第108話地獄の門
状況が進展した。
場所は神々の総本山。誰もが腰が引けると思いきや、別の理由で辞退者続出。
エルフは神に言い寄られた伝承が残ってるから嫌だと言い
獣人はワーウルフ辺りがモンスター扱いだから無理だと言い
人魚は海の神様にトラウマがあるから駄目だと言い
トカゲには見た目が出禁だ!と断られ
サイクロプスは先祖が幽閉されたから、絶対嫌だと言った。
そしてドアーフは
「やつら碌な仕事を依頼してこねぇ上に、悪用するから関わりたくねぇ」
どんだけ嫌われてるんだよ、神。
ちなみにルーヴは
「復讐の機会を与えてくれるのか?」とギラギラしていたので、交渉の席から外れてもらった。
「でも、私は当事者だから行かない訳には……」と言ったら
「喧嘩売りに行くような事になるから行くな!」と全員に止められた。なんでだよ。
結局、神様クラスの方々が行く事になり
カルラ天、グリフォン、鳳凰、フェニックスのほぼ神様チームと
交渉役のガットと、最近神くんと仲良しのアイトーンが行く事になった。
「それにしても翼率が高くない?」と言うと
「神とはそういったものニャ」と何故かガットが威張っていた。
そして例の、孫請け会社の方から来ましたという神がやってきて
突然床から現れた『どこかにいくドア』みたいのに入って行ったかと思ったら、
ティーセットを片付けている間に帰って来た。
「早すぎない?」と聞いたら
神の国の時間は魔族国より更に早く流れていているらしい。
慌ててナンナと、下げたばかりのティーカップを洗っていると
まだ洗ってない、ガットのカップを持っていくアンダリエル。
思わずナンナと顔を見合わせてから、アンダリエルが出て行った扉の方を見ていると
「オイオイオイオイオイ」とガットの声が聞こえてきた。
お茶を出すのは、もう少し後の方が良さそうだ……。
「それで交渉の結果は?」
「フェイク画像を流すニャと言われた」と憮然と答えるガット。
まぁ、謝るとは思ってなかったよ。
だけど天界の技術を悪用した点は、男神に非があるので
『男神をタルタロスから解放する事を条件に、並行世界での存在を許す』と言われたらしい。
確かに寄せたのだけど、青銅の祠のハッタリがここまで通じるとは思わなかった。
「アイツら受け取るだけで確認もしねぇ」という、ドアーフ情報は正しかったようだ
神様チームが総出で押しかけたのも効いたらしい。
特に他宗教の神様ばかりだったので「国際問題がー」とか慌てていたそうだ。
どこも似たような問題抱えてるのね………。
しかしそこはガット。
再度兄妹神がやらかした場合、どこに訴えれば良いかと聞き、名刺をもぎ取って来た
書かれていた名前は『オリュン〇ス』
足の悪い神様が同席したそうだ。
無理を押し付けられる人って、大抵同じ人だよね。
「名のある神か?」とガルムルが聞いてきた。
「神の都の名工だよ」
「ほぉ」
「ガルムルは気が合うと思うよ。奥さんに強く言えない所とか似てそうだから」
ガルムルは皺くちゃの顔に、更に皺を寄せていた。
「ではご要望通り、神くんを開放しましょうかね」
青銅の祠は寒いので…とコートを取ったら、フードの部分が見事に針だらけ。
「タワシさん、フードで巣作りは危ないので止めて……」
「勝手に外さないでいただけますか!」
なんでお伺いを立てるのが私なんだろう。私のコートだよ?
寒いからと置いて行こうとすると
「同行します!」とポーチを乗せて走ってくるタワシ。
このポーチはフードを使う時用の、タワシ運搬サコッシュなのだけど
私が首にかけて、タワシを運ぶためのもの……
コレって、どっちが同行なのでしょう?
最近タワシはアンダリエルと仲がいいらしい。
まさかのアンダリエル化?アロレーラが生ぬるい視線をタワシに向けていた。
湖に突き出したテラスで、ラノドとルーフに合流し一路北山へ。
最近毎日、青銅の祠に向かうので、飛んでいるとシルフとチビメラが集まるようになってきた。
温かくて助かるんだけど、一昨日チビメラが集まり過ぎて発火したばかりなので
気をつけないと。
おかげで空飛ぶ火の玉の目撃情報が相次いで、恥ずかしい思いをさせられた。
青銅の祠は北山山頂の、元々修験者さん達が拝んでいた場所で、
神くんの出身と思われる、神話の地獄を真似して作られた。
でも青銅の扉というのは読んだ事があったけど、それ以外の情報が全くないから
扉にカルラ天の作画を元にした曼荼羅が彫られてるし、そもそも祠だし
よくこんなので騙されてくれたと思う。
『天界の方からきました』という怪しげなセールス風の自称神が来たときは
門の両脇に牛頭丸と馬頭吉をハッタリで立たせておいた。
ふんどし姿の地獄の番人はなかなかの迫力だったが、
実のところ、寒くて変顔になっているのは、魔族国関係者にはバレバレだった。
体型的にふんどしを締められなかったケンタは、仲間外れにされたとショゲていた。
当日二人がかりで開けてもらった重々しい扉だが、重石を外せば軽く開く。
重い扉にしたのは修行の為と、中で暴走しているシルフが飛び出さないようにする為
雰囲気づくりの効果音がここでも使われている。
扉をくぐると踊り場があり全貌が見渡せるのだが、山をくり抜いたような場所なので
案外広い。
中央には大きな岩山があり、山の頂には罪人が
岩山には白装束の修験者が大岩を背負って登っていて、
山の左には、刃が上を向いて立ててある剣の山、そして右には燃え盛る山。
更に血の池があり、人々は怪鳥に追われ、激流に流され、
そしてその地獄に向かって、入り口すぐの踊り場から長い階段が伸びている。
これを見ただけで、天界からいらした自称神様は逃げ出してしまった。
まぁ一番ソレらしい所だけを見て逃げてくれたのは、こちらとしても都合が良かった
ちなみにアイトーンが神くんの肝臓を食べた事はなく、やっていたのは
『くすぐりの刑』くらいである。
そして『見た目だけ地獄』のコノ場所は、以前フェンリル族が希望したトレーニング
ジムなのだ。
安全を考慮したトカゲ公園を作ったら「コレジャナイ!」と猛反発されてしまい、
具体案を出すように言ったら、悩んだあげくカルラ天に相談に行ってしまった。
そして草案として提出されたのが、どう見ても『地獄草子』
カルラ天…あなたは何をしたいのですか?
一応言い分を聞いたところ、カルラ天としては雪崩に追われる地獄の走り込みで
死傷者は出なかったものの、生き埋めを多数出したことを悔いており、ならば
「もっと安全な責め苦を!」って発想がただのドMですよね⁈
しかし修験道場は、エネルギーを持て余し気味なタイプの受け入れ先になっていて、カルラ天に心酔している脳筋信者も多いうえに、
皆さんもれなく品行方正な脳筋になってしまうという、信頼と実績があるので
無碍にも出来ない。
おまけにキラキラした目で尻尾をブンブン振ってるフェンリル族の期待を裏切る訳にもいかず、苦行と安全に考慮したダブルスタンダードなトレーニングジムは作られる事となった。
まず階段を降り切った所にあるトラックが『鶏地獄』
長い鉢巻きを引きずらない速度で走り込み、その後ろから優秀なトレーナーの
コカトリスとヒクイドリが追い立てる。
そしてトラックの外側が高速で泳ぐアクアに逆走して泳ぐ『激流地獄』
安全のためにアクアは川の淵、修験者は中央を泳ぐことになっていて、溺れても
アクアが我先にと助けてくれる。
修験者は修行、アクアはいかに速く泳いで挑戦者を阻むかというゲームをしている。
続いて『針山地獄』
男神軍の兵が持っていた剣や槍が、剣山みたいに立っている急坂を走る。
ドアーフが鍛えた物と違って、かすったくらいじゃ怪我しない安全設計。
下り坂に差し掛かると、今度はオナモミが待っている。
最近スコブルカラシを食べると、燃えるオナモミが吐けるヤツが現れた。
ここが『火球地獄』
飛んでくる火の玉を避けたり、叩き落としながら進む。
オナモミはしばらくすると燃え尽きるけど、踏むと結構痛いらしい。
次いで現れるのが『火炎地獄』
炎の壁の迷路を走り抜けるのだが、毛足の長い者はたびたび火だるまになるので
長毛種は基本、消防隊の訓練でお馴染みのロープ渡りで逆さまになって燃え盛る山を越える。
それでも引火してしまった時は『血の池地獄』に飛び込もう。
鉄分の多いお湯は、切り傷や疲労回復に効果あり。
でものんびりしてると、間欠泉が噴き上がって熱い飛沫が飛んでくるぞ。
洞窟内はあちこち棚のようになっていて、各種格闘技のトレーニングや瞑想に使われ
体の大きい竜族や鳥族の住まいとしても利用されている。
そしてここで形作られた格闘技が、スポーツとして各村に伝わる事になる。
修行に勤しむ皆さんには申し訳ないけど、私には長い階段だけでもう苦行。
なので祠に入ってすぐの踊り場から、直接神くんの居る岩山へバーンに運んでもらう
ラノドは祠の横の待機場でチビメラとお留守番。
祠の扉はサイクロプスでも通れるけど、翼持ちには窮屈なので、通常は別の入り口を使ってもらっている。
かまくらの毛皮をめくると、神くんはアイトーンと一緒にこたつに入っていた。
こたつの上にはゴルゴンちゃん。チンアナゴみたいに揃ってコッチを向きお辞儀をする。
でも神くんは私の顔を見るなり
「今日のおやつはなんだ?」って、挨拶くらいしなさいよ。
『プロメテウスの罰作戦』でビビらせたものの、おやつの時間には釈放されてる
神くんは、制限はあるものの、すっかりお客様分?いや、殿様状態になっている……
「神様との話し合いが終わって、神くんの解放を条件に、この世界の維持が決まったよ。だからかまくら生活は、今日で終了です」
「メシも出るし、ここでいい」
「そうもいかないんだよ。それに君にはやってもらわないといけない事があるから」
すると神くんは、あからさまに嫌な顔をした。
「……お前の願いは、いつも碌なもんじゃないから嫌だ」
「私の願いじゃないよ。東の王の願いを叶えてあげてほしいの」
「そういえばアイツはどこにいるんだ?地獄にはいないだろ?」
「彼は彼の望む環境で過ごしてもらってるよ。良かったら会ってあげてくれない?」
「それはいいが…アイツらはなんだ?」
神くんが指差す先を見ると、かまくらの入り口からジャックが覗いている。
「………神くんが出て行ったら、かまくらを使いたいんだって…」
「結局、追い出されるのかよ!」
神くんは不貞腐れていたが着いて来てくれた。
向かった先はアント女王の城。ここの地下牢に東の王は預けられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます