第6話 ランチタイム
わたしが
その間、とりたてて大きな問題はない。セシリアちゃんは元気だし、魔王復活の
今のところは……だけど。
「う〜ん……どっちにしよう?」
お昼ご飯タイム。いつものようにわたしは、食堂で「本日のランチメニュー」をチェックしていた。
やっぱりお昼は「ランチメニュー」が間違いない。
今日は、Aランチが魚系で、Bランチはお肉系。
美味しそうなのはBランチだけど、Aランチのほうがドリンク1杯分安いんだよな〜、見た目もきれいに盛りつけされてておしゃれだし。
わたしは貧乏男爵家の小娘だから、貴族の中の話だけど
でもなー。Bランチが、いい……かな~?
メインが高級ブランド牛のお料理で、前世でわたしのお気に入りだった「牛皿」っぽくてめっちゃ美味しそう!
この学園の食堂って王族や上級貴族のご子息ご令嬢も利用するからか、ホント美味しいんだよね。
わたしが
牛皿か〜、懐かしいな〜。
お米があればもっと嬉しいけど、この大陸ではお米が作られてなくて、希少な食材だからすっごくお高いの。わたしもこの〈世界〉に来てから、お米は食べたことがない。
だけどこの料理、パンと一緒に食べても美味しいんだろうな〜。それにいいにお〜い。
どうしよ? Aランチだって悪くない。周りを見ると、Aランチを食べてる人の方が多い。
だけどやっぱり、わたしはBかな〜?
大多数の生徒が
その背中に、
ドンっ!
「きゃっ!」
ついで、
ガシャンッ
その音でわかる。
(あー、やっちゃったー……)
後ろを気にしていなかったわたしが、誰かにぶつかったんだ。
動いてるつもりはなかったけど、つい動いちゃってたんだろうな。わたしならありそう。
振り返って、
「ごめんな」
ごめんなさいと最後まで言いきる前に、
ビシャッ!
わたしの顔面へと
……お湯? いや、匂いからして紅茶か? どっちでもいいけど、そこそこ熱い液体がわたしの顔を濡らして制服に染みこんだ。
「ちょっとあなた、失礼ですわよ」
手で顔を
どうやらわたし、考えなしに上級生の
そしてぶつかってしまったと。で、お湯だかお紅茶だかを浴びせられたと。そんな感じかな。
さすがにやりすぎじゃないですか? とは思うけど、悪いのはわたしだ。ぶつかるつもりはなかったけどね。
だけど、う~ん……なんか変だぞ?
お紅茶(味で確かめた)を浴びせてくださった先輩と、ぶつかった上級生は別人みたい。
わたしがぶつかった……と思われる
なぜそう思ったかというと、彼女が
わたしと3人の先輩たちの
食べ終わった後?
ふう……ならひと安心。昼食を
……この
「もうしわけございません」
ここは頭を下げておくのが正解だろう。当たり前だけど。
「あなた、そのような謝罪でおすみになられるとお思い!? このおかたはコートバアル
お紅茶を浴びせてくださったのとは別の先輩が、彼女の後ろでたたずむ人を紹介してくれる。
コートば……ん? 誰? 知らない。そんな人〈ゲーム〉に出てこなかったから。
コートバ(略)先輩は上品な感じの綺麗な人だけど、取り巻き(たぶん)のふたりを止めてくれないんだから、きっと「そういう系」の人なんだろう。
あー……でもなー、悪いのはわたしだし。
「ちょっとあなた、どう責任を取るおつもりっ!」
お紅茶先輩(わたし命名)が、わたしの肩を突き飛ばす。それは大した力じゃなかったけど、むしろ非力だったけど、
「うぉっ!」
紅茶で濡れた床がすべって、わたしは自分でも面白いくらいの「すてーんっ!」な感じで転んでしまった。
お尻、イッたっ!
転んで痛がるわたしを見下ろし、コートバ先輩が「にやぁ~」という
それに対してわたしの肩をちょこんと押しただけのお紅茶先輩は、めっちゃ慌てた罪悪感丸出しの顔をしていた。
(え!? そんなつもりじゃないのっ。なんで転んでるの!? ごめんねっ、ごめんなさいっ!)
そんな雰囲気かな。むしろ勝手に転んで申し訳なく思っちゃうよ。
だけどわたしを助けようとか謝罪しようとか、そういう行動はない。なんだか変な動きであたふたしていて、ちょっと面白いけど。
というか、コートバ先輩の悪役全開のニヤけヅラ。
(これ、わざとぶつかられた!?)
だって「
本当のところはわからないけど、な~んかヤな感じのする人たちだな。とくにコートバ先輩。お紅茶先輩はまだアワアワなってて、ちょっとかわいい。
はぁ……わたしはいつか、こんな
気をつけてたけど軽く考えていたんだろう。この国で重視されている、「身分の差」ってやつを。
周りがザワザワなってきた。コートバ先輩は有力貴族のご令嬢っぽいから、
(うーん……どうしよ?)
ちょうど転んでるし、
正直いって、わたしはどうするのが正解かわからなかった。
(でも、まぁ……)
初手土下座。ダメだったら次を考えないといけないけど、思い浮かばないな。だって謝って許してもらえないなら、それ以上できることはない。
とりあえず土下座だ。転んだままのわたしが身体を動かした瞬間。
「ロマリア嬢」
頭上から声が降ってきた。
この声。わざわざ見なくても、誰なのかわかる。
わたしって前世はオタ
誰かわかってたけど確認作業。顔を上げたわたしを見下ろしていたのは、予想通りスノウくんだった。
ホント。正義感が強くて面倒見がいいね、あなたは。
だけど「これはわたしとこの人たちの問題だからすっこんでて」という状況だ。
わたしはお紅茶に濡れた顔で、彼をガン見してやった。
(ここは、あなたの出番じゃない!)
そう意思を乗せて。
だってそうでしょ? わたしだって女子ですからね、男の子に気にしてもらえる、助けてもらえるのはありがたいし、自分にまったく
だから彼に頼るのは、ナシの場面だ。
だけど、
「レイルウッドくん。こ、これは……」
コートバ先輩が取り巻き先輩たちの前に出て、スノウくんに話しかける。このふたり知り合いなの?
彼はわたしの「意思」を読み取ってくれたのか、
「申し訳ございません、コートバアル伯爵令嬢。友人が転んでいたので心配になりまして」
そう言ってわたしの腕を引っ張って立ち上がらせ、
「話のジャマをしてすまなかった」
無表情で言い
あっけにとられる当事者4人(わたし+3先輩)と見物人。わたしは、スノウくんの背中を視界におさめながらソワソワしているコートバ先輩に、
「もうしわけございませんでした。先輩がた」
ちゃんと頭を下げた。
土下座はしなかったけど。
だけどお紅茶先輩、顔面蒼白で唇震わせてるんですけど?
もしかしてこれ、スノウくんが現れた時点で「わたしの問題だからわたしが解決」はなくなってた? 彼の顔見せだけで、問題解決しちゃってたの?
あぁ~っ! だから身分制度社会は苦手なのよっ。
わけわかんないし、気にいらない。
「心より謝罪いたします」
わたしはコートバ先輩に、再度、
これで幕引きにしてもらえないかな? これ以上ゴタって目立ちたくないんだよね。同級生のストーキングを日課にしているものとしては。
わたしの
「これからは、お気をつけあそばせ」
そのようにお言葉がいただけて、3人の先輩がたは去っていく。
優雅とも思える歩きかたでコートバ先輩が、心配そうな視線をわたしに送りながらお紅茶先輩が、もう一人の印象が薄い先輩はごく普通に。
先輩がたを見送ったわたしは、割れたお皿は食堂のスタッフさんが片づけてくれるというので、寮に戻って着替えることにした。
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