第22話 『素直』と【天使】と「ブーメラン」
『ツルネがユイトに好きになってもらう方法――それは、告白する事デス』
《ん? 何言っちゃってんのフワっち先輩。それはもうやるつもりなんだってば。その確率を上げたいからこうして相談してんですけど?》
『はい……その覚悟はあると感じましたので、ほとんど実践してしまっていマス。と言いまシタ。ツルネ……あなたがユイトに好きになってもらうには、正面突破が一番可能性が高いと考えます』
《へえ、なんかイミシンじゃん。もうちょい詳しくプリーズ》
『はい。ちょっと失礼な物言いになってしまうかもしれまセンが、それでもいいデスか?』
《もっちろん。私の方が大分シツレーな事してる自覚はあるし》
『それでは……あくまで私見デスが、残念ながらツルネはユイトの好みのタイプからは少し外れていると思いマス』
《あー、サヤちゃん先輩もエロキャラは隠せって言ってたね、そーいえば。まあユイくん先輩、明るくて素直で天使スマイル全開、みたいな分っかりやすい女が好きそーだもんね》
『まあそこまで単純かどうかは分かりまセンが……』
《でもそれがほんとだったら私、望みないじゃん。陰湿だしひねくれてるし、人をからかってニヤニヤしてるし、完全に真逆》
「いえ。ユイトは人を表面上だけで判断するような浅い人ではありまセン。その本質を見抜く確かな目をもっていマス――が、全知全能の神という訳でもありまセン。彼に本当のツルネを理解してもらえるように努力する必要がありマス」
《それがストレートに告白するって事? まだよく分かんないんですけど》
『ツルネの奥にはユイトを『好き』だという素直な気持ちが存在しマス。デスから、それをただぶつけるだけでいいんデス。ふざけたり茶化したりしないで、はっきりと誠実に。それであなたの『素直』は必ずユイトに届きマス。それを受け入れるかどうかは、私達ではなく彼が決める事デス』
《ふーん……つまり、『お前は可能性低めだけど、小細工とかしたら余計確率下がっから火の玉ストレートぶちこむのが一番マシだ。そんで駄目なら諦めな』――こういう事?》
『あ、あはは……すごい要約の仕方デスね。気を悪くしたんでしすみまセ――』
《いやいや、フワちゃん先輩。それ深いわー。なんもアドバイスしてないように聞こえて絶妙に深いわー。サヤちゃん先輩とはまた別の形で誠実だわー》
『えへへ、そう感じてもらえたなら幸いデス』
《でもさー、フワちゃん先輩》
『ど、どうしたんデスかツルネ、急にニヤニヤして……』
《それ、盛大なブーメランだって気付いてる?》
『ブーメラン?』
《さっきの理論から言えばさ、明るくて素直で天使みたいなスマイルの女が『好き』を真剣に伝えれば、ユイくん先輩ほぼ確でオチるって事でしょ?――なんで告白しないの?》
『へ?……わ、私がユイトにデスか?』
《そーに決まってんじゃん。明るくて素直で天使みたいなスマイルってそれ、フワちゃん先輩まんまじゃん。裏表とか一切なさそーだし》
『い、いえいえ! 私はそんなにいいものじゃありまセンので……』
《でも客観的に見て私よりは確実にそっちじゃん。で、好きなんでしょ、ユイくん先輩の事。それでなんで告んないの? 馬鹿なの? 死ぬの?》
『そ、それは……な、なんと言いマスかその、勝率の問題ではないといいマスか、まだその時期ではないと言いマスか……』
《は? そんなんで私に、告白しろとかほざいてたの?……………ウッッザ。クッソ腹立つんですけど》
『う……うう……な、なんの……申し開きも……できない……………デス……ごめんなサイ……』
《キャハハ、うそうそ! なんつー顔してんのフワちゃん先輩。そんな事でキレるワケないじゃーん》
『でも、ツルネの言う通りデス……』
《まあウザいって感じたのはほんとだけどね。私からしたら、好きなのに告んないとか信じらんないし》
『うう……』
《ま、それはそれとして、サヤちゃん先輩とフワちゃん先輩が馬鹿が付くほどのお人好しなのはよく分かったよ……………………………………………この変が潮時かな》
【……
『……ツルネ?』
《二人ともさあ――私が本気でそこの奴の事、好きだと思ってる?》
【『……え?』】
《キャッハ! ウケる!! マジウケるんですけど!》
【ちょっと……言っている意味が分からないんだけど】
《だ、か、らぁ。私は
【……待って。理解が……理解が追いつかないんだけど……じゃあなんで……貴女はわざわざここに来たの?】
《そんなの、うそつく為に決まってんじゃん。今回の相談内容はぜーんぶまーっかなうっそでしたぁ!》
【嘘自体が目的だと?……何故? 何故そんな意味の無い事を……するの?】
《それは私がオオカミ少女だからじゃない? キャハハ!》
【…………】
《うっそー。ちゃんと具体的な目的はありまーす。それそれ!そのマヌケな顔が見たかったんだよねえ。言ったでしょ? うそついて他人がうろたえるのを見るのが好きだって》
【……………………………―りなさい】
《えー? なんてぇ?》
【帰りなさい……今すぐに】
《こわーい。もしかして怒ってるぅ?》
【貴女にこの場にいる資格はないわ……帰って】
《そうだね……ごめんなさい》
【……え?】
《うん……私が間違ってた。人としてやっちゃいけない事をしてた……許してください!》
【あ、いや、まあ……分かってくれたならそれでいいのだけ――】
《うっそー! てかマジ? こんなんで騙される普通? こんな急激に心変わりするワケないじゃん。チョロすぎて草生えるんですけどw》
【なっ……!?】
《ついでに言わせてもらうと、二人とも男の趣味悪すぎー。あんなビビリのヘタレのどこが――》
【いい加減にしなさい!】
《うわっ……マジギレだぁ》
【……貴女のした事は、真剣に答えようとしたフワリスや、勇気を出して貴女を助けた灰咲君に対する冒涜だわ……謝りなさい】
《ごめんちゃーい》
【こ……このっ――】
《あ、そろそろマジでシャレになんなそー。んじゃ、この辺で退散しまーっす》
『待ってくだサイ、ツルネ』
《……ん?》
『まだ相談は終わっていまセンよ』
《はぁ? フワっち先輩、話聞いてた? 相談自体がぜーんぶ嘘だったって言ったじゃん》
【そうよフワリス。なぜこんな人間を引き止めるの?】
『サヤカ。私はツルネを――相談者を信じたいデス』
【……あのねフワリス。それは立派な心がけだけど……残念ながら悪意をもった相談者は存在するわ。ちょっと前にも相談を装って、全く別の目的だったって事があったじゃない】
『はい。あれはとても悲しい相談でシタ……』
《へえ、私みたいなクソ人間、他にもいたんだねー》
【ええ。個人を特定するような事は言えないけど……嘘の内容も今回と同じ『他人への好意』に関する事だったわ】
《キャハハ! なんだかそいつとは友達になれそうだねー》
『いいえ。その人とツルネは決定的に違いマス』
《ん? どゆ事?》
『あの時の相談者はユイトに嘘を指摘されて、認めまシタ。でもあなたは自分から白状した――それは何故デスか?』
《だからマジで話聞いてた? アンタ達の反応を楽しみたかったからだっつってんじゃん》
『そのあんた達にユイトは入っていないのでショウか?』
《……は?》
『本当に反応を楽しみたいのなら、ユイトに『好きだ』と告白してからの方が効果的なのではないでショウか? 私達からのアドバイスを活用してユイトに好意をもってもらい、その上で嘘だったと告げた方がより『楽しい』のではないでショウか?』
《はっ、なーんだ、そんな事。ユイくん先輩がオタオタしてんのはナンパの時に十分タンノーしてんの。ま、でもそれだけで終わらせんのも勿体ないから、その関係者でも遊べないかなーって。今回のメインターゲットは最初っからアンタ達二人だっつーハナシ》
【フワリス。この手の愉快犯に理屈は通用しないわ。その場その場で享楽的な衝動に身を任せているだけなんだから】
『サヤカ……私はいつも思っていまシタ。私はこの『白黒つけよう会』のお荷物なのではないかと』
【……え?】
『ユイトは人の心を察する力があって、この『白黒つけよう会』には欠かせない人――サヤカは知識量も豊富ですし、客観的で鋭い視点をもっていマス。ここ数件はユイトの得意とする案件が多かったデスが、サヤカの論理的思考で解決した問題もいままでに沢山ありマス。それに比べて――私はほとんど戦力になっていまセン』
【フワリス、それは違うわ。この『白黒つけよう会』は私達三人と相談者の議論によって成り立っている。問題の解決は誰か一人の力によるものではないわ】
『それは理解していマス。ユイトとサヤカが私を必要としてくれている事モ……でも私はもっと直接的に相談者の力になりたいんデス。でも私はユイトのような察しのよさもサヤカのような知力もない――だったら私はせめて相談者を最後まで信じヨウって』
【フワリス……】
『綺麗事かもしれまセン。信じてもこの前みたいな結果になるかもしれまセン……それでもやってみたいんデス。でも私一人の力では足りまセン。サヤカ……ツルネの相談は嘘ではない、という前提でもう少しだけ議論してくれまセンか?』
【……………………………………………はあ。分かったわ。それでフワリスの気が済むのなら】
『あ、ありがとうございマス!』
『ちょっとさあ、なーにクッサい友情ごっこ初めてくれちゃってんの? 当の本人がうそだっつってんのに信じるもクソもないじゃん。キャハハ! ばっかみたい! これ以上付き合ってらんないから、私帰るわ――じゃーねぇぇ》
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