第3話 姉さんのプロデュース

「馬子にも衣装といったところか」


 洗面所の鏡に映る自分の姿を見ながらぽつりと言った。


 ついにアイリスと一緒にコラボカフェに行く日がやって来てしまった。


「何言ってるの。今日のりゅうちゃんなかなかいい感じだよ。まあ、私が選んだ服を着ているってところが大きいと思うけどさ」


 腕を組んでうんうんと頷きながら自画自賛しているのは姉の七海ななみだ。


 大学生の七海姉さんは俺と違ってコミュ力が高いから友達もいて、サークルにも入っていて、バイトもして充実のキャンパスライフを送っている。


 姉弟でこんなに差がつくものかな。


「服は姉さんがいなかったら、どうにもならなかったから助かった」

「そうね。龍ちゃんのセンスだと黒い服ばかり選んで影が動いているみたいに見えるか、闇に紛れし暗殺者みたいだからね」

「悲しいけどあまり否定できない」


 姉さんが選んでくれた爽やかな青のシャツと黒い細身のズボンは派手過ぎず俺が着ていても違和感がない。


「龍ちゃんが友達と遊びに行くから服を買いに行くのを手伝って欲しいって言ってきた時は驚いたね。まさか、こんな日が来るとは……、龍ちゃんもついに大人の階段を昇ってしまうのね」

「ちょ、ちょっと、そんなんじゃないって、本当に友達と遊びに行くだけだから」

「でも、そうやって見た目に気を使うってことは女の子とでしょ」

「まあ、そうだけど……」


 ボイスチェンジャーおじさんの可能性がゼロではないが……。


 アイリスは自称、可愛い女子高生ということだ。おしゃれにも気を使っている子かもしれない。そうだとしたら、俺が闇に紛れし暗殺者のような格好で行くのはどうかと思うところだ。


「友達だとしてもそうやって気にしてくれてるってことが嬉しいものなのよ」

「そういうものなのか」

「そうよ。あと、その野暮ったい髪もこれを使えばちょっとはマシに」


 姉さんはヘアワックスを手に取ると手櫛で俺の髪をいじっていく。


 春休みにこれを使えば俺も高校生デビューできるかもしれないと思って買ったのだが、結局、学校へは一度も付けて行ったことがなかった。これがここで日の目を見るとは。


「どう? いい感じじゃない」


 うーん、鏡に映った姿はどう見てもさっきより野暮ったくないから文句が言えん。


 ブーンブーンブーン


 アラームの設定をしていたスマホがバイブしてそろそろ出発しないといけない時間を伝える。


「ありがとう、姉さん。そろそろ時間だから行くね」

「今回の報酬はプリンでOKだから」


 ウインクを決めながら報酬を提示する姉さん。


「了解」


 いつもより多めにお金を入れた財布を肩掛けの鞄に入れて靴を履いたところで、

「龍ちゃん、わかっていると思うけど、避妊はちゃんとしないとダメだ――」

「ないから。そういうのないから。安心して」


 食い気味に否定すると、姉さんはニヤニヤしながらいってらっしゃいと手を振って見送ってくれた。


 まったくこれだから陽キャというやつは。


 こういう風にいじられるから姉さんに友達と遊びに行くなんて話したくなかったんだ。


― ― ― ― ― ―

第三話も読んでいただきありがとうございます。

いよいよ次回はアイリスと龍之介ご対面です。

次回更新は28日零時です。

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