一人の少年はどうして最強の力を求めたのか?

ポテッ党

第1話 パラダイム

 最強の異能力とは何か。

 

 そう問いかける前に、前提条件の話をしよう。


 パラダイム。

 ソレは人類が古来より有する異能の、最も新しい名前。

 かつては権能、魔術、超能力と呼ばれていたそれらは、今世紀になってようやく完全に体系化された。


 パラダイムを持つ者は視界能力者パラダイム・シフターと呼称され、今やその質と量は国力に直結する時代となった。


 パラダイムは六つに分類される。

 獣化や肉体強化を代表例とする、肉体を変化・強化する内界改変インナーチェンジ

 サイコキネシスやパイロキネシスを代表例とする、外界に作用・出力する外界作用アウターエフェクト

 治癒能力を代表例にする、他者に作用する他界介入オザーフォース

 境界もしくは存在そのものに作用する境界掌握ボーダードミネイト

 分身などの、確固たる存在を顕現させる現界自律アルタースタンド

 そして最後に異界を作り出す、異界投影ワンダーランド


 他にも能力によってさまざまな小分類が当てはまるが、それはいったん置いておこう。

 

 今俺が、諸君らに問いかけたいのは、そんな些細な小分類の事ではない。

 俺が問いかけたいこと、即ちそれは『』ということだ。

 

 そう言われて諸君らは何を思い浮かべるだろうか。

 天候を操る能力? 海洋を操る能力? 大地を操る能力? それとも時間を操る能力か、空間を操る能力だろうか?

 すべて実在する。

 しかしそれらは最強たり得ない。

 

 真の最強とは。

 『』であると俺は確信している。


 そしてパラダイムの最大の特徴がある。

 造れるのだ。

 上記の系統に応じて、できることの得手不得手は生まれつき決まっている。

 しかし、極めれば複数の系統を内包した力を手に入れることができる。

 無論、欲しいパラダイムをノールール、ノーコスト、ノーリスクで作り上げられるわけではない。


 逆に言えば、才能があれば、リスクを許容すれば、コストを用意すれば、ルールを設定すれば、パラダイムは作れる。


 だからこそ俺は、この力を。

 『絶対強者の生殺与奪パラダイム・テイカー』を作り上げたのだから。



 □



「欲しい! 最強の力が!」


 よし、ならば作ろう!

 動機はそんな感じが大半だった。

 だから俺はパラダイムの存在を知った時から、自然とどんなパラダイムだったら最強かを考えた。

 そして結論が出た。


「能力を奪って、貸して、取り立てれれば最強じゃね?」

 

 何せどれだけ鍛えた能力だろうと、敵の手に渡ってしまえば意味がない。

 逆に言えば、相手の能力を奪うことができれば、相手がその能力につぎ込んだ時間と労力をそっくりそのままかすめ取ることができるのだ。

 これは強い。


 しかし能力をただ奪うだけでは、もてあます可能性がある。

 そこで能力を貸す能力だ。

 使わない能力を適当な相手に貸して、代わりに鍛えてもらうのだ。

 そして頃合いを見て、取り立てる。

 そうすることで俺は強能力を労力ゼロで扱うことができる。


 うん、最強だ。間違いない。

 では早速パラダイム作成に取り掛かろう。

 まず初めに系統を知らなければならない。そこで俺が用意したのは自分の血を混ぜた絵の具と、紙だ。

 これだけあれば能力を知ることができる。

 まず紙に血を混ぜた絵の具で丸を書く。

 そしてその状態で『魔力』――パラダイムが魔術と呼ばれていた時代の名残――というパラダイムの燃料である生命力の一種を流し込む。

 

 その絵具で書いた丸が、内側に色が染み出せば、内界改変インナーチェンジ

 外側に染み出せば外界作用アウターエフェクト

 円の形が変われば、他界介入オザーフォース

 円の形と大きさを保ったまま色が変われば境界掌握ボーダードミネイト

 外側に染み出したうえで、しみ出した絵の具がおのずと円を描けば現界自律アルタースタンド

 円の内側の紙に何かしらの変化――燃える、凍る、破れる――があれば異界投影ワンダーランド


 狙うは、能力を奪うことに適しているであろう他界介入オザーフォースだ。

 さて、結果は?

 

「お、おお、おおおお!!」


 円の形が変わっていく。

 俺が描いた赤い色の円は、色を保ったまま、星型へと変化した。

 間違いない。他界介入オザーフォースだ。


「よっしゃぁぁぁああああああ!!!」


 これで俺の望みは叶ったも同然だ。

 無論、そうでない系統であった場合も、色々と対策は講じておいたが、第一希望を一発で引けたということはとてもうれしい。

 

「さてさて。次はルールとコストと、リスクだな」


 いきなり能力を発現させる、なんてことは俺はしなかった。

 明らかに俺が考えた『』は、非常に過大なチカラだ。

 こんなものをいきなりポンと発現させられるほど、パラダイムは無法の力ではない。


 無理に発現させようとするとどうなるかというと、クッソしょぼいうえに成長性皆無の力になる、程度ならまだまし。

 能力者自体を傷つけてしまうような力になってしまったり、制御不能の力になってしまったりもするのだ。

 

 故にパラダイムを作る際は、非常に慎重に、可能ならば熟達した指導者の下で行わなければならない。

 だが俺にそんな伝手はない。

 両親はいない天涯孤独の身だ。

 だから俺のような六歳児が挑戦するのは非常に無謀であると言える。

 けれど俺はどうしても一刻も早く、確実なその力が欲しいのだ。


 なので完全独学でやっていくことにする。

 秘策はある。

 その秘策を説明する前に、ルール、コスト、リスクについて説明するべきだろう。

 これら三つは、能力を規定する法則だ。


 まずはルールの設定をする。

 例えば一日二時間しか能力を使えないようにする、だとかのマイナスの効果をもたらす制限でもあれば、晴れの日は能力の効力を二倍にするだとかのプラスの条件の場合もある。


 そしてルールの設定には必ずリターンがある。

 一日二時間しか使えない場合のリターンならば、その二時間だけならば、魔力の消費を気にせず使い放題であったり。

 晴れの日に効力を二倍にするのなら、雨の日は四分の一になるとか。

 プラスマイナスがゼロになるようになるのが、ルールの特徴だ。


 次はコスト。

 能力の使用には通常、魔力が必要となる。

 しかしソレにコストを追加することも、代替えすることも、軽減することも可能だ。

 例えば自分の血を魔力の代わりに消費したり、海水を魔力と一緒に消費したりといった形で能力の効力を上げたりすることができるわけだ。

 

 最後にリスク。

 これは能力に関する事柄でリスクを負うことによって、その能力を強化することができるのだ。

 例えば、相手の攻撃を棒立ちで喰らう代わりに、防御力を十倍にするなどだ。

 ある意味ではルールと表裏一体であると言える。


 この三つが複雑に絡み合って能力は形成される。

 まあ、生まれつきパラダイムを持っているような天才児も存在しているが、今は関係ないだろう。


 それでは俺の秘策を紹介しよう。

 簡単だ。

 能力のための条件を設けるのではない。

 能力を条件を設けるのだ。

 

 具体的に言おう。

 俺は『能力を奪い、貸し、取り立てる』能力を発現させるために、無能力状態で、能力者を撃破することを条件とした。

 それも一人や二人の話ではない。

 最下級、拳銃で武装した人間程度の戦闘力である微視能力者ステージ1を百人。

 下級、対物ライフルやガトリングなどの大型銃器で武装した人間程度の戦闘能力である軽視能力者ステージ2を五十人。

 中級、戦車レベルの戦闘能力である注視能力者ステージ3を十人。

 上級、戦闘機レベルの戦闘能力である重視能力者ステージ4を五人。

 最上級、一個師団を殲滅できる巨視能力者ステージ5を三人。

 

 これらすべてを基礎的な魔力操作と身体能力で撃破することをルールとして己に課した。

 これを破れば、俺は一生能力を手にすることができないというリスクも同時に科した。

 

 能力者よりも強い無能力者であって、こそ俺は最強たり得るのだ。

 以上が俺の秘策である。


 さあ、挑戦を始めよう。

 世界最強の異能への道への挑戦を。

 異能を手にした暁に、俺は――。

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