第29話わがまま女神と来訪者

等身大昆虫の女王国訪問団に腰が引けていたハルトだったけど、

最後はパークのキャラクターに手を振る感覚になっていた。

だって頭にはレジャー施設に売っていそうな、ツノカチューシャを乗せているから。


「……あれって、中の人…」

「いないよ!」

そこは異世界。即座に訂正する。


お揃いのツノは、カモフラ用にと、ガルムルが用意してくれた物。

明らかに人族なハルトがいると魔族国民は怖がってしまうからだ。


幸いとは言いたくはないけど、

今度の水牛タイプのツノはカチューシャに見えなくもない。

頭も洗いづらくて非常に邪魔なのだけど、前回ほど大きくないので

目測を誤って、狭いところに挟まる猫みたいにはならずに済んでいる。


それでも邪魔だと言ったら、

ジェニファーが、ヘッドドレスとか言いながらウキウキしだしたので

叩き折る訳にもいかず、頭の上に鎮座している。

何をする気か知らないけど、お願いだからこれ以上過積載にしないでほしい……



ドレスも宝石も、欲しがった物は全部女王達にあげて

家具と建具は工事の進行に合わせて城に入れるからと、外輪山の麓に運ばれた。

女王の城の左官は、キラが舐めたところに大理石パウダーを塗ったら、

キレイな大理石調になったらしい。キレイなのか?ソレ?


とにかく、女王大満足な白亜の宮殿が完成間近。

そしてそれを見て、我儘を言ってるのがココに……



「なんで蟻の巣より、我の宮殿が遅いのじゃぁ!

教会じゃなくて宮殿が良いのじゃぁ!」

たたき売り騒ぎの時は

北極ダックに潜って寝ていた女神が、起床と共に騒ぎ出した。


「女神様ー。あれは女王だけの宮殿じゃなくて

女王国民が住む百万都市ですよー」と言うと、ふて腐れた顔で振り返る女神。


「そういえば連合って虫共も加えるのか?数だけなら兄者を圧倒しそうじゃが……」

「準備がすっかり整って、

いざ開戦ってなった時に、初めてルールブックに開示しますよ」

「詐欺じゃな、それは……」

「お役所仕事は、時間がかかるものなのですよー」


この話は女王国にも通してある。

急に国民数が増えて、慌ててミサイルを打ち込まれると厄介だからだ。


その理由はハルトのレッドドラゴンにある。

あれだけの物をポンと作り出す事が出来るのだ。むしろ可能性は高い。



「それと、見せたいものがあります」と中央広場の作業台に絵図を広げる。

「これは?」と女神。

「ここの広場の完成予定図です」


世界樹とそれを囲む池を中心に、扇形に建物が配される。

イメージは中世を思わせる、どこぞの町。


「なんか地味じゃな……」

そりゃぁ、ベルサイユと比べたらね!

そもそもあなた、ほとんど町にいないじゃない!


女神を留め置く作戦は、それとなく国民に浸透させている。

彼女はキーパーソンであり主催者だ。

変に機嫌を損ねる訳にもいかないので、おもてなしをするようにと伝えてある。

その為、どこに行ってもチヤホヤされるので気分よく居残っている。

子供の多い獣人村で友達が出来たようで、入り浸っているようだ。


リサイクル作戦の時は、運び込まれる宝石に目の色を変えていたそうで

私が戻った時には、財宝を見つけたベタな山賊のようになっていた。


玩具の指輪で喜ぶ子供そのものだったので、年齢的なものなのかもしれないけど

なんでこう、この女神は俗物的なんだろうな…


そして魔族達から見ても、その姿には思うところがあったようで、

結果として、変な奪い合いにはならなかったようだ。


女神の分の宝石?

女王にあげて減った分は、キラメラが拾ってきた物とか、ガラスとか、

貝殻とかを入れて嵩増ししといたから気づかれなかったよ。




「作りたいのは人々が集う国です。

そして中心部のこの場所には、国の主要機関を置くつもりでいます。

ここに西の国の規模のお城を建てたら、城だけで埋まっちゃうんですよ。」


「国の中心は城であろう?」

「どうしても城を建てると言うのなら、ひとりで住んでいただきますけど?」


「えっ?おぬし等は?」

「女神さまが城にお住まいになるのなら、首都移転をせねばなりませんから

当面は一人暮らしをお楽しみいただくようになるかと…」

女神は愕然としている。


「この町の規模だと、教会サイズの方が調和がとれるんですよ。

代わりに女神さまのお部屋の内装はベルサイユにしますから」


「我もあのでっかいベットが欲しいのじゃ!あの屋根付きの豪華な……」

「すでに用意してありますよ(盗品)」

「どこじゃ⁉」

「その前にお仕事です」そう言ってニッコリ笑う。


「へっ?」って顔をして女神が固まる。

仕事もせずに褒美がもらえると思ったか?

身につまされる思いなのか、隣でハルトが小さくなっている。


「神への願いを行使させていただきます」

「それは…」

後退りしそうな女神に、渾身の笑顔を向ける。


「外輪山に蓋をするように、

太陽が落ちてきても耐えられる結界を張ってください!」


「無理じゃぁー、そんなのー」

お願いの内容と、女神の反応にハルト大爆笑。


「想像の範囲を超えておる!

太陽が落ちてきたら、どのくらいの衝撃になるのかも分からん!」


「ざっくり広島型の五兆個分だそうです」

「マジかぁー……」これは女神の感想。なんかキャラブレしてきてないか?


それを聞いたハルトが言った。

「それってTNT何個分?」

「なんじゃそれは?」

「ゲームで使える爆弾でー…」

あくまでゲーム脳のハルト。でもきっと男神もなんだろうな…


「とりあえず、考えうる最強の結界を張ってもらえませんか?

兄神さん、タイプ的に突然ミサイルを打ち込んできたりしませんか?」

「ありえる!」

ありえるんかーーーい!しかも即答。


話の流れからハルトが

「もしかして神くん妹?こないだ神くんと遊んだよ!」みたいな事を言い出し

友達の妹は友達みたいな謎ルールで、ふたりは意気投合した。


ひとまず神くん対策で結界を張ってもらったけど

その後は結界がTNT何個分まで耐えられるか、ふたりで実験するそうです。

もちろん地下に安全地帯を作ってです。TNTは神くんと作ったそうです……。



ゲームってさ、ゲームバランスが一番大事な気がするんだよね…。

なのに、いくら何でも創造主が勝手すぎないか?

そもそも神は直接介入しないとか言ってなかったか?


気に入られた王が、テコ入れされて無双する。

それこそが神の意志と言われてしまったら、

神に選ばれなかった大多数の努力は、無駄になってしまうではないか!


それでも立ち上がるのが人である?

それで立ち上がれなくなる人間は存外に多いんだよ!


立ち上がったように見えるのは、

たまたま立ち上がれた一部が妙に目立って見えるからに過ぎない。


多くの人はしゃがみ込んだまま、立ち上がるだけの体力回復に努める。

動き出すのなんて、その後の話だ。


そして立ち上がったとしても、それは神の為なんかではない。

人は自分の為に立って歩くんだよ!



なんか急にため息が増えたなぁ、と思いながら顔を上げると

作業机にクロネコが乗っていた。


ネコ、この世界では始めて見るかも?そう思っていたら

「良い街にニャりそうだニャ」と笑顔で話しかけられた。


ケット・シーさんでした!

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