世々界々――違う世界を生きる者たち

森下 巻々

第1話 ヒカル

1 - 1 ヒカルの当惑(相棒)

 高校三年生になったばかりの吉本光ヨシモト ヒカルが気づくと、港湾近くの公園の、ベンチの上に坐っていた。手帳を手にしたまま、うとうとと眠っていたらしい。

 昼過ぎだろうか。陽は高くあり、ぽかぽかと暖かかった。

 ただ、彼は、眠りにつく前のことが思い出せなかった。今日は何日だろうか。四月の一一日の夜に自分の部屋のベッドで眠りについたことは覚えている。

「どうしたのかな? ぼーッとしているようだけど」

 少し離れていた所で、一人でダンスしていた若者が近づいてきて、ヒカルに声を掛けたのだった。

「ああ、タクか。白石卓シライシ スグル。」

 タクは、不思議な顔をして、

「変な顔して、躰の具合でも悪いんじゃないですか。もう直ぐ出発したいと思っていたのだけれど」

「出発するって、何処に」

「何処にって。今日は際歳サイサイまでは行きたいッて言ってたじゃないですか、ヒカルさんだって」

「さいさい?」

 ヒカルには、初めて聞く名前であった。地名のようであるが、全く馴染みがない。また、いまいる公園が何処なのかも分かっていなかった。

「おれ、家に帰りたいんだけど」

「家ッて、施設シセツのことかな。昨日、出発したばかりじゃないですか。先輩センパイに会いに行こうッて最初に言い出したのはヒカルさんでしょう。それに、いま帰ったッて、どうせ怒られますよ」

 彼には、どうもタクの言うこと全てが不思議に思えた。

 タクは中学校からの同級生で、お互いの家へ行ききし合うくらいに仲が良かった。いまは別々の高等学校に通っているが、それでもたまに会っていた。

 要領を得ないヒカルを見た、タクが、

「ちょっと、待っててください」

 そう言うと、自動販売機に向かって走っていき、缶コーラを買ってきてくれた。

 それを飲みながら、自分が手に持っていた手帳をぱらぱらと眺めてみて、ヒカルは驚いた。

 日本国の地図が掲載されているようなのだが、それには北海道や九州等の別がなく、全てが繋がったような一つの陸地となっていたのだ。地図について、タクに話を振ってみたが、その図像が当然である風に会話に応じていた。

 どうやら、いまいる地域は鴨東カモトウと言うらしかった。彼らは、西の方の赤貝アカガイという地域にある施設からここまで、自転車でやってきていたのだ。

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