第3話 運命の出会い

 その日はたまたま、何時もよりかなり早い電車で登校した。特に理由はなく、なんとなく朝、早く起きてしまって準備も出来たので、家を出たらその電車に乗れたというだけだ。早く学校に着いたところで、部活の朝練があるため、学校の校門は開いているので問題はない。私は朝練がない部活に入っているので、早く着いたら、教室に行って今日の授業の予習をしようと思っていた。


 そんな早起きした私に、神様は運命の人との出会いを授けてくれた。早起きは三文の徳とはこのことだと実感したのは初めてのことだ。


 朝の電車は混みあっていて、大抵は椅子に座ることはできない。2駅分しか乗らないので、乗車時間は15分程。そのため、電車の中では立っていることが多い。電車の中で乗客を観察することが私の日課だ。いつもより早い電車でも、すでに人がたくさん乗っていた。


(今日は知らない人しかいない……。あの人、メガネ変えたかな。前のメガネは少しフレームがぼろくなってきていたから今日こそ、変えているかも。あの女の人は、最近メガネをかけていなかったけど、コンタクトにしたのかな。絶対にメガネの方が魅力倍増だからコンタクトなんてしなくても良かったのに。もし私の言葉が通じるなら、今後もメガネをかけていて欲しい。あの人は確か……)


 いつもだと、同じ時間に電車に乗っている顔見知りのメガネをかけた人間を観察するのだが、今日はひとりも知らない人ばかりだ。つい、目新しい乗客を見ながら、いつものメガネをかけた人たちのことを考えてしまう。


 ちなみに観察するのはメガネをかけているなら、老若男女誰でも構わない。毎日同じ電車、同じ車両に乗っていると、おのずと顔見知りの人が出てくる。そのため、メガネをかけている顔見知りは私にとって知り合いも同然だ。とはいえ、電車に乗る人は通学や通勤以外にも利用している。同じ人ばかりが利用するわけではないので、毎日が新しい発見の連続で、私は電車通学を気に入っていた。


「あれは……」


 電車で2駅なので、当然、1駅目が存在する。駅のアナウンスが流れて電車が駅に停車する。朝の通勤ラッシュの時間は降りる人、乗る人が入り乱れて電車内はさらに混みあってくる。


 そこで私はひとりのメガネ男子が乗車してきた。その男子は私の高校の制服を身に着けていた。私の高校は男女ともに、紺色のブレザーにネクタイ。見知った制服だったが、私が見たことのない知らない生徒だった。ただ制服が同じで同じ高校の生徒だという事しかわからない。その男子生徒は、私が立っている場所から一つ離れた出口付近にいた。


 シャープな顔立ちにスクエア型の黒縁メガネ。王道のザ・メガネスタイル。それがよく似合っている。私が今まで見てきた中で一番メガネが似合う男だった。彼はメガネをかけている姿があまりにも私の性癖のど真ん中を射抜いていた。



「私の運命の人」


 つい、心の声が口から漏れ出てしまう。幸いにして、電車内は混みあっていたので、私のつぶやきを気にする人間は誰もいなかった。


 ちらりと彼の様子をうかがうと、なんと彼と視線が合ってしまった。慌てて軽い会釈をしたら、相手も気づいて同じように会釈を返した。


 それからの時間は心臓が破裂しそうなほどの脈を刻み、ドキドキが止まらなかった。まさか、運命の人がこんなに近くに現れるなど思っても見なかった。いつもよりも時間が過ぎるのが早く感じた。


「まもなく、電車が停車します。お出口は右側です」


 電車は私の高校の最寄り駅に到着した。運命のメガネ男子も私と同じように電車を降りていく。電車を降りると、人の流れに沿って、階段を下りて改札口に向かう。制服が私と同じ高校のものなので、当然、行き先は私と同じ高校のはずだ。


「おはよう、珍しいね。仁美がこの時間の電車に乗るなんて」


「運命の人に出会った。私の邪魔はしないでくれる?ああ、行ってしまった……」


「なんの話?」


 せっかく、声をかけて一緒に登校しようと思っていたのに邪魔をする輩が現れた。親友のみさとだ。どうして彼女が私と同じ電車だったのか。


「私は朝練があるからいつもこの時間の電車に乗るんだよ。もともと、仁美は余裕があり過ぎるくらい早い電車に乗っているとは思っていたけど、今日はさらに早いんじゃないの?」


 親友を無下にするわけには行かないので、仕方なく一緒に登校する。彼女と話している間に運命のメガネ男子を見失ってしまった。


「再会できたらいいなあ」


 高校は人数が多いので、校内で会うのは難しいかもしれない。

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