乙女ゲームの転生モブ子は、聖女の闇堕ちを阻止したい

小糸 こはく

第1話 異世界転生しました

 わたしの趣味は、マンガやアニメ、それに乙女ゲーム。

 だけど学校では、オタじょを隠して生活している。

 

 学校にいる同じ趣味の子たちは、すでにグループができちゃってて話しかけづらい。わたしって、ちょっと人見知りなところがあるから。

 中学時代。オタ趣味で友人ともめてから、そういうのを公言するのが臆病おくびょうになっちゃった。友達関係って難しいね。


「わたしとあなたは友達です」


 はっきりそう言ってもらえると安心できるけど、「友達だよね? ……え? 違う?」みたいな微妙びみょうな関係は苦手。

 現実リアルにオタともがいないのは寂しいけれど、ネットには話が合う人がたくさんいるから、それでいいってかなって思うようにしてる。


 学校では、話が合う友達は少ない。でも、私生活はそこそこ充実してるよ?

 マンガの新刊発売日や好きなアニメの放送日は、朝からテンション上がるし。

 ネットでしの声優さん情報を追いかけるのも好きだし、趣味と勉強で退屈になってるひまなんてない。

 リア充でも非リア充でも、女子高生は忙しいんだ。


「キミは自分の外見すら気にしないのに、ボクのなにが気に入らないんだい?」


 これは中学1年生のとき、初めて乙女ゲームをプレイしたわたしに投げつけられたセリフ。

 そのキャラはチャラ系で、変に生真面目きまじめだった中1のわたしが好きになるタイプじゃなかったけれど、声優さんの演技力かな? 彼の言葉がココロに刺さって、それからわたし、自分の外見を気にするようになった。

 中1女子でしたからね、オシャレに目覚めるお年頃だったのかもしれないけど。


 とはいえ、自分の外見を意識する。その意識いしき改革かいかくがよかったのか、わたしの生活態度は改善されたし、成績も上がった。


「乙女ゲームが、自分をいい方向にみちびいてくれたっ!」


 まぁ、それがきっかけでわたしは乙女ゲーにハマり、しっかり「オタク街道一直線」になったんだけどね。


     ◇


 街にただよい始めたクリスマスの雰囲気。でも、まだ11月中旬だよ? さすがに早くないか、クリスマス気分。


 行きつけにしている学校最寄駅前の書店でも、いろんな作品のクリスマス限定グッズ予約が始まっている。

 欲しいけど、お金がない。うちの高校アルバイト禁止だし、そもそも両親がアルバイトを許してくれない。

 わたしんはママがお堅い職業の人だからか、家庭環境がちょいきびしめ。成績チェックも厳重げんじゅうに入るし、テストの結果しだいでお小遣いのがくが上下する。


 勉強には厳しいといっても、わたし、パパもママも好きだよ? ちゃんとかわいがってくれるし、生活で苦労したこともない。

 ご飯はちゃんと食べれてる。文房具や参考書だって自由に買える。


 それはね、ありがたいって思う。お金で苦労しているクラスメイトだっているから。

 だから両親になんの不満もないし、むしろいい親だって思ってる。ただ、実力以上の期待をされてるっぽいのは、ちょっとプレッシャーだけど。


 行きつけの書店のマンガコーナーには、


「あった」


 今日発売の新刊コミックが平積みにされていて、わたしはお目当ての作品の前で立ち止まった。

 この作品、アニメ版の主人公が推しの声優さんなの。わたしは声優さん目当てで、アニメから作品に入ったニワカだけど。

 

「どれにしよっかなー♡」


 今回の新刊には、初回限定でシールが付いてくる。シールは全部で7種類あるけど、さすがに7冊は買えない。

 少し迷ったけど、無難ぶなんに主人公のシールが付いているのを買うことにした。


(早く読みたいけど、まずは課題かだい終わらせないとなー)


 会計を済ませて書店を出た直後。

 それは起きた。


 最初は熱。それから、赤。黒。白。


 熱さとはっきりとした色の渦にのみこまれ、わたしはその〈世界〉での命を終えた。




 それからは、よくあるテンプレ展開。

 どうやらわたしは、『女神が魔法を暴発ぼうはつさせて、それに巻きこまれて死んだ』っぽい。


 女神って、なんだそれ? あまりに現実味がない。

 だけど、女神のやらかしに巻きこまれた死者は、わたしを含めて万人単位。死ななかったけどケガをした人は、その倍以上いたんだって。


「ごめん、ちょいミスった」


 から始まる、やらかし女神の言い訳と開き直り。めっちゃ美人さんだけど、全身からポンコツ感がにじみ出ている。

 ここから女神とのやりとりが始まったんだけど、ほぼほぼ無駄な労力だったから省略しょうりゃくするね。

 

「あれもダメ、これもダメ、じゃあどうしろっていうのよっ!」


 って感じだったし。

 話し合いというか確認作業のすえ、最終的にわたしが選んだのは、


「じゃあ、異世界転生にします……」


 だった。


 というか女神の提案ていあんの中には、それしか選べるものがなかった。

 比較的マシなので、


「だから元通りはムリだって。だったらさ、魔竜まりゅうにしてあげよっか。めっちゃ強いよ? 勇者倒すと聖なる武具とかドロップするかもだし」


 そんなのだったし。

 魔竜ってトカゲだよね。さすがにトカゲは嫌だ。それに勇者倒してどうするの、完全に悪者わるものじゃん。


 でもまぁ……異世界転生は最近のトレンド(オタ界隈かいわいでの)だし、このまま人生終了よりマシだからそれで納得するしかなかったけど。


(パパとママに、ちゃんとお別れいいたかったな……)


 もちろん買った本も読みたかったし、明日放送の深夜アニメも見たかったけど。


 ちなみに、女神のやらかしに巻きこまれて死んじゃった人たちは、わたし同様に異世界転生したり、中には魔竜になった人もいたらしい。

 だけど一番多かったのは、「天国に送った人」だったって。


 それはそっか。

 ろくな選択肢なかったもんな。

 

     ◇


 そんな経緯いきさつで異世界転生したわけだけど、それから15年ほどが経過して、わたしは転生したこの〈世界〉に馴染なじんでいる。


 この〈世界〉は剣と魔法のファンタジーふうで、200年ほど前に『聖女が魔王を封印』してから、大規模な戦争もなく比較的平和な時代が続いているらしい。


 でもね、わたしは気がついたの。

 この〈世界〉が、わたしが前世でどハマリした乙女ゲーム、


紅蓮ぐれん聖女せいじょ花束はなたば騎士きし


 ……通称“ぐれたば”の世界設定に似てるってっ!


 わたしが最初にそう感じたのは、まだ幼いころだった。

 物心ものごころがついたとき、少なくとも3歳の誕生日には前世の記憶が戻ってたのをおぼえてるから、それくらいかな?


 まずは国名。

 そして、自分の名前。

 

 わたしが生まれたのはファングル王国。それは、“ぐれたば”の舞台になっている国と同じ。

 そしてこの〈世界〉での名前は、マルタ・ロマリア。身分は男爵令嬢。


 “ぐれたば”には、男爵令嬢のマルタ・ロマリアというモブキャラが登場する。

 モブだけあって出番は少ない。〈ゲーム〉の攻略キャラのひとり「スノウ・レイルウッド」に告白してフラれるだけの、ませいぬ的なモブ子だ。


 だけど、ファングル王国在住の、マルタ・ロマリア男爵令嬢……?

 それって、わたしなんですけど!?


「ここは、乙女ゲームの世界かもしれない……」


 最初は「あれ?」「もしかして?」くらいだったけど、成長するにつれわたしはこの〈世界〉を学んでいき、「もしかして?」は「ぜったいそうだっ!」へと変わっていった。


 だからわたしは、前世で夢中になって遊んだ「紅蓮ぐれん聖女せいじょ花束はなたば騎士きし」の内容や設定を、思い出せるだけノートに書きしるすことにしたの。


「これって、未来がわかるってことじゃない?」


 わたしは「未来」がわかる。

 ここが本当に“ぐれたば”の世界だったらだけど、この〈世界〉で15歳まで成長したわたしには「間違いない」としか思えなくなっていた。


「もしかしてこれ(前世の記憶や異世界転生)は、全部わたしの妄想もうそうかも……」


 そう思わなくもなかったけど、国名や地名、そして歴史。

 それら全部が〈ゲーム〉の世界と同じだった。同じとしか思えないほどに合致がっちしていた。


 こんな偶然ってある? ないよね!?

 ここは『紅蓮の聖女と花束の騎士』の〈世界〉だ。

 わたしは“ぐれたば”の〈世界〉に転生したんだっ!


 “ぐれたば”の主人公は、その名をセシリア・ガーノンという。

 成長して聖女になり、五人の騎士たちと共に魔王と戦う運命にあるけれど、見た目も性格もかわいらしい女の子なの。

 ちなみにセシリアはディフォルト名で、〈ゲーム〉では変更可能だったけど、名前を変えちゃうと声優さんのセリフが不自然になっちゃうから、わたしは変えなかった。


 未来の聖女セシリア。そして彼女と同級生になるマルタが、“ぐれたば”の舞台聖セント・アリュー学園に入学するのが大陸歴800年。


 そして今、現在。この〈世界〉は大陸歴800年を迎えたばかり。

 ということはわたしは、マルタ・ロマリアはあと数ヶ月で、貴族や王族、そして国が認めた優秀な人材だけが通えるセント・アリュー学園に入学することになる……はず。

 実際、入学する方向で話が進んでいるし。


 もうすぐ始まるんだ、“ぐれたば”のストーリー展開が。

 わたしの異世界ライフは、きっとここから始まるんだっ!

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