大門前ぬうらんだー

  東町と久米の境目にある大門前うふじょうめー通りに一際目立つ外国人の男が2人いた。

大門前通りは当時、東町にあった赤瓦の屋根に町屋風の建物が並ぶ繁華街であり、多くは寄留商人きりゅうしょうにんと呼ばれる琉球が併合された後に鹿児島や大阪、福岡から来た商人達がそこで商売をしながら住んでいた。

 街の人々は2人の外国人を見て「あれうらんだーオランダーやさ。」とひそひそ話していた。


「おい!アジア人如きが俺達の事をじろじろ見てんじゃねぇよ!」


 青い帽子を被り、ヨレヨレのくすんだ白いシャツにサスペンダー、長ズボンをはいた金髪碧眼へきがんの可愛らしい顔立ちをした少年が街の人達に中指を立て、見た目からは想像も出来ないような人種差別発言をしていた。


「おいティム。気持ちはわかるが、目立つ事はするなよ。」


 ティムとほぼ変わらない恰好をした赤みがかった茶色の髪に同じような目の色、背が高く、顎が割れた顔がゴッツイ青年だった。


「ザック、ここはアジア人がうようよいて反吐へどが出るぜ。わかるか?」


「そりゃわかるさ。せっかく有色人種お断りの会社に入っている意味が無いって事だろ?」


ザックの言う有色人種お断りの会社とは「インセルレボリューション」という自らを「不本意の禁欲主義者」と名乗る所謂「インセル」の人達が4chan(英語圏向けの2ch)のインセル掲示板をきっかけに設立された会社であり、アメリカ南部に拠点を置いてる。

主にそれを名乗る所謂モテない男性達が所属しており、銃やロボットなどの制作をしているが、女性蔑視、人種差別的な言説が目立つ白人至上主義の組織の為、社員にユダヤ人や有色人種、女性はいないとされている。


「そんな会社が『帝国機関』とかいうわけわかんねぇ日本の組織から『を開発しろ』と依頼されているんだぞ。」


ティムはかなり不機嫌だった。


「あー『VANISH』の事か。それなら俺が奴らに渡したぞ。それにが入った『VANISH』を持っているぜ。えーと『セナガ・カメジロウ』に『ヤラ・チョウビョウ』・・・俺達、アメリカにとって都合の悪い奴ららしいから開発者の1人である俺にあずけて欲しいってさ。」



ザックはUSBのような形をした機械を2つ持っていた。


「でも2人共、まだガキだろ。」


「あいつらによるとガキのうちに消すのが手っ取り早いんだってさ。大人になってからじゃ遅いんだと」


「ふーん。じゃあ奴らの依頼は終わったんだろ。そのまま帰らねえのか?」


ティムはこの場所にいるのが嫌だった。


「それが、この辺りにアルバース財団があいつらの計画を阻止するみたいだ。そいつらの監視をあいつらに頼まれたからしばらくは帰ることができないんだよ。」


ザックがしばらく戻れないと話すと、ティムは「はぁ⁉」と怒った表情がすぐに出ていた。


「まあ怒るなよ。これも奴らの依頼だしな」


ザックがティムをなだめた。


「それなら仕方ねぇな。嫌だけど。おいザック、懐中時計を持っているか?」


ティムはザックに懐中時計が無いか聞いた。


「懐中時計?」


ザックはポケットの中を探ると、なんと入っていたはずの懐中時計が無かった。


「悪い。落としちまったみたいだな」


ザックがなんと懐中時計を落としたと話すと、ティムはザックの臀部でんぶに蹴りを入れた。


「おい!アレは『VANISH』と関係がある大切なものなんだろ!お前それでも開発者かよ!」


「悪かったよ。必ず探すから」ザックがティムに謝り、大門前通りを歩いた。


_____________




 一方、ティムとザックがいる数キロ手前にその懐中時計が落ちていた。すると、和装をした8~9歳前後のジャン・レノに似た堀の深い顔立ちをした少年が懐中時計を拾い、少年が住む家に向かった。

 その途中、持ち主であるティムとザックに出会うが、少年が懐中時計を着物の懐に入れていたので、彼らが気付く事は無かった。

 少年は「竹内商店」という看板が書かれた店に入ると「お父さん」と少年は沖縄訛りと関西訛りが混じった話し方で店番をしている父親らしき人物に声をかけた。


「おお、和三郎わざぶろうか。急にどうしたん?」


関西訛りの和服を着た父親は少年の事を和三郎と呼んだ。

「道端で懐中時計拾った」和三郎は誇らしげに懐中時計を父親に見せた。すると、父親は膝を下ろして和三郎の目線に立った。


「ええか、持ち主がわからない人様の懐中時計を勝手に拾ったらあかん。今すぐ警察に届けなさい」


父親に言われた和三郎は「はい」としょんぼりした表情で店から出るとたまたま通りかかった巡査に「落とし物だよ」と言って時計を渡した。

巡査は高級な時計で儲けられると思ったのか質屋に行って時計を売った。




_____________




 ティムとザックは大門前通りを通った後、西新町にある旅館「大正館」の部屋を借りて泊まる事になった。

2人のような外国人は目立つため、辺りに人がいないか確認すると、宿に着くなりいそいそと入って行った。

 ティムはヘットフォンをして過去に持ってきたMacを出して起動させた。


「おい、パソコンなんかつけてどうするんだよ。この時代でWiFiが繋がると思っているのか?」


「大丈夫だ。ダークウェブからこの時代でもWiFiができるような機械を買ったんだよ」


「おぃマジかよ。本当だったらヤバいぞ」


「冗談だよ。上司に頼んでこの時代でもWiFiが使えるような機械にしたんだ」


「なら、いいけどよ。ティム、何を見るんだ。YouTubeかそれとも4チャンか?」


「ポルノだよ」 


「今日はどんなのを見るんだよ」


「日本のHENTAIVIDEOだよ」

 ティムはポルノサイトを開くと、制服を着た高校生の恰好をした女性が映っているポルノをマウスでクリックした。


「ザック、ポルノを見ていることをばれたらまずいからお前もヘットフォンをしろ」

とティムに言われてザックもヘットフォンをした。

  ポルノが始まると、そこには兼村未来かねむらみくに似た制服を着た女性(決して未来本人では無い。)がニコニコ笑いながら、細い目をした中年の華奢な男とキスをしていた。


「へへ。こいつおっさんとやってやがるぜ。愛人だろうな」


ザックはポルノを見て笑っていた。


「だろうな。日本のHENTAIVIDEOだし」


ティムもポルノを見て笑ったが、内心、ティムはこのような女性が自分以外の男性とをするのが嫌だった。

 なぜなら、自身は女性とモテない男であったからだ。ティムは誰よりも女性の貞操を大事にし、何も知らない無垢な女性が好みだった。

 このポルノに映っている女性もティムの好みの女性の1人であり、できれば映像に映っている華奢な中年男と代われとさえ思っていた。ティムはポルノ映像を見ながら薄汚い欲望を抱くようになった。



_____________




ポルノを見た後、ティムとザックは慣れない手つきで布団を敷いて寝た。

ふとティムは布団の中で現代にいた時のを思い出した。


「よぉ!ゲィ野郎!なんか喋れよ!」


「おぃ!なんか面白いこと言ってみろよ」


それは高校の廊下で嫌がらせを受けている嫌な記憶だ。


「ごめんなさい。やっぱりあなたとは付き合えない」


兼村未来に似たアジア系の女性がティムの元を去って行く。


「あいつ……転校したんだっけ?」


ティムはかつて告白した女性の事を思い出す。

他の生徒たちや教員には怒りを感じていたが、彼女にはそういう怒りは無かった。 無かったからこそ自ら手を汚すその日が訪れるまでこの学校から去った事に安堵していた。もし転校していなかったら、彼女でさえ殺していた。過去の事を振り返りながらティムは深い眠りについた。

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