異世界転生したとたん魔王をやらないなら死ねと言われました
えのきだけ
第1話夢うつつ
悪態を吐きながら落下する少年。
それを崖の上から見下ろす少女。
少年を見送る表情は、どこまでも虚ろだ。
あの少女は……
「おぉ、お目覚めになられたぞ…」
目の前で声をあげたのは、小さいワニなのかコモドオオトカゲなのか
とにかく爬虫類。
「魔王様!」
次に声を出したのは、なんかカナヘビっぽい爬虫類。
多くの人(?)が歓声をあげている。
明るいところで目覚めたら、なぜかそこはトカゲの国?いや何だよそれ…
本当にここはどこだろう。そしてなぜだろう。
いつの間に私はトカゲに歓迎される立場になったのだろう。
自分の手を見ると、ちゃんと人の手をしていた。
ホッとしたのも束の間、更に下を見て驚いた。
なんでこんなムチムチの水着着てトカゲの女王みたいになってるの?
うん、夢。
辻褄も合わず、そこに魅力も感じないのなら、
それはきっとどうしようもない夢。
どうやら私はまだ寝ているらしい。
再び横になり目をつぶる。
お尻に邪魔な…尻尾?いや、考えずに寝る。
夢の中で二度寝した事はないけど、次こそいい夢を見せてくれ。
「魔王様⁈」
呼びかけられたようだが、断じて私はそんな名前ではない。
なんか水牛みたいなツノが乗ってる気がするけど
きっとあれだ、ダー〇ィンの見過ぎだ。
瞼に力を入れて眠ったふり、聞こえないふり。
なんかガックンガックン揺らされてるけど
夢見の悪い時は、二度寝に限るんだよ。
頼むから寝かせてくれ。寝かせてくれないなら覚めてくれ。
後頭部が固いところに当たって痛いんだってば!
断じて目を開けない!そう思って、後頭部の痛みに必死に耐えていたのに
地面が沈み込むような感覚がして反射的に飛び起きてしまった。
「地震⁈」
大きな揺れの感覚だったけど、揺れ自体は震度3程度。揺れもすぐに収まった。
地震大国日本人の耐震センサーは、もはやネズミ並み。
そう思ったら膝の上で、ネズミが頭を抱えて震えていた。
「大丈夫そうだよ」
思わずネズミに声を掛けると
「魔王さまぁ~」と目に涙をためたネズミに返された。
まだ目は覚めていないらしい。
っていうか、しつこいな設定。
見ると爬虫類だけではなく、人っぽいのも、モフってるのも
えっ…虫?そこで光ってるの生き物??
「魔王様、お下知を」
さっきのワニっぽさんに言われるけど、そもそも魔王じゃないし。
起き抜けに責任押し付けられても……
でもワニの向こうには涙目のサイクロプス。
どうやら魔王設定からは逃れられなそう。
「とりあえず状況を教えてくれる?」
声を掛けると、突然どよめきが広がる。
「我々の話を聞いて下さるのか!」
「今回の魔王様は狂ってはおらんぞ!」
「わたし死にたくないです~」
よく見ると意外に人(?)がいた。
開けた原っぱに100人くらいいる?
よくわからない何かが生き物だとすると、もっと居そうだ。
それが一斉に話し出す。
鳴き声を上げているのもいるから、声というか地響きというか……
その時再び、地震のような揺れが!
「なに?災害でもあったの?」
訳が分からず、思わず声を張り上げると
「今のは人族の砲撃かと。
ただいまこの地は、人族からの攻撃を受けております!」
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