第2話 妹と仲良くなるため奮闘する話
妹と仲良くなるため奮闘する話①
鈴那と真の意味で兄妹になる。それが俺の定めた目標だった。
本当というのは、血の繋がりがどうこうという意味ではなく、互いに信頼し合える家族になる、という意味だ。
ただ、誰かと新たに家族になろうなんて、今生はもちろん、前世でも経験が無い。
とりあえず思いついた端から、これまでの負債を返すためにも、積極的にアプローチすることから始めることにした。
「ただいま、鈴那ちゃん!」
「………………おかえり、なさい」
あ、若干引かれた。
そりゃそうだろう。今朝まで相互不干渉を貫いていた義理の兄が、学校帰ってくるなり笑顔で挨拶してきたんだから。
ちなみにこれまでは、「……よお」「……ども」みたいな必要最低限以下のやりとりばかりだった。今思えば気まずいにも程がある。
「その、今までごめんな。なんか、よそよそしい態度取っちゃってて」
「いえ、栄司さんは悪くないです。私みたいなのがいきなりやってきて、迷惑だって思うのは当然ですから」
「迷惑だなんて、そんなことないよ。ただ、ちょっと戸惑っちゃってただけで……でも、もうそれは大丈夫っていうか、今はもう鈴那ちゃんとちゃんと兄妹になりたいって思ってる」
「そう、ですか……」
真摯に、本心を伝えたつもりだけれど、鈴那は俯いてしまう。
でも、分かっていたことだ。彼女の抱えた痛み、苦しみがどれほどのものか、ただ外から見る以上には理解しているつもりだ。
大事なのはノックし続けること。彼女が心を開いてくれるまで、辛抱強く、関係を繋ぎ続けるんだ。
「だから、まず最初に……これからは、鈴那ちゃんじゃなくて、鈴那って呼ぶから!」
「え?」
「だって変だろ。兄妹なのによそよそしい呼び方なんて。鈴那も俺のこと、お兄ちゃんとか……いや、それは気が早いか。まぁ、栄司さんなんて遠慮したような呼び方じゃなくてさ、栄司って呼び捨てでも良いし」
「う……」
「というわけで、握手しよう! 兄妹になった記念! いやあ、俺、妹っていうか兄弟が欲しかったんだよな。なんか、家の中に同年代の家族がいるってどうなんだろうって――」
「け、結構です! 私、宿題があるので!」
「あ」
俺の差し出した手を無視し、鈴那は自室に駆け込んでいってしまう。
俺は相手のいなくなった右手をぐっと握りこみ、自分の額を叩いた。
「バカ……」
今のは俺のミスだ。調子に乗って、遠慮せずにグイグイ攻めすぎた。
記念なんて言葉も相応しくない。彼女は望んで俺達と家族になったわけじゃないんだから。
「すごいな、主人公は」
たった一年も掛けずに、完全な他人からスタートしてるのに、ゲームの主人公はヒロインである鈴那の心を開いてみせた。彼女の心の傷を名医の如く完治させ、恋人として幸せな未来に導いた。
俺はそれをモニター越しに見ていたけれど、いざ自分がその立場に立たされると、本当に自分にできるのかと不安になってしまう。
「……いや、腐るな。主人公が現れるのは三年後。それまで待っていられるか」
彼の出番を奪ってしまおうというのは、若干の心苦しさがあるけれど、それまで待っていては状況は余計に悪化する。
彼のように鈴那と恋仲になるわけにはいかないが、彼ではなれない兄妹という関係だからこそ、拓ける道もあるはず。
「よし、そうと決まれば対策会議だ」
俺は自分を鼓舞しつつ、自室に戻り、机に向かい、新品のメモ帳を取り出した。
「ここからは、前世の俺の出番だ」
そして、俺はメモ帳に、ゲーム『恋色に染まる坂』の情報を、できるだけ絞り出した。
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