第4話 魔術
前半は魔術の説明パートになります。
少したらたらとした文章が続きますので、魔術についての仕組みや世界観をより深く理解したい方以外は流し読みで大丈夫ですペコリ
今後ともビツそくをどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m
そこから一年と少しの時が流れ、その間に私はこの世界についてできる限り調べた。
その中でわかったことと言えば、この世界の基準は前の世界とあまり変わらないということ。1年は365日の12ヶ月だし、1日は24時間で時間の感覚も同じだった。ただ文明の発達はやはりと言うべきかあまり進んでおらず、天動説や地球平面説を称える人がまだ多いらしい。私が何とかして証明できれば一撃で超有名偉人になれるんだろうけど、どうやって証明したかとか前世で習わなかったので断念、この世界の学者さん達には何卒奮闘して頂きたい。
地域にもよるが四季もあるみたいで、最近は鼻を刺すような寒さもなりを潜めて、暖かな生命の息吹を感じる季節がやってきていた。
ちなみにあと1ヶ月もすれば5月1日がやってくる。そうなんです、私の2歳の誕生日です。
あ、いや、私の誕生日なんて誰も気にしてないよネ...。
そんなことより、この世界特有の"魔力"についてわかったことが沢山あるんだ。両親に質問責めして簡単なことを教わり、そこからは父の書斎にある本を漁ったりした。本は少し難しかったが頑張った、えっへん。
まず大前提として、全て生き物は魔力を持っているらしい。ごく小量ではあるが動物や虫、植物でさえも。そして、その中でも人間は保有する魔力量が極めて多いのだ。
その魔力の生成過程は主に2つ。
1つ目は、細胞内に魔力を生成する小器官があり、グルコースやらなんやらを使用し魔力へ変換する方法。
2つ目は、大気中に滞在する"マナ"を肺や表皮から取り込み、魔力に変換する方法だ。
そうして生成した魔力は魔力神経を通じて神経終末へ渡り、本人の意思に従って外界へ放出される、それがいわゆる魔術らしい。
そしてその魔術がもたらす効果や影響は人によって違う。
お母さんが言うには
「時間をかけて努力すればある程度の事ができるようになる人はいるわ、小さな火を出したり少量の水を生成したり、だけどこれは通常魔術によるもので影響力や効果時間は短いの。大きな影響を与える事が出来るのは"
「とくいまじゅつ?」
「ふふっそうよ。
「わっわたしもいつかできるようになるかな!」
「うーん...セイバーは不器用なお父さん似だからなぁ。努力次第っ!」
「うっ...」
だそうだ。
とある著者の本には『通常魔術が及ぼす外界への効果また影響力の強さは、遺伝によるものがほとんどでその指標としては目や髪の色調に大きく現れる。色調が明るくなればなるほど外界への関与は顕著であり、暗くなればなるほど外界への関与が隠微になる傾向にある。ただし、後者の場合は身体に対する効果や影響力が強いとされている』と記載されていた。
お父さんも私も黒目黒髪、指先から火を出したり物を浮かばせたりなんてほとんどできないらしい。それに私はお父さんが魔術らしきものを使っている所を見たことが無いのだ。普段は出稼ぎで朝と夕方くらいしか家に居ないというのもあるだろうけど。
まぁでも普通に生きていたら魔術なんて使う機会殆ど無いか...魔道具が便利すぎるぅ。
話を戻します。
使った魔力は一体どうなるのか。
放出された魔力は役目を果たすと"
そして厄介なことに、魔獣はさらなる魔力を求めて人を襲う傾向にある。
だから自ずと魔獣を狩ることを生業とした人たちもいるのだ。魔獣にはマナを多く含んだマナ核があり、それが高値で取引される。他にも放魔性物質を多く含んだクリスタルなどの鉱石は魔力の浸透性が高い事から魔法の杖や魔剣の精製に重宝される。
ここまで一気に説明してしまったが要約するとこうだ。
体内生成『魔力』
周囲に漂っているもの『マナ』
使った魔力『魔素蒸気』
魔素蒸気が一定濃度溜まり、それに侵された無機物『放魔性物質』
放魔性物質に当てられた生き物『魔獣』
魔獣の討伐、マナ核や魔鉱石の収集『対魔・冒険者』
長々となってしまったが、これが魔術とその循環だ。
さ、説明おわりっ
今日も魔術の練習だ〜!
私はまだ幼いので魔力量は少ないが、最近ようやく体の中にある魔力の流れみたいなものが分かってきたのだ。
春の晴れた庭先で1人、既に日課となっているルーティンをこなす。
手のひらを突き出して力を込める。
「ふぬぬぬぅ....なんか...でろぉ....!」
魔力を集める、手の感覚がだんだんと暖かくなっていくと共に何かが出そうな雰囲気が感じられる。もっと、もっとだ。集めて絞りだせ!
「うううううううう.....」
ヌメ...
「!???」
な、なんか出た!!!
突如溜まっていたものが抜けていく感覚と同時に、手のひらに生暖かくてヌメっとしたものが現れる。
「な、なんだろ...これ...」
淡い黒紫の光を放つそれは、私の手にまとわりついたまま離れない。振り払うように手を振ってみても慣性に従って揺れるだけで、まだ私のもとでムヨムヨしている。
なんだこれ、なんかかわいい...かも。
色合いといいジメっとした動きといい、少し親近感が湧く。
反対の手でつんつんして見たけど、意外と弾力があってくせになりそうな感じだった。しばらく手元を観察していると、後ろの家の影から見守っていたお母さんがソワソワしだした。いつもあれでバレていないと思っているのが本当にかわいい。
でも、ずっとこのままにしておく訳にも行かないし、何とか取れないものか。
私は「地面の土に擦り付けたら取れるか...?」と思って、手のひらをザリッと地面へ擦ってみる。
その瞬間、私の脳内で白いヒゲを生やしたリトルセイバーがポツリと呟いた。
『そりゃ悪手じゃろうな』
「わっ────────」
短い叫び声の直後、爆音と共に砂煙と緑の芝が舞い上がった。
耳がキーンとする。
手元が爆裂したのか...?
地雷でも埋まっていたのでなければ、原因は私の手にあった黒紫の塊か。
音と衝撃でびっくりしたが、痛みは無い。
アドレナリンで感じないだけかもしれないけど。
砂煙の中、薄目を開け確認する。
「みぎては...」
見てみると無事だった、砂で少し汚れているが傷や流血は見当たらない。手をグーパーしてみるがしっかり動くし、異常可動性は見当たらない。
だが、地面をみて私は息を飲む。
半径20cm程の範囲の芝がはげあがり、クレーターのように凹んでしまっていた。
「わたしが...やったの...?」
あわわわ、お母さんの大事な庭が...お、怒られる。
そんなことを思っていると、体に浮遊感を覚え地面から足が離れる、母に持ち上げられた私はそのまま後ろに半分回転、美女に正面からひしっと抱きしめられる。
「ぅぐ.....ぇ.....!」
「セイバー大丈夫!?怪我は!?痛いところは無い!?」
「ギ....ギブギブゥ...」
背中をタップするとお母さんは私を丁寧に地面に下ろしてペタペタと体を触り始めた。怪我がないか確認しているのだろう。
「も、もう。本当にびっくりしたんだから!大丈夫なのね?具合悪くなったりしてない?」
「ご、ごめんなさい。私は大丈夫だよお母さん、ほんとになんともない」
無事であることをしっかり伝えると、お母さんは安堵した表情を浮かべ、もう一度優しく抱き締めてくれた。
「私も、ごめんねセイバー。声をかけようか迷ったのだけれど、真剣で楽しそうで...何よりその、困惑してる様子が可愛くってつい...」
「そんなの、ぜんぜん。それよりお庭が...」
「そんなのいいのよ、それより本当に怪我が無くて良かった」
「うん....」
頭を撫でられながら、私は先程の出来事を振り返る。お母さんの言う通りだ、ほんとに誰にも怪我が無くて良かった。もし何かの間違いであれを自分に、最悪の場合お母さんに押し付けていたら...想像もしたくない。
「それにしても、すごいわね」
「え...?」
不意にそう言われ、間抜けた声を出してしまう。
「だって、ずっと練習してたでしょ?それでようやく何か成果が出た。結果は少し思ったものと違うかもしれないけど、紛れもないあなたの努力の賜物」
「あ...そうか...」
忘れていた、魔術が使えるようになりたくて毎日のように練習したんだ。手放しに喜べる結果じゃなかったけど、間違いなく大きく一歩進んだ。私の、初めての魔術。
「平均で見れば、魔術が使えるのはもっともーっと後の筈なんだけれど。私のかわいい子、もしかしたら天才?」
「え、えへへ、そんなぁ」
「流石、私とお父さんの子ね。よく頑張ったね、えらいよセイバーちゃん」
「ん、んふふ...そうかな...」
なんだかくすぐったい。
でも、お母さんに褒められるのは素直に嬉しいし、もっと褒めてもらいたい。
えへへ、私ってほんとに天才だったりするのかな?あはは仕方ないなぁまあ元世界ランカーですし?へへへへへ
「お父さん帰ってきたら、いっぱい叱られましょうね」
「う゛っ...」
普段は温厚で優しくて、お母さんの尻に敷かれているようなお父さんだが、身の危険が伴うことに関してはちゃんと怒ってくれる。私もそれが必要なことだと理解しているので、誠心誠意受け止めよう。今夜は長くなりそうだ。
◇
「セイバー」
「ひっ...ひゃい...」
リビングのテーブルにて、お父さんと対峙する。いつも通りの声音と、いつも通りの表情。
だか何処と無く、圧のようなものがズモモとでているような気がする。
お父さんはあまり表情が変わらないので、そこから心の内を探ることは不可能に近い。だからこそ、時折見せるくしゃっとした笑顔を見るとこちらまで嬉しくなる副産物もあるが...今この状況に関してはただ怖いだけである。
「お母さんから話は聞いたよ」
「うっ....左様でありますか...」
「初めて魔術を使えたんだって?」
「そっそうなの!今までは何回やってもダメだったんだけど、今日はいつもより魔力の流れが分かったというか、手のひらに集める量をより多くできたみたいな感じで!それでそれでね!こういう風に手を突き出して...」
「...」
「...あ、いやその...ごめんなさい...」
し、しまった。
お昼のことを思い出すとつい興奮してしまった、これじゃまるで反省してないみたいじゃないか。
相変わらず表情の変わらないお父さんは手を組んだまま喋ってくれないし...!
お母さんに救援を求める目線を送ってみたが、相変わらずニコニコしている。くそっ、助けは望めない。今はとにかく耐えなければ...
ダラダラと冷や汗が流れる中、しかし先に沈黙を破ったのはお父さんの方だった。
「...ふふ」
「え?」
「いやすまない、僕なりに少し考えてたんだ」
「怒ってないの...?」
「怒っていない訳じゃないよ、だけど君は賢い子だ。経験した事から反省し、それを活かして次に繋げる事が出来る。たまに集中しすぎで周りが見えなくなっている事もあるが、それもセイバーの良いところだよ」
「あ、ありがとう...」
「だが、魔術の訓練にはリスクが付きまとう、そしてその可能性は限りなく低くしなければならない...ならば変えるべきは考え方ではなく状況なんだ」
「う、うん」
「...今後、一人で魔術の練習をすることは禁止する」
「え....」
胸がキュッとなる。
そ、そんな。いや、でもお父さんの言うことも正しい。まだ2歳になってもいない子どもが、あれだけの威力を持った魔術を使えるんだ。危険性を考えるとそうなるのが妥当か、でも...ようやく掴みかけたものを手放すのはやっぱり悲しい、これからもっと楽しくなる予感がしていただけに、なんだかやるせない気持ちになってしまう。
「ちょっとあなた、それはいくらなんでも」
「....」
お母さんが私を援護しようとしてくれたが、お父さんが手を上げ制止する。
正直、頭が真っ白になりそうだった。
だけど、それでもなんとか納得しろ。受け入れるんだ、当然のことなんだから。
震える口をなんとか動かす。
「....わ....わかっ」
「代わりに、良ければ朝と夕方お父さんにセイバーの時間をくれないかな」
「...え?」
朝と夕方?
でもお父さんはいつも朝早くに家を出て、帰ってくるのも遅くなりがちだ。そんな時間はないはずだけど...
「というのも、僕は最近仕事を変えたんだ」
「うええ!?」
急な展開に大きな声を出してしまう。
というか、お父さんの仕事ってなんだったんだ?一度聞いた時に誤魔化されたのでそこからは深く追及しなかったが...
少し混乱している私を見て、お父さんは柔らかい雰囲気で話を続けた。
「セイバーには言ってなかったんだけど、僕は元々国運営の"対魔"に所属していたんだ。でも対魔は拘束時間が長いし、緊急時には昼夜問わず呼び出される。そんなのはごめんだ、僕はもっとセイバーとの時間を大切にしたいからね。だからより自由度の高いフリーランスに変えたんだ。お父さんはこれから冒険者だ」
「えええええええええええ」
「あら、ようやく辞めさせて貰えたの?」
「あぁ、全くだよ。予てから考えていたんだけど随分時間がかかってしまった」
ちょっとまってくださいね、えーと、えーと。
お父さんが元対魔でフリーランスの冒険者に変わって朝と夕方に時間ができてそれで...?
まだいまいちピンとこない私を見て、お父さんは立ち上がるとすぐ傍にやってくる。
「これからは、僕に魔術を教えさせてくれないかな?その、セイバーの魔術形式は僕と似ているから...ノウハウがあった方がわかりやすいと思うんだ、君が嫌じゃなければなんだけど」
「えっ、でもさっき魔術は禁止って」
「あらセイバー?私の聞き間違いじゃなければ"一人で魔術を使う"のはダメって言ってたと思うのだけど」
「.....!それって!」
「あぁ、これからは"二人"で一緒にどうかな。今までの分まで、少しは父親らしいことをしてあげたいんだ」
焦燥に落とされる一滴の雫のような言葉、思ってもない僥倖。気づいた時にはお父さんに飛びついていた。
「ファ〜ジィ〜!!」
「おっと...出来ればお父さんって呼んで欲しいんだけど...何笑ってるんだマリア、君がたまにそう呼ぶからセイバーが真似するようになったんだろう?」
「ふふっ、いいじゃない"ファージ"」
「んん....」
そんな他愛のないやり取りの中、お父さんはしばらくくっついていた私をゆっくり床に下ろた。そのまま目線の高さが同じになるように膝をつくと、私の頭を撫でながらこう告げる。
「じゃあ最後に一つだけ。いいかいセイバー、魔術というのは有能だが決して万能なもの無い。その力は人を助け守る反面、使い方ひとつで簡単に傷つけ奪うことができてしまう代物なんだ。それをしっかり理解するんだよ」
そう語るお父さんの目はいつにも増して真剣味を帯びていた。どこか説得力を感じるのは、自らの経験に基づいてのことだからだろうか。黒く深い瞳を正面から見据える。
「うん、わかったよ」
「ん、いい子だ」
満足そうに微笑みながら私の頭をぽんと撫でた後、立ち上がったお父さんは高らかに宣言する。
「よしっ、さっそく明日から魔術の特訓をしようかセイバー。簡単な道のりでは無いだろうけど、一緒に頑張ろうな」
「うんっ!」
ぶわわっとなにかが込み上げてくる。
長らく忘れていた懐かしい感覚、胸の奥がフワフワして落ち着かないような...
あぁ、そうだ。
私が初めてビートセイバーをした時もこんな気持ちだった。
その晩、暗くなった部屋で一人、魔術を使った時のことを思い出していた。体に魔力が満たされ、それを自分の意思で扱う感覚を。正直びっくりした、少し怖い体験でもあった。だけど、この鳴り止まない胸の音が恐怖心からくるものだとは思えなかった。
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