妹と仲良くなるため奮闘する話②
このゲームでは各ヒロインに様々な『属性』が散りばめられている。
ヒロイン・神崎鈴那の場合は、『妹キャラ』、『ツンデレ』、『メシマズ』の三つ。
妹キャラは、神崎栄司の義理の妹であることに由来。
ツンデレは、今俺が受けている塩対応を更に洗練させた感じというか……初対面の頃は主人公に対してもかなり冷たい態度を取ったりしていた。素直になれない感じというか、分かりやすくツンツンしているというよりは、塩対応×照れデレってイメージ。
そして、メシマズ。神崎鈴那を語るに当たって、一番重要な要素はこれかもしれない。
出会ったばかりの神崎鈴那は、先生の許可を取った上で、食材を学校に持ち込み、家庭科室で料理の練習に励んでいるといった感じの女の子だった。
なので、彼女と交流を深めるには、まず家庭科室に通う必要がある。そして、何度か会話をする内に、彼女の料理を試作できるようになるのだが……これが凄まじいランダム要素を秘めている。
というのも、必ず何かしらのマイナス要素を発生させるのだ。
ゲームシステムとして、主人公にはステータスというものが用意されている。ステータスを向上させることで、ヒロインの好感度を上げやすくなったり、場合によってはイベントを見るために、一定以上のステータスを獲得しておく必要があったりする。
そのため、女の子にただ会うだけでなく、自己研鑽の時間を取り、必要なステータスを上げつつ、女の子の好感度を稼ぐという、タクティカルな要素になっていたりする。
そして、神崎鈴那の料理イベントだが、良くて、このステータスの一部が強制的に下降させられる。良くて、だ。
悪ければ強制的に病気にさせられ、数日間スキップさせられてしまう。
ゲームの期間は主人公が転入してくる四月からクリスマスの十二月まで。期間が限られている分、この強制休みは中々に怖ろしい。
タイミングによっては、重要イベントを飛ばされてしまうこともあり、攻略自体が困難になってしまう。
なので、神崎鈴那自体は実に魅力的なヒロインなのだけれど、同時に攻略難度の非常に高いヒロインとしてファン(作品自体にあまりいなかったと思うけれど)の間で評判だった。
……ただし、この『メシマズ』という属性は、ただ攻略を難しくするために取って付けられたものではなく、彼女のストーリーの核心部分を付く要素でもある。
「ただ、現時点でそこを付くべきかどうか……」
忘れてはならないのは、これらの要素は高校生になった神崎鈴那に当てはめられるものだ。
そして、彼女がそうなるに至るには……まさに、現在の彼女がこれからどう成長していくかによって決まる。
その結果の一つが『メシマズ』であり、現在の鈴那には当てはまらない可能性が高い。むしろ『メシマズ』を抱えてしまわないように、彼女を救う必要があるのだ。
「変に触れて、エスカレートさせたらマズい問題だ。今は、汎用イベントとか、デートイベントから彼女の好みを探って、別のアプローチを試すのが丸いか」
念のため、天宮和奏を始め、他のヒロイン達の情報も書き出しつつ、メモ帳を攻略本に仕立て上げていく。
ただし、前世の俺がこのゲームを遊んだのは、約十年も昔のこと。好きなゲームだっただけに思い入れは十分にあるけれど、正直なところ、細かい部分まで覚えているわけじゃない。
しかも、和奏と俺が幼馴染みとして和解したように、ゲーム開始の三年後に至るまでに大小関わらずズレは生じてくるだろう。
参考にしつつも、過信はしない。そう肝に銘じておこう。
「……ていうか、そもそも俺……じゃなくて、神崎栄司は、前世を思い出さなければ、変態ギャグキャラになってたんだよな」
ふと、視点を自分にうつしてみる。
ゲーム内の神崎栄司は、あまりのシスコンぶりに鈴那や他の生徒達からも引かれ、天宮和奏との幼馴染みだったなんて設定もなかった。
和奏とはこの間の一件が無ければ仲違いしたまま関係も自然消滅してたんだろうと納得できるけれど……じゃあ、ギャグキャラに変貌するきっかけって?
「うーん……自分のこととなると、一気に分からなくなるよなぁ」
今の俺は、前世の俺に憑依されたり、頭の中を乗っ取られたわけじゃなくて、記憶を思い出した……なんというか、混ざり合った状態だ。当然、思い出す前までの自分も覚えている……はず。
「そうだっ」
俺はベッドから起き上がり、本棚に向かう。
そういや、俺の最近のマイブームは読書だった。
学校の帰りに本屋に寄って、気になった本を買う。
中学生の、小遣い制の懐事情だから、あまり無駄遣いはできないけれど、案外読書ってのは一冊で長時間楽しめる分コスパがいいのだ。
本棚ってのは、その人の頭の中みたいなものだと、どこかで聞いたことがある。
直近の俺がどういう思考をしていたのか、本棚を見れば一目瞭……然……。
「こ、これは……」
思わず絶句した。
「『クスッと笑わせる絶妙フレーズ100選』、『クラスの人気者になる方法』『本当の自分の探し方』……なんじゃこりゃ!?」
本棚に刺されていた、真新しめの本。
それらは正しく、中学生版自己啓発本と言っても差し支えないラインナップだった。
「うわ……芸能人の自伝とかもある。何を目指してたんだ、俺」
いかにも思春期って感じ。我が事ながら、クラクラしてくる。
これが俺……いや、そうかも。俺、こんなんだったかも。
もうすぐ中学が終わり、高校生になる。そんな思春期の真っ盛りに俺は「俺の魅力ってなんだろう」と分かりやすい壁にぶつかっていた。
もっと人気者になりたい。男子連中と笑い合ってると楽しいし、もっと賑やかせるような存在に、クラスの中心に……みたいなことを、そこまで直接的で無くても、求めていた気がする。
いやいや、バカバカ。お前は神崎栄司だぞ。性格以外文句なしのハイスペック男子だぞ。黙ってればきっとモテるだろって……でも、そうじゃないんだよな。
思春期には二種類ある。モテを目指すか、目指さないか。俺は後者だった。モテなんて気にするのがカッコ悪いっていうか……うーん。
そんな、グチャグチャした、今からしてみれば非っっっ常にどうでもいいことに悩んでいた俺の脳内が、まさにこの本棚。
藁にも縋る思いでしがみついた人生の攻略本の数々だ。
「こんだけグチャグチャな状態で、あんなに可愛い妹がやってきたら、ああいう方向に行くのも無いとは言い切れないな……」
もしかしたら、『突然できた妹と仲良くなる方法』みたいな本も買い漁ったかもしれない。だからこその奇行というべきか……。
「……いや、笑えないな、マジで」
客観視してみれば、誰が書いたかも分からない本に自分を委ねるなんて……と、思わなくもないが、実は前世でも、社会人生活に参りに参った時、縋るように読み漁っていた時期があった。
そんな経験が上乗せされた分……本当に笑えない。
「なんか、本質的に似てるのかもな。前世の俺と、今の俺……」
まさかこんな風に共感をするなんて。
正直言って、全然嬉しくない!!
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