第二十三章  出陣 ~20万の兵を2人で挟撃~

ついにこの日が来た。

戦いの日だというのに瞬は戦う前から傷だらけだった。

HEIGAからは任意で聡哉が来てくれるそうだ。

始め僕はこれは自分の問題だからと断ったのだが、聡哉に叩かれた。

親友である聡哉が、僕という親友が闘いに臨み、苦しんでいるのに指くわえて見ていろと言うのかと。

セヴァースに連れられて到着したサンバラシア城の王の間。

初めて見た聡哉はその規模に驚いていた、僕だって驚いている。

1回2回見たくらいじゃ慣れるサイズではない。


聡哉「なぁ、瞬よかったのか?

  HEIGAからだって要員を出してくれるって言ってたのによ。」


瞬「僕の個人的な問題だから断ったよ。」


聡哉「でもよ、アスカが関わってるならHEIGA直属の問題でもあるんだぞ?」


瞬「僕が助けたいんだ、それにサンバラシアやフィルムーンだって関わってる。

 HEIGAには天球を護ってもらいたいんだ。

 そう仙波総帥に頼んだら了承をもらったよ。」


聡哉「はーん、あの千歯こきがねぇ。」


瞬「うわー、酷い言われよう…。」


クォラス「来たか、瞬君! そっちの子は誰だ?」


瞬「親友の聡哉です、友情出演してくれるそうです。」


聡哉「初めまして、九城 聡哉ッス。 

  アスカ、いやアスクァーシル姫にはお世話になってたんでご一緒させて欲しいんスが。」


クォラス「ん、ありがたい。 君の活躍に期待させてもらうぞ! ハッハッハ!」


サンバラシア城の前にはとんでもない数の人間が集まっている。

城の高い演説台に瞬はしっかりとした足取りで立っていた。


セヴァース「瞬殿、フィルムーンの兵が全て到着したそうです。 ご指示を。」


クォラス「よし、ここからは君の役目だ。 我々は一兵士として動かして欲しい。」


瞬「はい!

  では今回の作戦を立ち上げるに従ってセヴァースさん、兵力を教えてください。」


セヴァース「サンバラシア兵は約2万5千、フィルムーン兵は約5万の合計7万5千でございます。

     しかしながらバーュナスの兵力は約20万と推定されております。」


聡哉「げ! 3倍近い差があるじゃねぇか!」


クォラス「さて、どうする。 瞬君?」


瞬「うーん…。」


悩む瞬にヴァルセイルとチェリーシェルを抱いたナディアールが来た。


ヴァルセ「サンバラシアもフィルムーンもこの戦いから引いた兵士はいない。

    だが、これほどまでの兵力差がある。

    兵自体は弱くは無いが、バーュナス兵自体が多すぎる。

    持久戦はこちらに圧倒的に不利だ、短期決戦が望ましいと私は考えるがどうだ?」

瞬「基本的にはこの兵力差からでは短期決戦が望ましいのは言うまでも無いですね。

 確かにヴァルセイルさんの言う事は正しい。

 ところでクォーラシアセルさん、カルハーシュ姫との会談はどうなりましたか?」


クォラス「申し訳ないことに残念な結果に終わってしまった。

    粘ってはみたのだが、門前払いだった。」


瞬「む、ロライスターも人が冷たいですね。」


ナディア「仕方ないわよ、みんな自分が大切なんですから。

    バーュナス相手に戦いを挑むなんて自殺行為以外の何者でもないんですから。」


ヴァルセ「確かにな、だがバーュナスに怯えて暮らすならこっちの方が返って晴れやかだ。」


瞬「…よし、この作戦で行こう。」


クォラス「いい案があるのか?」


瞬「サンバラシアの兵やフィルムーンの兵に分隊はありますか?」


クォラス「突撃班とかはあるが…?」


ヴァルセ「うちも同じような感じだな。」


瞬「ん! ではサンバラシア兵の統括ならびにフィルムーン兵の統括は各王様にお任せします。」

クォラス「何!? 総司令を放棄するのか!?」


瞬「違いますよ、この戦力差では不意打ちしかありません

 敵陣での戦闘ですから困難は極めるでしょうが、これが一番手っ取り早いと思います。

 不意打ちだけに迅速な動きと統制感と作戦が求められます。

 ですからそれは統括しやすく、かつ兵士の素性をよく知る各王の指揮下の方がいいでしょう。

 今回の最大の焦点は僕にありますから、先に僕と聡哉の二人が単騎で敵陣に突撃します。

 それに統制と戦力を分散させたバーュナス兵をサンバラシアとフィルムーンの兵士が相手をします。

 ややサンバラシア兵に負担は掛かりますが20万対7万5千よりは勝率は高まります。」


ヴァルセ「馬鹿なっ!! 先に突撃なんぞ仕掛けたら2対20万になるぞ!?」


瞬「いえ、正確には最高で1対10万ずつでしょう。 

 でも攻める場所は城ですから20万も常駐していないと思います。

 希望的観測ではありますが、バーュナスに対してはそれを確かめることも危険です。

 例えそうであれなかれ僕は正面から突っ込みます。

 聡哉は不意打ちのように反対側から攻めます。

 出来るよね、聡哉?」


聡哉「最高じゃねぇか! 華々しい幕開けを飾ってやるぜ!!」


瞬「よし、そのあとに段階的に正面からフィルムーンが、反対からサンバラシアが攻めます。

 こうすればサンバラシア兵の負担はかなり減ります。

 仮に20万の兵が城に常駐していなくても長期に渡ってしまえば確実に20万の兵が相手になる。

 ですから確実な不意打ちを攻め方、戦術ともに優れた王に任せたいのです。

 そこからさらに分散して攻めるも伏兵するも王次第です、どうでしょうか?」


ヴァルセ「し、しかし!」


クォラス「よし、了解した!」


ヴァルセ「クォラス! いいのか!?」


クォラス「俺は総司令の瞬君に従うだけだ、瞬君がそうするなら信じようじゃないか。

    なんの計算もなしにこの道を選んだようには見えないんだよ。」

    本当に兵士を大切にした戦略ではないかな?」


ヴァルセ「…よし、了解だ!」


瞬「さくらちゃんはどうしますか?」


ヴァルセ「危険極まりない戦いになるだろう、ここは引いたほうがいい。

    チェリーシェルが受け持つにはあまりに幼いが、フィルムーンを治めてもらわんとな。

    国が残っていれば、の話だが…。」


チェリーシェル「…うぅ。」


ナディア「ごめんねチェリーシェル、貴女には死んで欲しくないの。

    もし国が滅びてもあなたはフィルムーンとして生き残って欲しいのよ。」


チェリーシェル「…ん。」


とてもつらそうだが、チェリーシェルは了承したようだった。


瞬「では僕と聡哉は突撃しようと思います。

 サンバラシアとフィルムーンの偵察隊に送っていただきたいのですがよろしいですか?」


クォラス「もう始めるのか? もう少ししてからだっていいのだぞ?」


瞬「アスカは僕を待ってる、少しでも早く…!」


聡哉「待てってーのエクストラバカ、お前はサンバラシアの衣装を着るんだよ。

  アスカの騎士なんだろ? 一世一代の大勝負なんだぜ?

  カッコくらいつけろ。」


瞬「そ、そんなもんかな?」


聡哉「俺様が調整してやるからフィルムーンの衣装も合わせてみろ。

  うまーい具合にカットしてカッコよくしてやるからよ、ヴァルセイルさんでしたっけ。

  瞬に合うようなフィルムーンの戦闘衣装って無いっスかね?」


ヴァルセ「あぁ、用意しよう。」


ナディア「なかなか粋じゃないの、聡哉君!」


聡哉「瞬のやつがファッションにこだわらないからいけないんスよ。」


用意されたフィルムーンとサンバラシアの戦闘衣装を器用に合わせていく聡哉とナディアール。

その間も瞬は形の訓練を怠らなかった。


瞬「いち、にい、さん…。 いち、にい…、さん。」


セヴァース「やっておられますな、落ち着きませんかな?」


瞬「セヴァースさん、もう不安でしょうがないですよ。

 ミスは許されないんですから、でも不思議と怖くは無いんです。 何て言ったらいいのかな。」


セヴァース「わかりますぞ、私にとっての初陣もそうでしたからな。」


瞬「絶対に負けられない、いや、負けない。 もうあんな思いはたくさんだ!」


セヴァース「…時に、瞬殿は力を出し惜しみするところがありますな?」


瞬「え?」


セヴァース「特訓していて気付いたのですが、相手を無意識に気遣っておられる。

      その優しさは忘れてはなりなせぬ。

      ですが今回のように種の存亡を賭けたこの場合によっては、」


瞬「殺さねばならない、ですか。」


セヴァース「左様、おそらくは相手が我々であったということもありましょう。

     しかし、もし我々が偽者なら、もし我々が心を操られたら。

     その時こそ殺さねばなりなせぬ。

     仲間を傷つけること、それこそ我々には死よりも苦痛なのです。」


瞬「----、覚えておきます。」


聡哉「へーい、瞬! できたぜ!」


瞬「あ、ありがとう。」


ナディア「早速合わせてみて。」


二人の繕ってくれたそれを着てみるとハデさの中に統一感があるというか、何と言うか、

一言で言ってカッコよかった。


聡哉「おぉ! 似合うじゃねぇか!

  この衣装こそサンバラシアとフィルムーンの総司令って感じがするな!」


ナディア「私、瞬君を見ていてフィルムーンの伝説を思い出しちゃったわ。」


ヴァルセ「大地の騎士シンフルーニと恋に落ちた月の女神アルテミスの伝説か。」


ナディア「えぇ、アルテミスに恋したシンフルーニは女神の会うため月を目指した、

    でも大地の騎士は大地を離れられず、月には行けなかった。

    皮肉なことに月の女神アルテミスもまたシンフルーニに恋をしていた。

    でも地球の衛星である月の女神には天球の大地の騎士には会うことが叶わず

    ただただ見ているだけ。

    そこでシンフルーニが考えたのは、ここを月にしてしてしまえばいいのだという事。

    月は大地の星だからシンフルーニにとってそれは容易いことだった。

    わずかに月になった部分を用意したシンフルーニはアルテミスを迎え入れる事に成功して

    たった一晩だけ愛し合った。

    その子供の子孫が私たち、大地の騎士シンフルーニが愛するアルテミスの為に

    天球を月で(Moon)満たす(Fill)という語源から生まれたフィルムーンなのよね。」


クォラス「それは知らなかったな…。」


セヴァース「サンバラシアにも伝説がございます。

     この銀河における唯一つの恒星、それが太陽でありますが、

     そこを治めるシュライザルという姫様がおりました。

     太陽は銀河にある星に光と炎の温かみのある恵みの輝きを放っております。

     ある時シュライザルは天球のとある一国の王子に一目惚れをしまして、

     幾度と無くその王子に会っていたそうですじゃ。

     ですがあまりに王子に夢中になり過ぎた為に

     太陽の管理がおろそかになって地球は氷河に陥り、

     天球も巻き添えを食って滅んでしまった。

     悲しみに暮れるシュライザルの胎にはその王子の子が宿されていた。

     シュライザルは深く反省し、その子を自分の戒めとして育て、

     天球を再び創造し、

     再び滅ばぬよう生涯二度と太陽を離れなかったと言います。

     その子供の子孫が我々であり、

     太陽(Sun)の均衡(Balance)を崩さぬよう戒められた子、

     という語源から生まれ、その子は後の太陽神サンバラシルスと名付けられた。

     以上の様なところからサンバラシア一族が誕生したと言い伝えられておりまする。」


ヴァルセ「そんな伝説があったのか…。」


聡哉「そんな国の命をその衣装と共に背負った瞬の役目は重大だな。」


瞬「あぁ、シュライザルやシンフルーニの創造したこの国々を滅ぼすわけにはいかない!」


クォラス「俺達は機を見計らって攻める、まずは瞬君と聡哉君に掛かっている!」


セヴァース「姫様をよろしく頼みますぞ!」


ヴァルセ「思いっきりやってくれ! 期待しているぞ!!」


ナディア「お願いね、シンフルーニの再来さん!」


聡哉「この瞬間、お前とアスカの伝説を作り上げるんだ、絶対にやるぜ!」


瞬「あぁ!!」


チェリーシェル「…。」


瞬「頑張るから応援してね、さくらちゃん。」


チェリーシェル「ん。」


サンバラシア兵「瞬さん! 準備できました!」


フィルムーン兵「聡哉さん! いつでも行けます!」


瞬「行くぞ! 出陣だっ!!」


高らかな歓声と共に遂に無謀ともいえる戦いの火蓋は切って落とされた!!

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