第5話 『議員』と【股間】と「作戦会議」

《ど、どうしたんだい清香さやかちゃんにフワリスちゃん。いきなりそんな吹き出したりして……》



【ご、ごめんなさい。個人的な知り合いだったものだからつい】

『そ、そうデスね。アイはお友達なんでビックリしちゃいまシタ……』



《そう? それにしても大袈裟だった気がするけど……まあ、あいちゃんを知ってるんだったら話は早いね》



【ゴ、ゴホン……改めて続きを聞かせてくれるかしら。ただ好きになっただけなら『天冥てんめい雪月花せつげっか』である貴方が、わざわざここに相談に来る必要はないと思うから】



《ご明察。まず彼女をなんで好きになったか、なんだけど……きっかけは彼女がよく目に付くからなんだ》

「目に付く? 佐藤はそんなに派手なタイプじゃ――ああ、俺も彼女の事は知ってるんだけど、あんまり目立つような子じゃないよな?」



《その通りだよ灰咲はいざき君。俺のファンってみんな練習中にキャーキャー黄色い声援送ってきたり、グイグイ押しが強かったり――積極的な女の子ばっかりなんだ。そんな中で彼女は……一番目立たない。他の子達とはちょっと離れた所でぽつんと立っててさ、たまたま俺と目が合ったりすると、恥ずかしそうに顔を背けて走ってっちゃったりして……なんか印象に残ってたんだよね》



【成程、控えめであるが故に目に付くという逆転現象が起こった訳ね】

「そういう事。最初はちょっと変わった子がいるなあ、くらいの感じだったんだけど……徐々に気になっていって、いつの間にか……うん、これ以上はうまく説明できないんだけど、まあ人を好きな理由を言語化するなんて野暮な話か。好きだから好き。これ以上は何もいらないね」



『わあ、ソウスケはロマンチストなんデスね!』

「はは、だろ? まあでも問題はここからなんだ…………フワリスちゃん、花宮重光しげみつって知ってるかな?」



『ハナミヤシゲミツ?……ああ、国会議員の人デスね。『永田町で輝く商店街の星』で有名な……とても優秀で、未来の総理大臣候補って言われてマスよね』

《それ、俺の親父なんだ》



「マ、マジか……!」

『ほええ……』

【驚いたわね…………言われてみればどことなく面影があるわ……花宮議員はビジュアルもいいから主婦層にも人気があるし】



《ああ。別に隠してる訳じゃないけど、あんまりおおっぴらにする事でもないからここだけの話って事でよろしく。で、その親父なんだけど……俺の交際関係について異様に厳しいんだ。『同じ政治家関係の娘か、由緒ある家柄の子女しか認めん』とか言っちゃってさ……別に結婚するとかじゃなくて、付き合うだけでもそんな事言ってくるんだ》

【それはちょっと時代錯誤な感じね】



《ああ。『あらゆる差別をなくす』とか言って、政治的な問題には柔軟な対応するくせに、そういう事に関してだけは異様に頭が固くて……で、あいちゃんのお父さんは一般の会社員なんだ。もちろん俺はそんなの気にしないけど、親父は絶対許してくれない……だから親父を説得できるようなうまい方法を考えてほしいんだ》



【花宮爽介君。あなたの相談内容は把握したわ。私達『白黒つけよう会』に任せて頂戴】

《おお、心強いね、ありがとう》



【でも……その前にちょっと作戦会議させてほしいの】

《作戦会議?》

【そう。いくらなんでも話をきいてすぐにハイ解決は難しいでしょう? だからいつも私達三人だけでちょっと、回答の擦り合わせをさせてもらってるの】



「ん? なに言ってるんだ黒妃くろき、そんなの今まで一回も――もごっ!?」

『あ、あはは! サヤカの言う通りデス! そういう訳なのでちょっと失礼しマスね

ソウスケ!』

《へえ、そういうスタイルなんだ。こっちは相談に乗ってもらってる身だ。当然君達のやりやすいようにやってもらってかまわないよ》



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ぶはっ! な、なんだよ白姫しらひめ、いきなり口抑えてこんな隅っこまで引っ張ってきて……」

『ごめんなさいユイト。でもこれは、どうしても必要な事でシタので……サヤカ、ファインプレーデス』

【ええ……さすがにこれはそのまま話し合いを始める訳にはいかないものね。よりによって思い人が佐藤さんとは……】



「え? なんでよりによってなんだ? そりゃ親父さんの事は考えなきゃいけないけど、佐藤と花宮、お互いに好き合ってるならなんの問題もないじゃんか」

『【はああ…………】』



「な、なんでシンクロして深いため息……?」

【そうね。昨日の夕方までだったらなんの問題もなかったわね】

『ええ、一日遅れでシタ……』

「???」



『で、どうしまショウ、サヤカ。そもそも今回の相談自体がもう半ば意味をなしていない訳デスが……』

「え? 意味をなしていないってどういう――」

【そうね……でもよく考えてみれば、それは私達が佐藤さんと花宮君、双方の事情を把握しているから言える話よ。お互いの相談については守秘義務があるから、完全に切り離して考えるべきだわ】



『おお、成程。私達は純粋に今回持ち込みのお父様――シゲミツについての回答をするというのが自然デスね』

「いや、最初からそういう話じゃないのか? なんでわざわざここでヒソヒソ話してるるのか意味が――」

【ええ。その後でその回答を受けて花宮君が佐藤さんにどうアプローチし、その結果がどうなるかという事に関しては私達は関与すべきではないわ】

『うん、シンプルですね。ではどうやって『シゲミツを納得させるか』という事に集中しまショウ!』



「あの……なんかさっきから俺、微妙に無視されてない?」

【微妙じゃなくて完全にシカトしてるわ】

「いや、そんな堂々と言い切られても傷つくんですけど……」



【どうしてそんな事をされるのか……自分の胸に――いえ、股間に手を当てて考えてみるといいわ】

「そんなんで分かる訳ねえだろ!」



『シーッ! ソウスケに聞こえてしまいマスよ』

「あ、ああ、悪い……黒妃が変な事言い出すもんだから」



『いえ、手を当てるのは股間で間違いないと思いマス』

「なんで!?」



《ハハハ、秘密の作戦会議の割には随分と賑やかだね。個人的には落ち着いてゆっくり練ってもらって問題ないんだけど……あまりかかりすぎると部活が始まっちゃうんだよね。こっちの都合で申し訳ないけども》



【相談者様もああ言ってる事だし、そろそろ戻りましょうか】

「この会議になんの意味があったのかは分からんけど……まあ俺達のやる事は決まってるからな」

《はい! いつも通り全力で頑張りまショウ!》



◇◇◇◇◇◇◇◇



【――という事で、もしかしたら一時的に不快な思いをさせてしまうかもしれないけど、ご勘弁願うわ】

《オーケー。そういうスタイルだという事もなんとなく聞いているからね。要は極端な議論を戦わせる事で、ちょうどいい解決法を浮かび上がらせるという事だろう?》



『ご理解ありがとうございマス! それではさっそく始めさせてもらいマスね』

《ああ、よろしく頼むよ》



【ではまず私から。自分の信念を主張する大人――ましてやトップクラスの政治家を説得して考えを変えてもらう、などというのは正直かなり難しいわ。よって、『騙す』案を提案するわ。これが結婚となれば話は変わってくるけれど、単なる学生の交際であればいくらなんでも身辺調査まではしないはず。入り口だけごまかしてお付き合いが始まってしまえば、あとはどうとでもなると思うわ。彼女はとてもいい子だから、お父様もきっと気に入るはずよ】



《なるほど、『騙す』か……たしかにあの親父を説得するよりは現実的な考え方だね》



「となると大事なのは『騙す』内容だな。黒妃、具体的な案はもう思いついてるのか?」

【勿論。政治関係者か由緒ある家柄ならいいわけよね。政治関係は下手すると一発でバレそうだから、今回選択するのは後者……そしてすぐに嘘と判明し辛い、遠い昔の名家の子孫という事にするのが望ましい――となると、この人しかいないわ」

「おお、誰なんだ?」



【卑弥呼よ】



「遠すぎるわ!」







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