不時着した男〜星で男は妙なスイッチを見つける〜

赤坂英二

第1話 不時着した男

 宇宙航海中の男は不慮の事故からある星に不時着してしまった。


 幸い男自身に怪我は無い。


 しかし船は不時着の際の衝撃により壊れてしまったため、再び飛び上がることは絶望的だ。


 問題は助けがどれほどで来てくれるだろうか、ということである。


 船の中に食料と水は豊富にあるが、救助の時間によっては底をつくかもしれない。


 とにかく、男は一人で一定期間を過ごさなければならなくなった。


 いつまでだろうか、最悪このまま一人という可能性もある。


 男は首を横に振る。


 こういうときこそ肯定的に考えなければならない。


 励ましあう相棒はいないのだ。自分の機嫌は自分で取らなければ。



 しかし、


「困ったことになった」


 船の救援信号を送るシステムも壊れてしまっている。つまり向こう側に遭難したと気が付いてもらうほかない。


 幸運なことに、船からは定期的に信号が送られるようになっており、それが絶たれることになったので、おそらく遭難には気が付いてもらえるだろう、と男はそう信じるしかない。


 男は船の床に座り込んだ。


 テレビ、ラジオ何も見ることも聞くこともできない。電気がないのだ。


 暇をつぶすものは他にはないもない。


 ただここでじっとしているしかない。


 男は天井をじっと見つめた。


 どれほどか時間が経った。


 随分と時間が過ぎたように感じるが、実際は対して進んでいない。


 男は弱弱しくため息をつく。


 暇だ。

 孤独だ。

 寂しい。

 心細い。


「あぁ、このままではいけない。何かしよう、何かないだろうか」


 船の中を見回ってみる。


 簡易的な工具はあるが、修理はできそうにない。


 船も広くない。男はすぐに見回りを終えた。


 それから四周、意味もなく船内を見回った。


 発見はない。



 再び床に座り込んだ。


 無音。


 何も起こらない。


 何もやることがない。


 ふと窓の外に目をやる。


 無薄の星々が遠くで煌めいていた。


「奇麗なものだ」


 男のつぶやきが哀しく響く。


 知らなかった、忘れていた、宇宙航海中はこんなに星があること、こんなにキラキラと光っているということに。


 ここまで多くの星があるというのに、男がここにいることは誰も知らない。誰も気が付いてはくれない。


(もうダメかもしれない)


 男は弱気になり、自分の最期を感じ始めた。


 不安の波が男に襲い掛かる。


 こんなことを考えてはいけないと先ほどから考えているが、少し時間が経つと寂しさから気弱になってしまう。


 自分の星にいる自分の家族を男は思い出す。両親、兄弟、妻と子供、皆の顔が次々に思い浮かぶ。


「あぁ、会いたいなぁ」


 目に涙が浮かび、そして流れた。


(こんなことを考えるなんて、やっぱりもうダメかもしれないな)


 食料と水があるから体は大丈夫であるが、精神は無情にもすり減っていくばかり。


 回復の見立てはない。


 次第に頭の中はモヤがかかったように思考が鈍っていく。


 しかしその時男はふと思った。


「そうだ、ここで終わるにしてもせっかく不時着した星だ。見て回ってみよう」


 なぜそう思ったのかはわからない。


 ただ、そう思ったのである。


 危険については特に考えなかった。


 男は船を出た。

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