片思いの相手は復讐すべき男の異母兄弟だった
すどう零
第1話 還暦間近の恋の相手は三十代携帯ショップ店長
私、まどかは還暦間近。
同年代には、長老と揶揄されながらも、まだまだ活躍している大御所が存在する。
私は、あまり恋愛体験もない未婚女性である。
といっても、そんな人は私の周りにはいくらもいる。
私も含めてシングルマザーになる自信がないから、結婚をためらうという慎重で堅実(?)な女性もこの頃は少なくない。
といっても、男性に縁がないわけではない。
自分でいうのもナンだが、中学三年のときは、クラスの男子の間では「まどかファンクラブ」なるものもあったし、高校生になると、ガールハントされるようになった。
もちろん、今みたいに売春目的の立ちんぼじゃない。
たいてい「今、何時ですか?」と時間を聞くふりをして「お茶でもどうですか?」と声をかけてくるが、もちろん「いいえ」と断っていたわ。
なかには、変なナンパの仕方もあったなあ。
私がカウンターでラーメンを食べていると、ちろりちろりと横目で注目してくる男性がいた。
変だなと思いつつも、勘定を済ませて店を出て、歩いて五分のデパートへ行った。
すると、さっきの男性が
「さっき、ラーメンを食べてたでしょう。そのとき、傘が僕の靴に当たったんですね。革靴じゃなかったから、メチャクチャ痛かったわ」
えっ、私、傘でその男性の靴にあてた記憶はない。
もしそうだったとしたら、その時点で「傘があたって痛いから、のけて下さい」と言うはずである。
まあ、しかしここは社交辞令で「すみません。お怪我はなかったですか」と謝っておいた。
すると、その男性は急にニヤリとして
「ねえ、そんなことよりも、お茶でも飲まない?」
もちろん、私はその時点で去ったけどね。
女性というのは、常にどこかで見られているものだと痛感したわ。
だから、滅多なことはできない。
私の経歴は、専門学校を卒業して、OL歴十一年を経た後、飲食店勤務を五年程体験したあと、肉体労働をしながら両親の介護を負え、両親を見送ってから十年以上の月日がたった。
母親は身体が弱かったので、家事は私が全部引き受け、母の死後三年は認知症になってしまった父親の介護をしていたの。
朝から大便のついたおむつの交換、ときどき私に暴力を振るいながらも、ディサービスに通っていた。
しかし、亡き父親が内側から不必要な鍵をかけ、私は入れなくなってしまったこともあった。
そんなとき、近所の奥様方三人に頼んだら、なんとか父親が鍵を開けられるようになったわ。
近所の人は大切にしておくべきね。
遠い親戚よりも、近くの他人というものね。
今でも、近所の人に就職や結婚のときの聞き合わせがくるというわ。
ときには、植木の葉が庭に飛んでくるけど、それもグリーンのお裾分けだと思うことにしているわ。
まあ、近所の人はお互いに助け合うのが、世渡り上手ですね。
私は幸い、働くのが好きだったし、特にセクハラ、パワハラに悩まされることもなかった。
というよりは、そう派手な企業に勤めていたわけではなかったというのも、要因だけどね。
二十歳を過ぎてから「なかなかの美人」と言われるようになっちゃった。
私は肌が弱くて化粧ができないけれど「スッピンでこのフェイスとは大したものよ」と言われたときは嬉しかったけど、美人薄命というように、女を利用しようとするワル男が存在することは、いつの時代でも周知の事実である。
まあ、反社の手にひっかかったら人生終わりだけどね。
反社って執念深く、ストーカーの如く、どこまでも追いかけてくるというものね。
悪党はまず、女性にすぐ暴露する恐喝まがいのことをさせ、悪者のレッテルを貼られ、誰からも相手にされなくなった孤独状態に陥らせ、風俗落ちを企む。
ホストが原因でそうなるケースもあるけれどね。
私も、今から十五年前、ホストブームだった頃、通ったものよ。
その頃は、今みたいにバックに闇の組織が貼りついているわけでもなし、一回行くたび六千円どまりだったわ。
私はなぜか、息子みたいな年齢のホスト君に、悩み相談をされることが多かったわ。
まるで仕事から帰ってきた母親を待ちわびるように、初対面の私に悩み相談を持ち掛けてくるの。
その一例を紹介しますね。
ホストクラブは、まずホスト君が一人五分の割合でトークして、最後に客が気にいったホストを指名するの。
私が最初に通った大型店舗のホストクラブで知り合った、イケメン君の話。
中学二年のとき、自営業をしていた父親が連帯保証人になって行方不明になり、現在は母子家庭状態。
本人は、高校を卒業し美容学校を卒業する予定であるが、美容院のインターンというのは極めて給料が安いので、しばらくの間、この店に勤めて貯金するつもり。
という事情だから指名よろしくと、なかばすがるような悲痛な表情で言われたが、あいにく私は、世間にはよくあるつくり話、いくらイケメン君でもそんなものに引っかからないわよと、彼を指名しなかった。
あとからわかったことだが、それはつくり話ではなくて、実話だったんだよね。
彼のすがるような悲痛な表情も演技ではなかった。
当時指名した担当が辞めた後、私は彼を指名したけどね。
でも、彼はそのときは、既に人気ホストだったから、なかなか席にはついてくれなかったけどね。
あとホスト君の、いろんな不幸な家庭パターンを聞かせてもらったなあ。
建設業を経営していたが、借金取りに追われるようになり、拒食症になったが、妹を養うためにホストになったが、酒が弱くてすぐ真赤になるというホスト君。
まあ、女性客もたちの悪いのがいて、ホストの敵テキーラを無理やり飲ませようなんていう、ホストを奴隷扱いする女性客もいるそうね。
私は飲むのはいつもウーロン茶だから、ホスト君にとっては安全パイ、信用できる母親のようにうつったのかもしれないけどね。
私の席だけは、休息の場である喫茶店と言ってくれるホスト君もいたわ。
いや、それ以前に私を見るなり、深刻な悩みを打ち明けるホスト君が多い。
これだったら、どちらが客かわからないな。
もしかして、私のなかの母性本能を見抜かれているのかな。
実家は建設業を営んでいたが、不況になって借金取りから追われるようになってしまい、妹と共に拒食症になってしまったというホスト君。
また、三十歳くらいの年輩ホストであるが、引っ越し業の仕事をしていたが、警察沙汰になり逮捕されて以来、子供にも合わせてもらえない。と涙ながらに訴えるように言ったホストもいた。
「泣くでえ」と悲痛な合いの手を入れるのだった。
その上、先月の給料明細書には赤字伝票18万円と記載されていたという。
要するに、女性客のつけを踏み倒されたということなのだ。
たいていの場合、ホストは跳ぶ(行方不明になる)ことが多い。
まあ、こういったつけを踏み倒す女性客がいるから、悪質ホストも増加するのかもしれない。
もうこの頃は店ぐるみで、女性客が来店した時点からホスト兼スカウトマンから「この女性客は、グラマーだからセクキャバに売ってしまおう」と企むという。
クローズアップ現代でも取り上げていたが、店ぐるみで
「肝臓を売ってこい、お前が五体不満足になろうと俺たちの知ったことか。外国へ行って死ぬ気で働け」などというホストも存在するという。
まあ、バックには闇の団体が控えているのが事実であるが。
まあなかには、ちょっぴり微笑ましいホスト君も存在していた。
母親がキャバクラ嬢で十七歳のとき出産した子供で、ホスト本人は中学も半分しか通っていないが、母親には感謝しているという。
それとは別に、一流大学の大学生ホスト君もいた。
ホスト雑誌に掲載されるほどのイケメン君だった。
しかし残念ながら、大学四年のとき、内定していた一流企業を取り消されたという。やはり、ホストの経歴が原因なのだろうか?
今もって真偽のほどは定かではない。
当時といっても、今から十五年昔だけどの私は「先生」と呼ばれていた。
さしずめ、若いホスト君に知識を与える教師的な存在だったのだろうか?
まあ、平和で健全な時代の昔のホスト話だけどね。
現在は、闇の組織がバックに控え、黒いイメージがついてしまったホストクラブからは考えられない平和でハッピーな時代だったな。
もう、あのような牧歌的な時代には戻れないだろうなあ。残念なことです。
話を元に戻そう。
私は働くのは好きだったけどね、ある有名飲食店に勤務しているとき、ギャンブル狂の雇われ店長に、わなにかけられてしまったの。
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