妹と仲良くなるため奮闘する話④
こうしてこの日から、俺は鈴那に対し、様々なアプローチを積極的に試していった。
家の中でばったり出くわせば積極的に話しかけ、コンビニ程度の買い物にも誘ったり、一緒にテレビ番組を見てみたり、ゲーム勝負を仕掛けてみたり、宿題を教えると提案したり……。
正直、かなり鬱陶しいと思われている自覚はある。
普通家の中でくらい静かに心を落ち着けたいもの。なのに、顔を合わせればしつこく近づいてくる兄(非公認)がいるのだ
俺が鈴那の立場でも、面倒くさいなって感じると思う。
けれど、前世で勤めていた会社の同僚(営業)が言っていた。
――営業は断られても、邪険にされても、とにかく接点を持ち続けることが大事なんだ。むしろそこからが本番だと言ってもいい。いつか向こうが根負けして、受け入れるのを辛抱強く待つのさ。
そう、どこか虚ろな目で自己暗示のような言葉を教えてくれた彼に倣い、とにかく今は上手くいかないことを前提に愚直に挑戦を続けるしかなかった。
そうして当たって砕け続けた中でも、一緒にゲームを遊ぶのは中々手応えを感じた。
ゲームについては、タンクードーが誇る看板キャラクター、植木職人の『マキオ』を気に入っている様子。
マキオテニスに、マキオパーティー……鈴那がわりかし暇そうで、機嫌も良さげなタイミングで声を掛けると、意外にも乗ってきてくれた。
ゲームハードから準備する必要があったため、お年玉貯金はすっからかんに。財布も大分薄っぺらくなってしまったけれど、その甲斐があったというものだ。
(そういえば……親戚の集まりで鈴那と会った時も、こうやって一緒にゲームをした覚えがあったな)
今までの記録を眺め、今後の計画を立てていると、不意にその頃のことを思い出した 。
当時、俺は小学生。鈴那はまだ幼稚園に通っていた頃だったか。
「おにいちゃん、なにやってるの?」
買ってもらったばかりの携帯ゲーム機で遊んでいると、同じく暇を持て余した鈴那が話しかけてきた。
「ああ、マキオランドっていう……やってみる?」
「うう……でも、むずしそう」
「簡単だよ。こうやって移動して、ジャンプして敵を躱す! な?」
この頃からゲームはあまりやる方じゃなかった。
でも、可愛い従妹の目の前だからかっこつけたくて、この時ばかりは得意げに説明してみせた。
……ここ数年会う機会がなかったから、久々に会った鈴那がすごく可愛く美人に成長していて驚いたけれど、思えばこの頃から彼女は十分可愛かったな。
「あっ、おちちゃった」
「ははっ、よくあるよくある」
「うー……おにいちゃん、やって」
「ん、もういいの?」
「すずな、おにいちゃんがやってるのみたい!」
「そっか。じゃあ、お兄ちゃんがかたき取ってやる」
「うんっ」
鈴那は俺の背中にへばりついて、おぶられるように後ろから画面を覗き込んできた。
俺はそんな従妹を背負いつつ、ゲームを再開する。
「よっ、ほっ!」
「おにいちゃん、じょうず!」
「だろー?」
繰り返すが、俺はあまりゲームをする方じゃない。つまり、あまり上手くない。
鈴那の前だからかっこつけようとするけれど、それでもミスは結構する。
でも、鈴那はそんな俺の、お世辞にも上手くないプレイを、楽しく見守ってくれた。
「鈴那、見てるだけでいいのか?」
「うん。すずな、おにいちゃんがゲームしてるのみるの、すきだもん」
年相応の純真さで、そう笑う鈴那。俺も悪い気がしない。
「ねえ、おにいちゃん。このひと、なんていうの?」
「ああ、マキオっていうんだ。けっこう有名らしいぞ」
「へぇ~」
「気に入った?」
「うーん……?」
鈴那は首を傾げる。
「かっこいい!」
「か、かっこいい?」
「うんっ!」
なんだか予想外の反応だった。
変わってるとか、可愛いとかなら分かるけれど。
でも、にこにこしながら、頬を寄せてくる鈴那の前では、そんな疑問もどうでもよかった。
「鈴那、そろそろ帰るぞ」
「えー!」
叔父さんが声を掛けてくると、鈴那は分かりやすく頬を膨らましてブー垂れた。
「もっとおにいちゃんとあそぶ!」
「こらこら、栄司くんも困っちゃうだろ?」
「そんなことないもん! ね、おにいちゃん?」
「俺は全然大丈夫だけど……」
逆に叔父さんたちが困らないかな、と顔色を窺うと、叔父さんは少し苦笑しつつも、怒ったりなんかしなかった。
「そうだなぁ……そうだ、母さん。帰り道で買い物行こうって話してたよね。鈴那はもう少し遊んでいたいみたいだし、先に行ってきちゃうか」
「そうね」
隣りにいた叔母さんが頷く。
そして、ちょっとからかうな笑みを浮かべた。
「でも、いいの鈴那? そうしたらお菓子買ってあげられないけど……」
「えっ!」
ビクッと跳ねる鈴那。
そして、俺と叔母さんの間で視線を彷徨わせる。本気でどちらを選ぶべきか悩んでいるみたいだった。
「ふふっ、冗談。適当にこっちで選んじゃうから、安心して」
叔母さんは鈴那の頭を撫で、宥める。
「それじゃあ栄司くん。もう少し鈴那を頼めるかな」
「ごめんね」
「いえ、俺……僕も鈴那と一緒に遊ぶのは好きなので」
俺は本心からそう返し、叔父さんと叔母さんを見送る。
その間も鈴那はべったり俺にくっついてきていた。
「ずっと後ろにくっついてるんじゃ疲れないか?」
「だいじょうぶ」
「前、座ってもいいよ」
「ほんとっ!」
胡座を掻いた足を指すと、鈴那は嬉しそうにその上に座ってきた。
俺を背もたれにし、ご機嫌そうに鼻歌を奏でる。
「あ、その曲」
「えへへ、おぼえちゃった」
ゲームのBGMを得意げに歌う鈴那。
本当に、大好きなお菓子と悩むくらい楽しんでくれているみたいで、すごく嬉しかった。
「おにいちゃん、つづき、つづき!」
「ああ」
鈴那は俺を人間座椅子にしつつ、続きをせびってくる。
そうして、せがまれるまま、マキオランドをクリア――、
(……したんだっけ。できなかったんだっけ)
さすがにそこまでは思い出せなかったけれど……でも、こんな日々が確かにあった。
鈴那は幼稚園時代のことだし、さすがに忘れているだろう。
でも、彼女が今、マキオを気に入っているのも、もしかしたらこの経験が潜在意識に残っていたから……なんて、それは美化しすぎか。
とにかく、お互いあの頃とは違えど、再びゲームを通して一緒の時間を過ごせたのは良かった。鈴那と過ごした時のことも、思い出せたし。
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