第十八話 …最近、マルコの容赦がありません。
―…さて、時はしばし巻き戻る。
「はぁ…逃げ出してどうすんの、私…」
アルとハルニアのもとから駆け出してきた私―…ユキは、憂鬱な気分でため息を1つ。
先程まで、私は二人と一緒にちょっと遅めの朝ごはんを食べていた。
メニューは、生地が硬めのおかずクレープみたいな食べ物、クレケッタだった。
私が自分の分のクレケッタを受け取って、包み紙をぺりぺり捲っていたら、前に座っていたアルが苦戦しているのが見えた。
怪我のせいで右腕が自由に使えなくて、うまく包み紙が剥がせないようだった。
…一瞬迷ったけど、これはアルに声をかけるチャンスだ。
意を決した私が、「代わりにやるよ?」と腰を浮かしかけたところで、アルの隣に座っていたハルニアが何も言わずにクレケッタを受け取って、あっという間に包み紙を剥がして返してしまった。
アルは、私が代わりに剥がしてあげようとしたことには気づきもしなかったみたいで、ハルニアにお礼を言って仲良さげに会話をした後、クレケッタをかじり始めて…。
…何だか、胸の奥が焦げるような、じれったい感覚が私の中に残った。
特に意味もなくむくれてクレケッタをはむはむしていると、向かいに座っているアルと目が合って…結局、互いに何も言葉が出ずに、つい目を反らしてしまった。
……うぅ、なんか気まずい。
何だか気のせいか、最近はアルも私のことを避けている気がする。
そりゃ、私のせいで大怪我したんだから、怒って当然だと思うけど…。
……このままずっと気まずい感じが続くのは、なんかヤだな。
そんなことを考えながら食べていたら、クレケッタはあっという間に手元から無くなっていた。
手持ち無沙汰になった私は、なにかアルと会話をしようと話題を探したけれど、こういうのは敢えて考えようとすればするほど、何も思い浮かばなくなるものらしい。
私が困った顔で口をむぐむぐさせていると、
「推奨:
…図っているとしか思えない絶妙なタイミングで、マルコが逃げ道を用意してくれた。
☆
その後は結局、マルコの言葉に甘えて逃げてきてしまった。
本当は、適度な距離感は欲しいとはいえ、アルとはもっと仲良くしたいけど…。
「はぁ…何の話題も浮かばないんじゃ、ね…」
私はもう一度ため息をつくと、気を取り直してマルコ―…今は四機のシルフィード・エッジに声をかける。
「…それで、マルコ。演習?だっけ」
「肯定:
…にゅーらるすふぃあ云々は相変わらずよく分からないけど、マルコが何を言いたいのかはよく分かる。
何事も、上手くできるようになるには練習が必要だ。
「練習…」
そこで私は、ハッとした。
「ね、マルコ。私も練習したら、シルフィード・エッジを上手に扱えるようになるかな?」
「肯定」
「シルフィード・エッジの扱いが上手くなったら、私も戦えるようになるかな?」
「肯定」
……そっか、そうだよね!
どうしてこんな当たり前のことに気づかなかったんだろう?
私は、私のためにアルが大怪我をしたことが辛かった。
この先、戦えない私の代わりにまた誰かが戦って、傷つくことがあるかも知れないと考えたら…嫌だったし、怖かった。
だったらどうすればいいのか?
そんなの、簡単な話だ。
私自身が戦えるようになればいい。練習すればいいんだ。
そりゃ私は他の人に比べて身体は小さいし、力も弱いし、魔法だって使えない。剣を振り回したり、魔法を撃ったりして戦うのは無理かもしれない。
だけど、遺跡の中で、もう一人の「わたし」がやって見せてくれたみたいに。
非力な私でも、マルコを―…
……そうすればもう、私のせいで、私の代わりに誰かが傷つくことなんてなくなる。
……強くなって、護られるだけの私じゃなくなれば、アルだって許してくれるかも知れないし!
「よし、マルコ。私、たくさん練習して強くなるよ!」
私にできることが明確になったとたん、気持ちがふっと軽くなった気がした。
ところが、周囲に浮かぶ白い三角形―…マルコからの返事は予想外のもので…
「疑問:”強クナル”ノ定義」
「え、定義?」
「本機ハ、”戦闘能力ノ向上”ト推定」
「ん?んん~?…えと、それでいいと思う、かな」
「
兵装の基本情報…?
マルコやシルフィード・エッジがどんな武器を持ってるかってこと?
そういえば、どっかの
考えてみれば、私はマルコ本体やシルフィード・エッジがどんな武器を持っているのか、あまり知らない。
でも、マルコ本体もシルフィード・エッジも、私の盾、そして剣として戦ってくれるわけで。
自分の盾や剣がどんな力を持っているのか、知らないままに戦って強くなれる道理はないだろう。
「わかった。それじゃ、その基本情報? だっけ。教えてくれる?」
「
「へっ!? ちょ、ちょっと待った!」
何やら一瞬イヤ~な記憶が脳裏を
「その”情報いんすとーる”って、あれだよね? あの、ズキィッて頭がいたくなるやつ」
「肯定」
「じゃあヤダよ、あんな痛いの!」
ちょっぴり控えめな胸の前で両手を握り、ファイティングポーズを取って私は抗議する。
「あんな痛い思いしなくても、ちゃんと口で言ってくれれば覚えるし」
「非推奨:マスターノ記憶、オヨビ学習能力デハ非効率」
「ひどいっ!?」
……淡々とした口調で事実のみを述べられると、余計に辛いんですけどっ!?
「情報インストール開始、”ロードショック”ニ注意」
「あっ! ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が…」
「実行」
「わぴゃぁぁっ!」
…最近、マルコの容赦が無くなってきて辛いです。
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