短編ホラー集

四谷とばり

第1話 首

これは最近、俺が実際に体験した話だ。


俺は今年から都内の大学に通うため、実家を出て上京して来た。

大学の寮は狭くて嫌なので、少し遠くなってしまうが郊外にあるロフト付きのアパートに住むことにした。

ロフトに布団を置き、寝室代わりにすると部屋がかなり広く感じられる。


新生活が始まって3ヶ月、徐々に都会の人の多さに慣れ始めていた頃だった。


首回りに慣れない違和感を感じた。

まぁよく言うスマホっ首かな?と特に気に留めることも無かった。


それから1ヶ月、首の違和感は痛みに変わりつつあった。

さすがにおかしいと思い、整形外科に行ってみた。しかし結果は異常なし。強いて言うとほんの僅かに炎症を起こしているが、新生活によるストレスだろうと言われ、気休め程度にサロンパスを処方された。


まぁ案の定というか、サロンパスを貼っても一向に痛みは無くならない。むしろ日に日に増している。


困った俺は友達のAに相談してみた。すると、首に巻くネッククッションを付けてみてはどうか?と提案された。

なるほどと思った俺は早速購入し、その日からネッククッションを付けて寝るようにした。


ネッククッションを付けてから数日、驚くべきことに、首の痛みはほとんど治っていた。俺はネッククッションの効果にひたすら感動していた。Aにお礼がわりに何か奢らなきゃな、なんて考えていた。


首の痛みが無くなって数日。俺は朝起きていつも通りにネッククッションを外そうとすると、妙なことに気が付いた。

クッションが凹んでいたのだ。寝相が悪かったかな?なんて思いながらクッションを外し、凹みを確認してみた。


そこで俺は悲鳴をあげそうになった。その凹みは明らかに人の手の形をしていたのだ。まるで首を絞めようとしたかのようだった。


ビビった俺は急いで身支度を済ませ、慌てて家を出た。ネッククッションを提案してくれたAに連絡し、最寄駅に隣接する喫茶店まで来てもらうことになった。


Aが到着し、俺はネッククッションが手形に凹んでいたことを説明した。友達は「偶然だろー」何て言いながら、全く信じていない様子だったが、俺があまりにもマジになって話したからか、「一度見せてくれ」と言い出した。


俺はAと一緒なら大丈夫かな?と思い、アパートへ戻ることにした。

アパートへ着き、部屋へ入った。当たり前だが部屋には誰もいなかった。朝のアレは見間違いかもしれない、と思い意を決してロフトに置いてあるネッククッションを手に取った。


俺は再び悲鳴をあげそうになった。やはり人の手形がハッキリと付いていた。見間違いなどでは無かったのだ。


しかし、Aはそれを見て言った。


「お前がふざけてやったんじゃないのか?」


「俺がやるわけないだろ!!」


どうやらAは、俺が悪ふざけでやったのだと思っているらしい。


納得できないのか、Aは言った。


「ならおれが今日ここに泊まって真相を確かめてやる」


俺はやめとけと言ったのだが、こうなったAは止められない。俺は「何があっても知らないぞ」とだけ言い、Aを部屋に残しネカフェで1日を過ごす事にした。


翌朝、俺はAからの着信で目を覚ました。履歴を見ると、とんでもない数のAからの着信が入っていた。


おれは慌てて電話に出ると、開口早々にAは言った。


「あれはマジでヤバい」


「何があったんだ?」


ここからはAから聞いた昨夜の話だ。


Aは直前になって、俺の真剣な表情を思い出し、自分が寝るのはやはり怖いなと思ったらしい。そこで代わりに俺の部屋にあったアニメキャラのぬいぐるみを布団に置いた。そのまましばらくは何も起こらなかったが、深夜3時頃、ロフトの天井から白い腕が伸びて来てぬいぐるみの首を絞め始めたらしい。下から見ていたAはそこで怖くなり部屋から飛び出した…。


Aの話がどこまでが本当か嘘かはよく分からない。ただ、俺が部屋に戻ると、ロフトにある布団の上には、頭の取れたぬいぐるみが転がっていた。


昨日から俺は別のアパートに引っ越した。最近は首の痛みも全く無く、快適な学生生活を送れている。

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