恋人は地縛霊。願いは復讐!
崔 梨遙(再)
第1話 修司、40歳!
いったい、どうしてこんなことになったのだろう? 修司の目の前に、美女が座っている。その美女は、突然現れた。まさに、突然現れたのだ。女性恐怖症の修司は腰を抜かし、部屋の隅に這って移動するのが精一杯だった。修司は、相手が美人であれば美人であるほど怯える。目の前の美女は、修司を怯えさせるには充分な美しさだった。若い、20歳くらいではないのか? なんで、こんなことに? なんで、こんなことになったのだ? ああ、全てはこの部屋、きっと、この部屋に引っ越してきたのが“きっかけ”だったのだ。ああ、この部屋に引っ越してこなければ……。
ボロいアパートに引っ越す修司。
幸いなのは、駅まで遠くないところだけだ。近くもないのだが。
2階建てのアパート、2階の角部屋。今日からこの部屋で修司は暮らすことになる。殺風景なアパートを見て、“また家庭というものから遠ざかったなぁ”と思う。
幼い頃から、修司の両親は家庭内離婚状態だった。完全に育児放棄されて、修司は育った。誰もいない家に帰るということの寂しさを充分に味わった。
両親が共働きで、小学生の頃は、家に帰るとテーブルの上に菓子パンが1つ置いてあった。中学からは、朝、テーブルの上に千円札が1枚置いてあった。昼食は売店のパンだった。残った金で夕飯の弁当を買った。菓子パンと給食と弁当で修司は育ったようなものだった。
小学生の頃、1度だけクラスメイトの家に遊びに行ったことがある。仲の良い家族を見て、泣きそうになって帰った。行ったことを後悔した。それから、友人・知人の家には2度と行かなかくなった。行くと寂しくなるからだ。つい、自分の家庭と比較してしまう。友人が極めて少なかったので行く機会も少なかったのだが……。
家族から暴力を振るわれたことは無かった。ただ、無視され続けただけだ。親の顔を見ることも少ない環境で修司は育った。高校進学の際、修司は夜遅くまで起きて親の帰りを待った。
帰ってきた親に、
「僕、〇〇高校に入ろうと思うんだけど」
と言ったら、
「あ、そう」
と言われた。たったそれだけだった。○○高校は、かなり偏差値の高い進学校だ。○○高校に進学出来ることを、親が少しは喜んでくれると思っていた。だが、親は自分に興味が無いのだと思い知らされた。寂しいでは言い現すことが出来ない。この時の感情をなんと表現したらいいのか? 修司にはわからなかった。
やがて、高校を卒業しようという頃、大学入試の際、
「僕、〇〇大学に行こうと思うんだけど」
と言ったら、
「大学に行くの?」
と返された。
「大学に行きたいんだ」
「学費がかかるじゃないの」
「公立だから、学費は安いんだけど」
「それでも、結構かかるじゃないの」
「僕、バイトするよ」
「学費は自分でなんとかしてよね」
「うん」
「高校を出たら、就職してほしかったわ」
「ごめん。うちはお金が無かったんだね」
「失礼ね。お金ならあるわよ」
「え?」
「勘違いしないでね。言っとくけど、私達はあなたのために働いているわけじゃないのよ。あなたの学費を払うのが勿体ないというだけ」
この時、修司は心の底から孤独感を味わった。大学をバイトをしながら卒業した修司は、ずっと“自分の居場所”を探しながら生きてきた。そして、“自分の居場所を自分でつくろう”と思うようになっていった。“早く社会人になって、早く暖かい自分の家庭をもつ!”それが修司の夢だになった。
実際、結婚しようとしたこともあった。24歳の時だった。その時、修司は大企業に勤めていた。多分、婚約者はそこを重視したのだろう。修司を選んだのではなく、勤めていた会社の名前を選んだのだ。そうじゃないと納得が出来ない。婚約者はかなりの美人で社交的な女性だった。要するに、モテるタイプだった。だが、修司のコミュニケーション能力は低い。特に女性に対しては。考えてみたら、始めから修司と婚約者だった女性が結ばれるわけがなかったのだ。
なのに、修司は簡単に有頂天になってしまった。婚約者の魅力にメロメロだった。勿論、人生で初めてできた恋人だった。修司は見抜けなかった。婚約者のあざとさを。婚約者は男性の心に入り込むのが上手かった。
出逢ったのは合コンだった。その合コンは、修司の数少ない友人の1人が主催したものだった。その友人は、“単に誰にでも優しい人気者”の男性だった。修司にだけ優しかったということではない。最初は断ったが、人数が足りないからという理由で説得されて参加した。すると、相手の方から積極的にアピールしてきたのだ。それから、トントン拍子に婚約まで話が進んでいった。
だが、結婚直前、婚約者の浮気疑惑から興信所を使って調査をしてもらうことになった。結果、浮気が確定。婚約は破棄となった。
修司は舞い上がっていたので、婚約したことを周囲に喋りまくっていた。そのせいで、破棄になったことも周囲に知れ渡ってしまった。それが恥ずかしくて転職した。そして、焦って転職したらブラック企業に入ってしまった。当時は、まだ若く、あまり深く考えずにとりあえず転職したのだ。
それ以来、修司は女性不信、ひいては女性恐怖症になり、女性を極端に避けるようになった。それでも、やっぱり暖かい家庭が欲しいというのが本音だったので、常に葛藤がつきまとっていた。
ところが、目の前のアパートからは家庭的な暖かさは微塵も感じられない。自分が憧れていた家庭をイメージ出来ない、そんなアパートだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます