第12話 魔法都市フンフ・エレメント その③
お祭りは三日間。大通りや路地裏などに屋台があり、食べ物を中心に占いやおもちゃ販売などもある。食べ歩きも出来るが、運営側がスペースを設けてくれているため、ウェンダルとフェルトはそこでゆっくりと食事をしている。背もたれのないベンチとテーブルがずらりと並べている空間の端にいる形だ。
「ぷっはー! 揚げ物とエールの相性最高!」
フェルトの口にエールの泡が付いている。ウェンダルは呆れた顔になる。
「真昼間から酒を飲むな」
「えーお前だって飲みたいだろ? お酒」
フェルトは見せつけるように、エールを掲げる。
「いらん。こういうのは打ち上げぐらいで十分だ」
「ウェンダル君かたーい」
「きもいぞ。その言い方」
因みにフェルトは酒で酔っぱらうようなタイプではない。素でやっている分、タチが悪い魔術師である。
「東洋の料理とかを食った方が利益になるってもんだ。あっつ」
ウェンダルは東にある肉が中に入っているパン料理に似た何かを食べる。出来立てなので、熱い肉汁が出る。
「面白い魔道具があって、見るだけでも飽きないな。窯ではなく、土器に火の付与魔法をして、パンを貼り付けて焼く。構造が気になるな。加減とかもあるだろうし」
食べ物を食べるだけではなく、魔道具を見て、考察をする。揺るがない職人に魔術師は温かく見守る。視線に気付いた職人は露骨に嫌そうな顔になる。
「そういうのガラじゃないだろ」
「おっとバレてた。第二回、やろうじゃないか。北には冷たい料理が多いからね。それはそれで面白いぞ?」
「……なるほどな。ならば行こう」
すぐに行動に移す大人二人である。飲食スペースから出て、北エリアに向かう。ちゃっかり肉料理を食べている使い魔や、魔法を使った小競り合い、宙に浮いて食べる魔術師らしき人など、どれもが商業都市では見かけないものだ。
「祭りだとこうなるから、ほら……騎士がいるんだよね」
「トラブルが起こるのはどこも同じか」
「まあね。魔法都市だから、魔法に長けてる人にお任せしてるのさ」
フェルトは慣れたように解説をしているが、ウェンダルにとってどれもが新鮮な光景だ。
「着いたぞ。ここが北エリアだ。まあ冷えやすいよね」
北エリアは普段の魔法都市では住宅地になっている。お祭りになると、主婦が氷の魔法を使って売り込むところになり、気温は他のエリアに比べて数度下がっている。慣れていないと体が震えるところだ。
「すまない。それはどういう仕組みだ」
ウェンダルは寒さの耐性があるため、特に反応はなく、魔道具に興味を示して、屋台のおばさんとやり取りをし始めている。
「おや。そこに着目するってことは職人さんかね。簡単な仕組みだよ? これは元々木箱だったから、回路を作っておいて、冷たいものを外に出さないようにしているのさ。その後は氷を中に入れて完成だよ。数時間は持つ」
ウェンダルはじっと冷たい木箱を見る。
「少し改良が出来そうだな。帰ったらやってみるか」
「お。作る気かい? それなら私の名前と住所、木の札に書くからちょいと待って。ああ。それと食べるかね。うちの氷の果実を」
「いただこう」
食べたり、交流をしたり、職人と魔術師はぐるぐると見て回る。腹を満たし、好奇心を満たす色がウェンダルの旅路に塗られた。
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