婚活中80歳女性の転生婚活!

崔 梨遙(再)

第1話  婆、転生する!

 気付いたら、ヤエは暗闇の中にいた。電灯を点けようとしたら、リモコンが見つからない。携帯も見つからない。手探りで探すが、何も手に触れない。そもそも、床の感触が無い。


 待てよ? いくら電灯を消していたとして、ここまで真っ暗になるのか? ヤエは疑問に思った。しかも、この空間、畳やカーペットの上ではない。まるで宙をさ迷っているようだ。


“ヤエ……ヤエ……”


 頭の中に直接声が響く。怖い。“これは夢だ”ということにして、ヤエは眠ろうとした。寝て起きたら、きっと日常に戻れるだろう。


“起きんかい、あほんだら!”

「え! 何? 何なん?」

“現実逃避するなっちゅうねん”

「え! これって現実なん?」

“現実だ、お前は今、非常に微妙な立場にいる”

「どういうことか、全くわからへんのやけど」

“お前は死んだ!”

「なんで? 死因は? いつ死んだん?」

“細かいことはいい、お前は死んだのだ”

「ほな、早よ、天国に連れて行ってや」

“アホか? お前の普段の行いで、天国に行けるわけが無いだろう?”

「え! ほな、地獄?」

“それが困っているのだ”

「何に困ってるの?」

“天国からも地獄からも、お前は受け取り拒否をされているんだ!”

「そんな、郵便局ちゃうねんから」

“だから、お前の行く場所が無くて困っている”

「ほな、私は幽霊になってさ迷うの?」

“話は最後まで聞け。転生させてやる”

「転生?」

“そうだ、転生だ。中学2年生から人生をやり直せ!”

「やったー! 人生をやり直せる、ラッキー!」

“では、これでお別れだ。今度こそいい人生にしろよ”

「ところで、あなたは女神様ですか?」

“好きに呼べばいい。お前はこれから妙(たえ)として生きろ。では、行け”

「はい、いってきます!」



 気付いたら、教室だった。どうやら昼休みらしい。妙はトイレの鏡の前に立った。若い! さすが中学生。


「嘘でも夢でも無かったんやー!」


 妙は大喜びだった。妙が学生の頃は、中学生で男子と付き合うなど難しかった。だが、今は令和、中学生で付き合っても珍しくない。妙はニヤニヤしてしまいそうで、ニヤつきを止めるのに必死だった。やがて、ニヤつきを隠す気も無くなり、堂々とニヤニヤするようになった。


 妙は気付いていなかった。トイレの鏡を見た時、若い以前に全体的にふっくらした体型が映っていたことに。そう、妙はぽっちゃりさんだった。だが、自分のことを美人だと思っている妙は、体型のことなんか重視していなかったのだ。



 妙は、校内の将来有望な人材をチェックし始めた。まずは成績の良い男子。成績の良い者は偏差値の高い大学に入学する。すると、就職も有利になり安定した将来が手に入りやすい。そして今、妙は2年生。3年の先輩も1年の後輩もターゲットに出来る。妙は、スグにアタックする順番を決めていった。成績上位者の中から、顔の良い順番でのリスト。後、親が金持ちの生徒も抜かりなくチェックしていた。妙は、既に玉の輿に乗ったつもりになって笑いが止まらなかった。



 翌日、妙の机の中に手紙が入っていた。


“お話ししたいことがあるので、放課後、屋上に来てください”


と、書いてあった。妙は笑いを堪えるのに必死だった。人生、こんなに上手く行くとは思わなかった。



 放課後、屋上に行くと、1人の男子生徒が待っていた。







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