第3話 諸事情で封じていた考案 聖水作り装置②

 御者が戻って来た。嬉しさが身体から溢れ出ている。


「容体が良くなってます! 間違いなく、あれは聖水でしょう!」


 その報告を聞いたウェンダルはリュックサックを背負って、馬車から降りる。やれやれとダンも降りる。


「何をするつもりで」


 御者の質問にウェンダルは当然のように答える。


「量産を目指す」


 リュックサックを下ろし、金属の台を魔法で大きくさせる。大人の男の腰ぐらいの高さになる。紙も大きくして、成功した。御者から借りた木のバケツを下に置く。


「ここは商売人として、ある物を提供したい」


 ダンは袋に似た鞄から取り出す。白い岩。魔力を帯びており、光り輝いている。ウェンダルにとって、初めて見る代物だ。


「これは」

「大天使が作ったものだ。位の高いお方のだから、相当なものだろ? 精霊結晶の代わりにできるかは分からないが……試してみる価値はあるだろ」

「助かる」


 ウェンダルは紙の上に白い岩を置く。


「水を持ってきました!」


 御者は水を配達していた。木のバケツにたっぷりの水。ウェンダルは持ち上げて、聖水が量産化できるかどうかの試験を行う。


「おー豪快」


 勢いのある水の入れ方を見たダンは感想を素直に述べた。


「本当なら管などの用意をしたいところだが、時間がないし、材料も欠けている」

「人力でやるしかないってことだな」

「それにこれは急ごしらえだ。本格的なものを作るとなると、数年単位で要るな。これは」

「職人としての経験がそう言ってるのか」


 ダンの質問にウェンダルは静かに頷いた。肯定と捉えたダンは茶目っ気たっぷりに言う。


「そういう代物なら神聖教も言わないだろうよ。時間とたくさんの材料が要るなら、非現実的な理想論でしかないと」

「そうあって欲しい。魔道具を作れないことが一番困る」


 数分後。水が木のバケツに入りつつあった。覗き込んでいたダンは立ち上がって、どこかを警戒して見ている。


「少しずつ水が中に入っているな。その間、俺らは自分の身を守らないといけない」


 ぼろぼろの布に被っている集団がぞろぞろと出始める。黒い何かの魔法攻撃を仕掛けてきた。ウェンダルはとりあえずと、トンカチを出す。


「それだと近づかないとダメだろ。こういうものは遠いところからやった方がいいんだ」


 そう言ったダンは魔法を使い始める。詠唱をし、いくつもの火の玉が生成され、集団に飛ばす。いくつかは黒い魔法攻撃と相殺され、残りは集団に向かう。集団は慣れているため、防御壁を使い、ノーダメージだ。


「流石に効かないか。次の手を……お?」


 ダンが最初にあることに気付いた。ウェンダルはダンの様子を見て、遠くにあるものを見て、そういうことかと理解する。


「他の奴がいるな。げ。神聖教の格好じゃないか」


 神聖教の者は白い衣装が基本としている。二人が見えている者は女性で、シスターの格好をしている。女性だろうと、男性だろうと、商売人と職人にとって些細なことだ。神聖教の聖職者が来ている。それがもっともマズイことなのだ。ウェンダルは冷や汗をかく。


「言いくるめるしかないな」

「それしかない」


 どう言い訳をしようかと二人が考え始める。それと同時に、怪しい集団は神聖教の者を襲い始めた。


「シスターは祈ることが多い。抵抗力はないような」


 焦り始めたダンは最後まで言う事ができなかった。衝撃的なものを見たウェンダルは軽く驚いたような声を出す。


「うわ。普通にあるみたいだな。お前の言う抵抗力」


 女性は長い棒を武器としていた。くるくると回し、黒い攻撃の魔法を退ける。その後は相手の胴体に突っついたり、顎を強打したり、器用に回しながら強烈な攻撃をしている。


「やっべ。見惚れてる場合じゃなかった」

「そうだな。下手したら俺達が死ぬ」


 片付けた女性はウェンダルとダンに近付く。長い棒を持ったままで、正々堂々と歩いている様は、二人にとって恐怖でしかない。


「怪我はないか。旅人」


 近距離になったので、ようやく女性の詳細が分かってくる。若くはない。高齢の部類に入る。それでもエネルギッシュで、ただ者ではないオーラが体中から出ている。余計に恐怖心が増し、二人はこくこくと頷く。


「ならばよい。ん?」


 ご高齢シスターは気になったものを見つけ、聖水作りの道具に近付く。ウェンダルとダンは呪いにかかっているわけではないが、身体が固くなってしまう。


「少し水を確認してもいいか?」


 拒否をしたら、面倒になる。それを知っている二人は無言で許可を示す。手でどうぞと差し出す仕草をする。


「なら失礼する」


 シスターは袖からガラス棒を出す。木のバケツの水に入れ、かき回して、魔法の光を当てている。


「ほお。精度は悪い。が。間違いなく聖水だな」


 シスターの口角が上がっている。それを見た二人はどうしようかと思索をしていた時、


「教皇様!」

 

 白い服を着ている、赤毛の少年が駆けつけてきた。少年の口からとんでもないことが発していた。聞いてしまったウェンダルは「終わった」と諦め始めた。


「デリーか。今の内に術を使って、村の者を救いなさい。負担が大きい場合はこの聖水を飲ませること」


 予想外の女性教皇の指示に、ウェンダルとダンだけではなく、デリーという赤毛の少年も驚く。


「聖水!? でもこれランク低い奴ですよね?」

「ああ。だが体に直接取り入れるとなると低い方がよい」

「はあ……まあ教皇様がおっしゃるのなら、やってみますけど」


 デリーは木のバケツを持って、村の中に入った。商売人と職人は教皇と対峙する。ウェンダルは唾を飲み込んで、不敵な笑みをしている教皇を見るのであった。

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