妹と仲良くなるため奮闘する話⑤

 あと、手応えがあったのは宿題だろうか。


 俺の数少ない取り柄である地頭の良さがここで光った。

 そう、この間も――。





「鈴那、一緒に宿題やろうぜ!」

「……なんで一緒に」

「そりゃあ一人だとつい怠けちゃうじゃん。でも一緒にやれば、お互いがお互いを監視する形になって、集中できるだろ?」

「私は、怠けませんが」

「じゃあ俺を助けると思って! 誰かに監視されてるぐらいが丁度良いんだ。頼むっ! この通り! なんでもするから!」

「いや、なんでもされる程のことじゃないと思いますけど」


 今の俺にとって、鈴那と一緒に過ごす時間は何にも代えがたいものだ。

 払いすぎなんてことはない。絶対!


「…………仕方ないですね」


 そんな俺の熱意が伝わり、鈴那は一緒にリビングで宿題をするのに同意してくれた。

 そして、後から分かったが、この提案は案外彼女にとっても全く悪いものじゃなかったらしい。


「むぅ……」

「ん、そこ分からないのか?」


 鈴那が数学のテキストを睨みながら、唸っていた。

 軽く覗いてみると、練習問題で詰まっているようだ。


「分からないというか、ええと……」

「あー、ちょっと複雑に見えるけれど、ここで式を分けて考えてみ。後は、直前に習った公式だけじゃなく、その前のとかも利用すれば……」

「ええと……あっ、そっか!」


 解法そのものというより、考え方のちょっとしたアドバイスだったけれど、それだけで十分だったみたいだ。

 ところどころ引っかかりつつも、なんとか数式を完成させた。


「ふっふっふっ、お兄ちゃんも役に立つだろう?」

「勉強、得意なんですね」

「まあ三年生だからな」


 元々勉強にはあまり詰まっていなかったところに、さらに前世の記憶によって補強され、中一の範囲くらいはかなりきちんと教えられる自負がある。

 心なしか、鈴那からもお兄ちゃんに対する尊敬の眼差しが……いや、それはないか。俺が目を合わすとすぐに逸らされてしまったし。


「三年生ということは、もう受験ですよね」

「一応そうだな」


 中学三年生ということは、今年高校受験するってこと。

 ただ、前世の記憶的には、受験というと大学受験のイメージが強くて……なんか、あまり身が入る感じがしない。


「栄司さんは、どの高校を目指されているんですか」

「俺は……晴天高校かな」


 晴天高校。この辺りじゃそれなりに頭の良い公立高校。

 そして、ゲーム『恋色に染まる空』の舞台でもある。


 もしもゲームに描かれた未来を変えようと思うならば、一番確実なのは志望校を変えることだろう。まぁ、俺のような脇役が入学しなかったからって何も影響は無いかもしれないが。


 ただ、そもそも俺はゲームの未来をぶっ壊したいわけじゃない。

 たとえゲームの未来が変わっても鈴那を助けたいと思っているだけだ。


 それに、ゲーム云々は関係無く、将来を考えれば晴天高校に進むのはベストな選択だと言える。

 家からそれほど遠くなく、偏差値も高い。公立なので私立よりも学費がかからない!

 進路相談でも担任から手放しで勧められているほど。じゃあ行くしかないよなってことで。


「晴天高校……」


 鈴那は呟きつつ、手元に視線を落とす。


 俺の両親に負担を掛けたくない、というのが鈴那の意志ならば、彼女にとっても晴天高校はベストな選択肢だろう。

 高校を出て、大学に行くかどうかはともかく、早く自立したいというのであれば、高校も適当にではなく、レベルが高いところを選ぶに越したことはない。


「鈴那、数学は苦手か?」

「苦手というか……勉強自体、あまり得意ではないと思います。平均点より少し上くらいで」

「そっか」


 意外、というのは正しいんだろうか。

 思えば、神崎鈴那としても、学業についてはあまり触れられていなかった気がする。

 複数ヒロインがいるギャルゲーなどで、フィーチャーされる個性ってのは特別凄いか、特別ダメからのどちらかだ。


 つまり、神崎鈴那について、学業に触れられなかったのは、そのどちらにも当てはまらなかったからって思っていたけれど。

 なんとなく少し落ち込んで見えるのは、もしかしたらこんな問題で躓いているようじゃ晴天高校への進学は難しいかも……と弱気になっているからかもしれない。


「お前はまだ一年生だ。受験で悩む時期じゃないさ」

「でも……」

「じゃあさ、もしも鈴那が嫌じゃなかったら、俺がこうやって毎日勉強教えてもいいぞ? 家庭教師的な?」

「えっ!? あ……でも、毎日はちょっと……」

「じゃあたまに! 鈴那が俺に付き合ってやっても良いって思ったときだけでいいからさ!」

「……それなら、うん」

「本当かっ! やったー!」


 鈴那の返事が素直に嬉しくて、俺は思いっきりガッツポーズを取ってしまう。

 そんな俺に対し、鈴那は所在なさげに俯きつつ、「なんで栄司さんが喜ぶんですか……」と呟いていた。


 だって妹に頼られるなんて、お兄ちゃんとしては最高の喜びだから! ……と、素直に言えば引かれると思うので、それは黙っておいた。






 ……と、いう感じ。

次の約束(予定日未定)まで取り付けたんだ! 間違いなく成功……いや大成功と言っていいだろう!!

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