俺とお前の最後の夏。
深風 彗
第1話 俺の命
said 瑞稀
「俺死ぬんだ。」
俺が亮にそう伝えると呆然としていた。当然だ。幼馴染がいきなり死ぬとか言い出したんだ。混乱するのも無理はない。
しばらくすると、亮がその重い口を開いた。
「なんでだ…?いつから?どうして今まで黙ってたんだ?」
冷静な口ぶりの中に怒りと動揺があった。
仕方ないことだ。俺がずっと黙ってきたんだから。
「結構前に、俺胸の辺りがなんか痛いなぁーみたいなこと言ってただろ?その時に一応病院に検査しに行ったんだ。んで、病気が見つかった。」
「見つかった時になんで言ってくれなかったんだよ?俺ら幼馴染だろ?親友だろ?バッテリーだろ?俺に一言くらいあっても良かっただろ?俺はそんなに信用ないか…?」
「だからだよ。だから、亮には言えなかったんだよ。全部自分で抱え込んで、周りのことを誰よりも心配ちゃうお前みたいなお人好しに言えば、お前は周りも何も見えなくなっちまうって思ったからだよ。だから亮には言わなかった。それが最善だったからだ。」
「それでも…!」
そこまでいうと亮は黙った。
「悪い少し俺に整理する時間をくれ。」
「あぁ。」
そういうと亮は部室を出た。
しばらく天井をぼーっと眺めていた。
(俺の選択はあっていただろうか?もっと早く言うべきだったか?それとももう少し隠しておくべきだったか?どちらにしろ身体はそのうち言うことを聞かなくなる。その前に言えたんだ。これが最善だ。)
自分にそう言い聞かせて部室を出た。
夜空には星が輝いていた。しかし俺には馬鹿にされてる様に感じた。
星の寿命に比べたらお前ら人間の寿命なんぞ一瞬に過ぎないと言われている気分だった。
自分の無力さに嫌気がして空を蹴る。そうして歩いているうちに家に着いた。
「ただいま~。」
「おかえり~!瑞稀にぃ帰って来るの遅すぎ!ご飯冷めちゃったよ?」
「わりぃわりぃ。亮と話し込んじゃってさ!」
「えー!亮君居たなら連れてきてよ瑞稀にぃのアホ~!」
「今度な~。」
「ケチ!」
そういうと紗世は二階に上がった。紗世は俺の妹で今年高校に入学したばかりだ。家では瑞稀にぃって呼んでくれるのに学校だと兄に変わっちゃうんだよなぁ。といつも俺は残念に思っている。
しばらくしてリビングに向かった。母がテレビを付けながら携帯と睨めあっている。まぁ俺には、何をそんなに睨んでいるのかは想像がつく。
「ただいま。母さん。」
「瑞稀。おかえり。」
俺が帰って来ると安堵と不安の顔をする母。心配になるのも無理ないか。息子がいきなり死ぬかもしれないなんて分かったら。
いつもはもっと明るい母の笑顔が最近は作り笑顔だ。なぜか、紗世にまだ言っていないからだ。厳密には俺が紗世には言わないでくれって頼んだんだけどな。
「今日亮に話したよ。俺の心臓の話。」
「そう・・・。亮君なんて?」
「整理する時間くれってささすがにあいつも困惑した顔してたよ。」
「そうよね。ねぇ瑞稀野球まだやるの?ドナーが見つかるまで安静にしようよ。」
「母さん。移植希望は出したけど待機年数見ただろ?1,364.7日約3年と9か月だよ?高1の春に偶然見つかって希望出してたったの1年しか経ってない。それに高校3年間は今だけなんだ。俺は、亮と野球をするために今の高校にいるんだよ?俺は、死ぬギリギリまで野球がしていたいんだ。」
「そうよね。あなたならそういう分かってた。けど母さんはあなたのことが心配なのそれも分ってね?」
「うん。分かってる。」
「じゃ!ご飯食べようか!」
「おう。」
そう言って母さんは台所へ向かった。
(母さんごめんな。心配だよな。無理しないでくれって言いたいけど俺がそれを言ったらあの人はもっと無理するようになるんだろな。)
夕食を食べ終わり自分の部屋へ向かった。ベットに寝転がった。
その時俺の電話が鳴った。
次回 第二話 あいつ
この作品を読んで頂き誠にありがとうございます。深風彗と申します。駆け出し中で拙い文章ですが、楽しく読んで頂けると幸いです。
次回第二話“あいつ”もお楽しみに!
引用 日本臓器移植ネットワーク 移植希望者の待機年数
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