、えっと、可能って言ってるってことは、分かるって事だよね?」
「肯定」
……やっぱり!
マルコ本体近くの一定範囲内なら、魔力を持つ生き物の位置や数が正確に分かるのだ。
いつも頼りっぱなしで悪い気もするけど、ここはマルコの力をお借りしよう。
「それじゃ、いま私がいる位置から一番近い所にいるエケラビたちを教えてくれる?」
「
「分かった、南西だね!」
しかしここで、困ったことがひとつ。
……南西って、どっち?
カチンと動きが固まった私に、マルコが続けて、
「推奨:
「んと、その……?」
「……要約:道案内シマス」
「よろしく!」
グッと親指を立てて私が言うと同時に、周りに浮かぶ四機のシルフィード・エッジのうち一機が前に出て、
「
私から見て左側に向けて、迷うことなく空中を進み始めた。
あとはマルコについていけば大丈夫。
でも、急がないとエケラビたちには追いつけないかも知れない。
頭上を行くシルフィード・エッジの姿を見失わないよう注意しつつ、できるだけ早く行こうと頑張るけれど……今、シルフェの街はお祭り前で大賑わいだ。
たくさんの人と人の間を縫うようにして移動しなくてはならず、中々スムーズには進めない。
それでも、小柄で、……。その、”平たい”体格の私は、そこまで苦労せずに人ごみの中を進むことができた。
ちょっとぐらい人と人の間が狭くても、身体を横にすればするりと通り抜けられる。
もしも私がハルニアみたいなわがままボディの持ち主だったら、きっとこうはいかなかっただろう。お尻とか胸とか、色々と邪魔になったはずだ。
今だけは、自分が薄っぺらい女(物理)だったことに感謝である。
……なんか、自分で言ってて悲しくなってきた……。早く前に進もう。
なぜだか酷くみじめな気持ちになりながらも、私は頭上を飛んで案内してくれるマルコの後を追った。
☆
シルフィード・エッジ――……マルコの後を追っているうちに、気付けば街外れまでやってきていた。
街の中心から離れたことで、周囲の人の数はかなりまばらだ。
進みやすくはなったけれど、未だにエケラビたちの姿は見つからない。
「すっ……す、すみません! このあたりで、エケラビを見かけませんでしたか?」
道行くお兄さんたちに勇気を出して声をかけ、尋ねてみるが、
「エケラビ? んにゃ、今日は見てないなぁ」
「ってか、エケラビどころか、いっつもそこらをウロチョロしてるミュッセどもの姿も見えなくないか?」
「そういやそうだな、降臨祭前で人がたくさん来てるから、ビビッて隠れちまってるのかもな」
ミュッセは、私の手のひらよりちょっと大きいぐらいのサイズの、『ネズミ』みたいな形の魔物だ。
路地裏とかゴミ捨て場とかを、ちょろちょろしているのをよく見かけるけれど……確かに今日は、ぜんぜん姿を見かけない。
……って、今はミュッセのことなんか気にしてる場合じゃないよ!
「あ、ありがとうございました! ごめんなさい、私は急ぎますので、これで」
「おうよ。よく分からんが、頑張ってな」
「嬢ちゃんも、良い降臨祭を!」
「はいっ、お兄さんたちも!」
お兄さんたちと別れて、街外れを駆ける私。
けれどやっぱり、一向にエケラビたちには追いつけず……。
とうとう息が上がって走れなくなってしまった私は、立ち止まって両ひざに手を突きながら、
「はっ、はっ……はぁ、はぁ……ねぇマルコ、ホントにこっちであってるの?」
「肯定:現在目標ハ、距離250、南西へ向ケ移動中」
「え、ちょ、全然追いつけてないよ!?」
……いや、むしろ引き離されてる! こ、こんなに頑張ったのにぃ……。
思わずその場にへたり込みそうになる私に向け、マルコからさらに絶望的な報告が入る。
「追尾中ノ”リーポス級小型魔導生物群”ガ、ポイント”シルフェ”ヲ離脱。増速シ、サラニ南西二向ケ移動中」
「はぇ!? ま、街から出ちゃったの!?」
「肯定」
……ど、どうしよう。このままエケラビたちを追いかけ続けたら、私も街から出ることになっちゃう。
……そんなことしたら、ハルニアの魔法が解けて、髪も目も黒に戻って……。
この前は、魔力が全くないことがバレただけでも、周りに散々嫌な視線を向けられて大変なことになった。
私の本当の髪と目の色は、この世界じゃものすごく珍しいものらしいし……もし周りにバレたりしたら、今度はどんな目に遭わされるか分かったものじゃない。
……そ、そんなの怖い。でも……。
だがこのままでは、エケラビたちを連れ戻すことはできない。
特にメリアやマイルズは、私の事情に配慮して今回の
それにさっきだって、私の運動神経がもっと良ければ、エケラビたちに逃げられる前に柵から出られたかも知れないわけだし……。
「………。ちょっとぐらいなら、大丈夫だよね? 誰かに見られる前に、帰ってくればいいわけだし」
誰にともなく呟く私。
「……よし!」
ファイティングポーズを取るように胸の前でぐっとこぶしを握って、気合いを入れる。
とはいえ、正直私は体力になんて自信ないし、このまま自分の足で走って追いかけてもエケラビたちを捕まえられるとは思えない。
だったら、私に残された手段はただ一つ。
……街の中じゃダメって言われてるけど、街の外でなら許されるはず!
そう。
超古代の叡智の結晶、
彼が再び、爆走するときがやってきたのだ!!
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