第23話 『ガチ恋』と【失恋】と「よつんばい」
【……という事で出ていってしまったけど――続けるのよね、もちろん】
『はい! 是非ともお願いしマス!』
【うん。じゃあ『
『いえ、ツルネが完全な聖人だとは思っていまセン。嘘を吐いて人をからかうのが好き、というのは演技ではないと思いマス。ものすごく自然で楽しそうでシタから』
【ええ、私もそう思うわ】
『でも……根はいい子だと信じたいんデス』
【……だとするならば、そんな子がなぜ『灰咲君の事をなんも思っていない』なんて言って私達を嘲笑するような態度をとらなければなかったのか、という謎を解かなければならないわ】
『はい……サヤカと私のアドバイスが終わってから、ちょっと何かを考え込むような間がありまシタよね。その後で急にあんな酷い事ヲ……』
【ええ。そこで何か心変わりがあったとしか思えないんだけど……ちょっと想像つかないわね】
『ううむ……』
【…………ねえフワリス。大上さんの事をいい子だと思ってるのよね?】
『は、はい……』
【だったらいい方法があるわ】
『え? なんデスか?』
【自分が彼女の立場だったら、と仮定して考えて見ればいいのよ。私が知ってる限り貴女以上の『いい子』はいないし】
『い、いえいえ、そんな事はないデスけど……』
【あのね、この議論が始まっている時点で貴女もうほぼ聖人だから……まあとにかくものは試しよ。ちょっとやってみて頂戴】
『わ、わかりまシタ……ええと、私はユイトにナンパから助けてもらっテ……それで好きになってしまっテ――ユイトと近しい人にアドバイスをもらおうと思って、実際にその二人から意見をきいテ、そしたらその二人が――――ああっ!?』
【え? 早速なにか思いついたの?】
『あ、はい。合ってるかは分かりまセンけど、私だったらこうなるかな、という感じのが一つ……』
【それはどんな仮説?】
『ええと……私達に遠慮したのではナイかと』
【……ん? どういう事?】
『あ、あのデスね……自分で言うのもちょっとアレなんデスけど、ツルネは途中で私達もユイトの事が好きだって気付いたじゃないデスか』
【ま、まあそうね……でも、それで即身を引くって事にはならなくないかしら】
『ふ、普通はそうなんデスけど……えっと……あの……』
【なに? 遠慮してないで先を続けて頂戴】
『は、はい……あのデスね……サヤカのユイト好きっぷりがガチすぎたのではないかと』
【は……はあ?】
『い、いや、歯ぎしりとかしてまシタし、あの、好きなの丸わかりなのに我慢してるのがなんというか、めんど臭いというカ……』
【め、めんど――っ】
『あ、ご、ごめんなさい口が滑りまシタ!』
【ちょ、ちょっとねえフワリス! そんな事言ったらそんなキャラで灰咲君に好きって言えてない貴女の方がよっぽどめんど臭いじゃない!】
『なっ……そ、そんな風に思ってたんデスか! 酷いデス!』
【それはこっちのセリフよ!】
『む、むむむむむ……』
【ふ、ぬぬぬぬぬ……】
『――って、なんか議論が変な方向に行ってマスよね……』
【そ、そうね、ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまったわ】
『わ、私もすみませんでシタ……ともかく、ツルネは私達の想いが想像以上だったので、ちょっと引いてしまったのではないカト……』
【……うん。それはありえなくはないと思うけど……だとしても、あんなに露悪的にふるまう必要はなくない?】
『ええとデスね……あくまで私だったらそうするかも、という話なんデスけど……気を遣ったんではないカト。自分達のせいで後輩が恋心を引っ込めてしまったかも、なんて悟られたら、罪悪感を抱いてしまうかもしれナイ。だったら最初から『嘘』だった事にして自分が悪者になれば『白黒つけよう会』の輪を乱さなくて済む……ト』
【な、なにそれ……いくらなんでもお人好しすぎない?】
『い、いえ……私も実際そうするかまでは分からないんデスけど……』
【はあ……私ならそんな事、思いつきもしないわ】
『ま、まあツルネ本人に聞いてみないと本当の所は分かりまセンけど……』
【――ですって。どうなの、大上さん】
《っ!?》
『……え? 何言ってるんデスか、サヤカ。ツルネはとっくに――』
【帰ったフリをするんだったらもう少し上手くやった方がいいわ。一生懸命ドアに耳を押しつけている大嘘つきの『オオカミ』さん》
《――っ!!》
『ツ、ツルネ?……まさか外から聞いてるんデスか?』
《…………ニャ、ニャー》
【…………………】
『…………………』
《…………ゴ、ゴロニャーゴッ!》
【…………………】
『…………………』
《……あ、あははー……ですよねー、無理ですよねー……お、お邪魔しまーす……》
【ええと……今の仮説がどこまで合ってるか、確認したかったんだけど……】
『きくまでもなさそうデスね……ここまで顔が真っ赤ダト』
《う……ううううううううっ……合ってるし……二人が話してた事、ほとんど合ってるしぃ……》
【はあ……まあ外でコソコソしてる時点で『シロ』方面なんだとは思ってたけど……想像以上の『いい子』だったって事ね】
《ご、ごめんなさいっ!……理由はそういう事なんだけど、二人に酷い事色々言っちゃったのは事実だし……ほんっっっとにごめんなさいっ!!》
【…………謝るのはこっちの方だわ】
《……へ?》
【でも待って……ちょっと今、あまりの自己嫌悪で動けそうにないから少し時間を頂戴……】
《え、ええと……なんでサヤちゃん先輩がヘコんでんの?》
『あ、あはは……サヤカは真面目デスからね。そっとしておいてあげてくだサイ』
《フワっち先輩……あの、私――》
『もう謝る必要はありまセンよ、ツルネ。でもひとつ教えてくれまセンか? あそこまでしたのは、本当に私達への遠慮だけだったんデスか?』
《あ、ああ、その話か……うん、さっきも言った通り、二人の議論がほぼ答えなんだけど、純粋な遠慮だけではないんだよね。なんつーか、自分の気持ちがちょっと信じられなくなったっていうか……》
『自分の気持ち?』
《うん。二人の様子からしてユイくん先輩を『本当』に好きなんだな、ってのがビンビンに伝わってきた。一回助けてもらって、ちょっといいなって思ったくらいの私の気持ちって二人に比べると『嘘』なんじゃないかなって……そんな半端な私が三人の雰囲気を崩しちゃいけないと思って、ちょっと過激な感じの言い方を――》
『それは違いマス、ツルネ』
《……え?》
『人を好きだという想いに『本当』も『嘘』もありまセン。そんな事で遠慮していたのでしたら、私達やユイトにではなく、ツルネ自身の気持ちに対して失礼だと思いマス』
《フワちゃん先輩……》
『ですから、ちゃんと戦いまショウ。サヤカも含めて、誰がユイトに好きになってもらえるか――正々堂々勝負デス』
《……………………》
『あ、でも告白もできていない私が偉そうに言える事じゃありまセンね……えへへ』
《…………………………かっけー》
『……へ?』
《か、かっけーっ! 私の事信じてくれたのもかっけーと思ってたけど、なに今の!
クッソかっけーじゃん! 神! フワちゃん先輩マジで神!!》
『い、いえ、そんな大したもんじゃないデスけど……ああそうだ。誤解も解けた事デスし、相談の続きを――』
《あ、それもういいや》
『い、いえ、ですからツルネ、あなたが身を引く必要なんて――』
《ああいや、そういう事じゃなくて……フワちゃん先輩がかっこよすぎて、ぶっちゃけもう……ユイくん先輩の事、どうでもよくなっちった》
『ええっ!?』
《だってフワちゃん先輩、普段はあんなにほえほえしてるくせに、こんな男前な事言
い出すんだもん。ズルくね? ギャップずるくね? ああもうマジかっけえええ!》
『ちょ、ちょっと待ってくだサイ、なんか話が変な方向に……』
《ああ、恋愛感情とかそういうのじゃないから。ただ人としてリスペクトってだけだから!》
『い、いや、そういう問題じゃなくてデスね……』
《うおお、こうしちゃいらんないわ! ちょっとフワちゃん先輩ファンクラブ立ち上げてくっから!》
『あっ! ツ、ツルネ、ちょっと待ってくだサイ! ツルネッ……!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぶっっっっっはあ! と、取れた! やっとタオル
【ありえないよぉ……最後まで鶴音ちゃんを信じてたフワリスに比べて、私は完全に疑ってて……あんなにいい子だったのに……汚れ役を買って出てくれた子に対してあんな事をっ……私……最低の人間だよぉ……】
『ありえないデス……私が余計な事を言ったせいデ、相談の内容がねじ曲がってしまいまシタ……いや、それどころか一つの恋心が潰れてしまいまシタ……そしてその事に、心の奥でちょっとだけ……ほんのちょっとだけホッとしてしまっていマス……私は最低の人間デス……』
「え?……え? な、なんで二人ともよつんばい? で、何かちっちゃい声でブツブツ言ってるし……というか、大上は?」
【私もう……『白黒つけよう会』にいる資格ないよぉ……】
『私はもう……相談を受けない方がいいのかもしれまセン……』
「…………何があったんですかね、マジで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます