第二十四章  兄を慕って ~リィエン、許さない…!~

バーュナス城に着いた瞬、聡哉は少し遅れてから登場する予定だ。

どれだけ陽動できるかに掛かっている、僕は切り込み陽動兼切り札なのだ。

城の大きさはサンバラシア城を遥かに凌いでいた。

20万近い兵力もあながち嘘ではないような臨場感を感じる。


瞬「よし、行くか。」


ゆっくり城門前に歩み寄る瞬。

門番の兵士が行く手を遮った。


バーュナス兵A「お前は何者だ、ここを誰の城と心得て来たのだ?」


瞬「…衣装を見て分かりませんか?

 アスクァーシル姫を取り返しに来た如月 瞬ですよ!」


バーュナス兵A「何っ!?」


瞬「遅いっ!!」


二人の門番をあっさりとぶちのめす瞬。


瞬「さて、門番は片付いたが問題はこのでっかい城門をどうするか…。」


バーュナス兵「む、無駄だ!

      厚さ20センチの鉄筋入りの樫の城門は破れん!」


瞬「ふーん…。」


堀に囲まれて城門までは距離がある。

城門はこちらに倒れてくるタイプなので厄介だ。

上を見上げると城壁はかなりの高さがあり、10メートルは軽く超えている。

跳躍して侵入出来ないように金属の棘もついている。

ひょっとしたら飛翔魔法でも入れないよう結界が張られているかもしれない。


瞬「こんなとこで足止め食うと問題だ。」


バーュナス兵A「ハ、ハハハ!

       バーュナスに楯突いたことを後悔するといい…、え?」


おもむろに瞬はバーュナス兵の一人の首を引っつかんで宙吊りにする。


バーュナス兵B「う、げぇっ…!!」


バーュナス兵A「な、何をする!

       こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」


瞬「城門を開けて頂こう、あなた達を殺すくらい訳無いことです。

 つまらない名も無き兵として死ぬも良し、

 2人とも死んでしまったら自分で開けます。」


笑顔で言う瞬にただならない恐怖を感じたのだろう。

バーュナス兵の1人がそれに応じた。

重苦しい音を上げて開く城門。

通れるようになったと思ったら城内には大勢の戦闘体勢の兵が今か今かとこちらを見据えている。


瞬「げ!?」


人質にしていた兵を投げ捨てるように解放すると、

大勢のバーュナス兵が瞬めがけて攻め込んできた!!


瞬「ちぃっ! どういうことだ!? バレてたとしか考えられないか!」


倒れるバーュナス兵が増える、だがそれ以上に瞬を狙うバーュナス兵が圧倒的に多い!


バーュナス兵「やれーっ!」


瞬「城門から動けない何てシャレにならない!

 しかし中に入れば一網打尽は必至!」


城門という狭いところで戦う瞬の選択は正しかった、ここなら3~5人くらいの相手で済むのだ。

しばらくして奥のほうの大勢の歓声と共に瞬の相手をする兵士の数が急に減ってきた。


バーュナス兵「裏門から人間が来たぞ!

      いくら如月とはいえ1人、数で攻めれば大した事はない! 

      如月は陽動だ! 兵を裏に回せ!」


瞬「来てくれたか!」


聡哉の存在を信じた瞬は薄くなった兵士の壁を一気に突き破って城内に侵入する。


瞬「アスカはどこだ!? …あそこか!?」


広い城内に離れた大きな塔のような建物がある。

そこまで一気に突っ走り、入り口を探すが見当たらない!

上を見上げてみるが城の本丸と思われる場所からは何も橋らしいものさえ伸びていない。

完全に孤立されていて、かつ入り口の無い高い建物。

その上のみ居住空間の存在を思わせる造り。


瞬「…僕ならここに隠すかもしれないな、これが引っ掛けだったら災難だが…。

 否、賭けるしかない!」


後ろから迫る沢山のバーュナス兵を控えてうじうじしている暇など無い!

この建物の壁を登るのはつるつるしていて猿も逃げ出しそうなほど困難そうだ。

どこかの泥棒さんみたいに吸盤でもあればいいのだろうがまったく想定できる術が無かったのだから

ここは止むを得ない、というところだろう。

方向を転換して本丸を攻めに入った瞬、きっと入り口なら安全なここしかないと考えたのだ。

本丸入り口にさえ兵士がいる。


瞬「邪魔だ! 退いてもらうぜ!!」


兵士は跳ね返るボールのようにぽーんと飛んでいく、本丸の壁をぶち破り内部に突入。

そこにも沢山の兵がいたが瞬の相手ではなかった。

一気に本丸を駆け上がり、うろ覚えながらアスカのいそうな建物の方向と高さを計算して位置を探す。


瞬「ここか!」


列車の連結部分のような蛇腹の機構が見えた、位置、高さ共にいい感じだ。

スイッチを押すと大きな音を上げて動き出す機械。

起動が鈍いので動き始めるまで兵士の相手をする瞬。

がこん、言う音を立てて橋が伸び始めた。


瞬「っしゃあ! ビンゴ!」


兵士を蹴飛ばして橋に飛び乗って離れの塔に向かった。

橋を伝って迫ってくる兵士も相手をせねばならなかった。

高い位置に橋一本しかない、しかも離れに向かう橋なのだから瞬の今いる場所は外だ。

落ちたら命は無いだろう、目下の兵士が豆粒みたいなくらい高いのだ。

何とかかいくぐって離れの塔に着き、扉を閉じて兵士を遮断する。

中は真っ暗だった。

手探りでスイッチを探し、手にそれが触れ、押すと部屋は明かりに包まれた。


瞬「アスカ!」


目当ての人がいた!! 

両手を鎖につながれて壁に貼り付けられている。

全く酷い有様だ!


アスカ「しゅ…ん?」


瞬「助けに来たよ、今外してあげるから!」


手早くアスカを壁から解放するとアスカは力なく瞬に倒れ掛かった。


瞬「大丈夫か!? さぁ、逃げよう!」


アスカ「うん…、ほんと貴方って愚かな人…。」


瞬「っ!?」


腹部に深々と突き刺さる銀色のナイフ、気付くのが遅すぎた。


瞬「がっ…、ああああああぁぁぁっ!!」


アスカ「あはははっ! 本当にバカね! ちょっとは疑いなさいよ!」


感じ悪く笑い飛ばすアスカ。

だが髪や服装、顔面の皮を引き剥がしたそこには…!


瞬「リ…ィエンっ!」


リィエン「ふふふ、ほんとにアスクァーシルのことが好きなのねぇ。

    見境無くなっちゃうんだから。

    そのお陰で見事に引っかかってくれたんだけどさ。」


瞬「道理でうまくいくとは思ったんだけどな…、くっそぉ…。」


リィエン「陽動を掛けたみたいだけど無駄だったわねぇ。

    アスクァーシルはここには居ないわよ。

    来るかもしれないとは思ってたけど、

    まさか本当にアスクァーシルを取り返しに攻めてくるなんてね。

    カルハーシュの計算高さに感謝しないとね。」


瞬「な、何だと?」


リィエン「クォーラシアセルが助力をあおったんでしょう?

    作戦が漏れてるのよ。

    瞬が来るんじゃないかってね。

    城の造りは誰も知らないから構造的にここを攻めるだろうって。

    ロライスター兵もいるから君の後に攻め込んできたもう一人の子は死んじゃうんじゃない?

    早く助けてあげなくちゃヤバいぞ~?」


瞬「まず…いっ! 聡哉っ!!」


リィエン「おっと、逃げられちゃ困るのよね。 

    せっかく来てくれたんだからご丁重におもてなしするわよ?

    洗脳でもしてうちに居てくれないとね。」


瞬「やられてたまるかってんだ!」


しかし瞬の一撃は空しくも空を切る。


リィエン「ムーダムダ! なめないで欲しいわね。

    そんな深手を負って私と対等に戦おう何ざ愚の骨頂。」


瞬「うぅっ…。」


リィエン「元気がいいからちょっと痛めつけてあげないとね。

    アスクァーシルを想いながら苦しむといいわ!」


身動きがとれずに攻撃に目をそむけた瞬間、爆風爆音と共に建物の屋根が吹き飛んだ!!


リィエン「きゃあああっ! な、何なの一体!?」


破壊された屋根から太陽とは逆光で見るのが困難な人間の影がこちらを見ているようだ。


?「瞬兄ちゃん!」


その影はそんな事を叫んで瞬の下に舞い降りてきた。


瞬「そ、そんな…。 君は…!」


リィエン「チェリーシェル!?」


チェリーシェル「リィエン、許さない…!」


信じられなかった。

チェリーシェルがここにいるのも、普通に喋っている事も。


瞬「ま、待ってろって言っただろう…!」


チェリーシェル「イヤ! 皆が力を合わせて戦おうとしてるのに僕だけお留守番なんて!」


瞬「しょ、うがない子だな。 こうなったらやるしかないな。

 覚悟は出来てるかい?」


チェリーシェル「うんっ!」


リィエン「まさかフィルムーンの姫が懐いてたなんてね。

    でも戦況はこれじゃ変わらない!」


チェリーシェル「リィエン、うるさい。」


真っ先に飛び出したチェリーシェルの一撃はリィエンを直撃し、リィエンは壁にぶち当てられた!


リィエン「がっ…は! な、何なのよ!?」


瞬「さくらちゃんってば強ぇー…。」


チェリーシェル「瞬兄ちゃん、アスカお姉ちゃんは城の地下にいるよ! 

       カルハーシュ姫が教えてくれたの!

       もうすぐパパやクォラスおじさんが来るから!」


リィエン「カ、カルハーシュ…!!」


瞬「了解っ…、でかした! さくらちゃんっ!」


チェリーシェル「えへへっ、僕えらい?」


瞬「あぁ、本当にえらいぞ!」


頭をくしゃくしゃ撫でるとチェリーシェルは嬉しそうに目を細めた。


チェリーシェル「っ! 瞬兄ちゃん、凄い血だよ…!? 手当てしないと…!」


リィエン「ハ、ハハハ! 殺してあげるわチェリーシェル!!

    殺して微塵に切り刻んであげるわ!!」


瞬「さくらちゃん、俺の事はいい! リィエンを足止めしてくれ、頼む!」


チェリーシェル「う…。 わ、分かったよ!」


瞬「ヤバくなったら逃げろよ!!」


一目散に来た道を引き返す瞬、リィエンの怒りは頂点に達していた。


リィエン「ダメねぇ! ガキがこんなとこにいちゃあ! 血を見せなさい!」


チェリーシェル「瞬兄ちゃんに怪我させた事、僕が後悔させてあげるよ…っ、

       えっ?」


ドウ。 という鈍い音共にリィエンの拳がチェリーシェルの腹部を深く捕らえる。


チェリーシェル「あ…、っはっ…!」


リィエン「アハハハッ! 所詮子供ね。 

    こんなに若いのに家出なんてして本当に悪い子…。

    ロクに訓練もしてないのに足止めになると思ったの?」


チェリーシェル「あ…、ぐうっ…!!」


リィエン「可哀想だから少しは足止まってあげる。 …そうね。」


再びリィエンは小さい体つきのチェリーシェルの腹部の深部に衝撃を加える。

びき、ぱきん。 という鈍い音が体の中から耳まで響いてくる。


チェリーシェル「あああああああっ!!」


リィエン「あらぁ、いい音。 ごめんなさいねぇ。

    あんまり脆いもんだから肋骨に3本くらいヒビが入っちゃったわ。

    鍛えてない貴女が悪いのよ?

    でも偉いわねぇ、ちゃんと足止めできるんだから。

    死んじゃうまでどれくらい持つかしらねぇ。

    きっとそれまでには瞬だってアスクァーシルに会えるでしょ。

    ふふふふ…、アハハハハハッ!!」     


-------…。


一方、無我夢中に本丸を下る瞬。

チェリーシェルが足止めをしている間少しでも早く着かなくてはならない!      

刺された腹部の痛みで体がうまく動かない、兵士と戦う度に激痛が走る。

しかしこの痛みで千載一遇のチャンスを逃しては大馬鹿者だ!

一階に戻ってきたのはいいが地下室の入り口がどこかさっぱり分からない!


瞬「適当にぶち破ったらぁ!!」


地面を手当たり次第破壊する瞬、広い城だけに素直に入り口を探す暇などない!

ぶち破ること7回目で空洞が見つかり、瞬は地下に舞い降りた。

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