第二十話 迎撃!!帝国技研 ①

「…お前たちを、排除する」


 紅髪紅瞳の青年―…アルにそう宣言され、一瞬「ヌヒッ」と息を飲んだゲフィスだったが、


「ヌヒョォ!排除する、だとォ?強がりも程ほどにしておきなサイ!」


 自分たちの方が圧倒的に優位な状況にあることを意識してか、すぐに調子を取り戻した。


「その紅い眼と髪…魔力量には自信があるのかも知れませんが?たった1人で、一体何ができると言うのデス!」


「…」


「それに、知っていますよォ?アナタは遺跡の探索から帰ってきたばかりで、まだロクに休めていない。魔力も体力も消耗した状態で、ワタシの部下たちに勝てると思いマスか?」


 ……実際、こいつの言う通りだ。


 一方のアルは、努めて冷静に状況を見ていた。


 現状は多勢に無勢、遺跡探索を終えた後はユキを担いだまま不眠不休で帰ってきたため、疲労も溜まっている。


 愛銃は分解された状態で家の中だし、防具も身に着けていない。身にまとっているのは、使い古した綿製のシャツとズボンだけだ。


 言うまでもなく、戦況は不利である。まともに戦えば、一瞬でやられてしまうだろう。


 …そう、まともに戦えば。


「ヌヒョヒョ、それでも戦うとあれば仕方がありまセン。アマレ曹長、やりなサイ!」


「…御意に」


 先程集団の前で声を張り上げていた男は、この隊の副隊長的なポジションだったらしい。他の者より一際身体の大きなその男が、周囲に指示を出し始める。


「分隊前へ。半包囲隊形」


 ……なるほど、練度は悪くない。


 さすがは正規の軍隊と言うべきだろうか。黒い制服を纏った集団は、迷いのない整った動きでアルを半円状に包囲してくる。


 ……兵種は、銃兵が三、剣兵が二、隊列後方に術兵が一…。


 魔導銃を持った隊長を中心に、左右に剣兵、その隣に銃兵が並ぶ隊列だ。


 列の後方、下がっていったゲフィスの隣には、怪しげな佇まいで両手を突き出した術兵の姿が見える。


 おそらく彼が、ゲフィスの言う精神魔導士メンタリストなのだろう。


――


 隊長を含め、彼らが持つ銃は皆同じ、セレソル工房製SEL-32-K型だ。古代世界における『サブマシンガン』を模したその銃には、携行性を高めるためにストックがなく、射撃時にはレシーバー前部から横に突き出たグリップを掴んで銃身を安定させる。


 SEL-32系統の魔導銃は、『ライフル』タイプからのダウンサイジングに伴い、マズルアタッチメントの交換機能をオミットされている。


 使えるのは連射型のみだが、そのおかげで従来の魔導銃に比べて必要な部品点数が大幅に減少し、高い整備性・生産性を獲得。帝国軍にも正式採用され、後方勤務の部隊や衛兵を中心に配備が進んでいると聞く。


 だが、ここで重要なのは、彼らが扱う銃が「連射型しか使えない」という点だ。複数の兵科が互いの欠点を補いつつ戦う軍隊において、1人であれこれできるようになるアタッチメント交換機能は無用の長物だったのかも知れないが…戦う方としては、対処がしやすくて助かる限りである。


――


 ……とはいえ、こちらの武器は即席で作ったマジックブレードのみ。元が魔導障壁であるこいつでは、実体剣相手にまともに打ち合うこともできん。


 仮に敵の剣兵の斬撃を防御しようとしても、彼の魔力の刃は一瞬で砕けて敵に斬り伏せられてしまうだろう。


 ……まずは、頭を潰すか。



 そう思い、隊列の中心に位置する大柄な男をアルが静かに見た、その瞬間であった。

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