第二十一話 迎撃!!帝国技研 ②

※一時、視点が敵側に切り替わります。



「射撃開始」


 その大柄な男の言葉とともに、隊列端左右に位置していた銃兵が、構えていた魔導銃の引き金を引いた。


―トパララララララッ!


 静かな銃声とともに、小さな魔力の礫が凄まじい速度で撃ち出される。


 狙われた紅髪紅瞳の青年は為す術もなく全身を打ち据えられ、穴だらけになってその場にどしゃりと崩れ落ちた。


 鮮血が地面に広がり、じわじわと吸われていく。


「ヌヒョヒョヒョヒョッ、口ほどにもない。遺跡冒険者ルインズエクスプローラーは優秀とは聞きますが、所詮は冒険者。正規の軍隊の前ではこの程度でショウ。…あぁ皆サン、女の方は殺してはなりまセンよ。まだ楽しみようがありマスからね」


 ゲフィスが高笑いし、古代人オルトニアの娘を庇うようにして立つ、濃藍の髪の女性へと目をやる。


 うまそうな肢体だと舌なめずりし、彼女らを囲む兵士たちの幾人かが厭らしい笑みを浮かべた。


 そして、


「が―…ッ!?」


 兵士たちの隊列の中心に立っていた、大柄な男―…アマレ曹長。

 彼の胸から、紅く透き通った魔力の刃が、突然に生えた。


「……は?」


 周りの兵たちの誰もが唖然としてその様を見つめる中。


 刃が引き抜かれ、ブシュッと音を立てて胸から赤い液体を吹き出した後、アマレ曹長の身体は見る見るうちに白い塵になって消えていく。


 この世のありとあらゆる生き物はすべて、身体のどこかにコアと呼ばれる魔力の源を持っている。

 空気中の魔素を吸収し、魔力に変換、貯蔵するその器官を破壊されると、すべての生き物は死に至り…このように塵になって消えてしまうのだ。


 人のコアの位置は、心臓の少し右あたり…丁度、胸の中心に位置する。アマレ曹長はコアを壊されて死んだのだと、誰の目から見ても分かった。


 そして、彼を背後から突き刺した人物を見て、


「ヌヒョォォ!?バカな、貴様はさっき…!!」


 ゲフィスは素っ頓狂な悲鳴を上げて後ずさった。


 無理もない。

 そこに立っていたのは、さっき自身の分隊が始末したはずの、紅髪紅瞳の青年だったからだ。


 その両腕からは、今さっきアマレを死に至らしめたであろう魔力の刃が、煌々と紅く輝いて生えている。


「…まずは1つ」


「貴様ァ!よくもアマレ隊長をォ!」


 装備品だけを遺して塵になってしまった分隊長。


 その隣に立っていた剣兵が激高し、その男へと斬りかかった。


 袈裟斬りの一撃は見事に相手の姿を捉え、紅髪紅瞳の青年の身体を無残に引き裂く。


 …が、その姿は一瞬にして、煙のようなエフェクトを残して消えてしまった。


「…二つ」


「なっ―…ぁっ!?」


 剣兵が目を見開くとほぼ同時に、今度は彼の背中から魔力の刃が生えた。


 いつの間にやら紅髪紅瞳の青年は剣兵の懐へと潜り込み、身体ごと押し付けるようにして魔力の刃を挿し込んでいた。


 先程と同じく、コアをやられたらしい。剣兵の身体は、風に吹かれ白い塵になって消えていく。


「い、今のは!」


「幻影だッ」


「俺たち、幻惑魔法にかけられてるぞ!」


 狼狽える兵士たち。士気が下がり、隊列が乱れる。


精神魔導士メンタリスト幻影消去魔法アンチ・ファントムデス!急ぎなサイ!」


「ぎょ、御意!」


 ゲフィスに命じられ、ハッと我に返った精神魔導士メンタリストが、術を打ち消すべく奮闘し始める。


 だがその間にも、紅髪紅瞳の青年は、幻影を纏って容赦なく彼らへと襲い掛かった。

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